小夜子 やっかいものとなる
えーと、そりはなぜかと言うと生ける屍の活動エネルギーの精気の摂取のためであるわけで、まぁ別にその性行為を楽しんでなかったかというと、そりゃまた嘘になるわけなんですけど、さてさて、そして二人はどうなったか、気になるところではございますが、べべんべっ、べんっ! 続きはまたのお楽しみということで…」
「またのお楽しみじゃないでしょっ!!」
「ううっ、頭グリグリしないでくださいよぉ、えーっとですね。ようするにあまりの超淫乱さに文字通り精も魂も尽き果ててこのままじゃ自分の生命がヤバイかなっ、と思った結城博士に愛想尽かされて捨てられたところを源十郎さんに拾われたと、そういうわけでですね。いーかげんに離してくださぁーい。いたいですーっ!!」
「生ける屍に痛覚なんてあるわけないでしょっ!」
「そんなことありませんって、そういう肉体を物理的に維持するための情報は再構築されるんですって、ほんっとにほんとに痛いんですってば」
「ま、そこらへんでやめておけ神無、ようやくその周辺の修繕が終わったところなんだから、な」
「マスタぁーっ!」
*
「どーして、マスターは余計な者を拾ったりとかもらったりとか押しつけられたりとかするんですかっ!!」
それが彼のよさだと認識していながらも憤懣やる方もないといった風情で神無と呼ばれた黒髪の少女が叫ぶ。
「…、すまん、な」言われたほうの男、長身痩躯の丸眼鏡の男は さきほどから途切れもなく続く少女の不満を聞き流しつつ人体を縫っていた。
能登 源十郎は人形師である。それも代々限りなく人間に近しい人形を創ることを目的とした人形師”源十郎”の名を継ぐ者である。そんな者にとって生ける屍を修繕する事など 何も無い所から人体と同じ人形を造り出す事にくらべればはるかに容易な作業ではある。
「zzzzzz……」縫われている人体、小夜子と名乗った生ける屍はその騒音の中、心地好い眠りに入っていた。ときたま思い出したかのように寝言を言う彼女を目の当たりにすると”活ける屍”という呼称は確かに適当な気がしてくる。
「だいたいですねぇ、源十郎様は お人が良すぎるんです。今までだって関わらなくていい騒動にどれだけ巻き込まれたと思ってるんですか…、その度に、マスターと私しとの甘美な時間がどれだけ浪費されたと思っているんですか」
「zzzzz………」
「…、マスターの浮気者っ!!」
いつも通りそれが神無の最後の文句だった。
「さーってとっ、それじゃそろそろ私も本格的に手伝うとしますね」
「ああ、頼む」
「まーっ かせなさいっ!!」
「…、ところでこの娘、やたらと豊満な胸してますね、…多少削っておいといちゃダメですか?」
「……」




