君に永遠の愛を
「気分は」
「…あ?」まどろみの中、老人はここ数十年出した事のない間抜けな声を目の前の青年に向けて発してしまった。この無礼な若者を一喝しようとしたが声がでない、いや、声ばかりか、身体の自由も利かない、恐怖が彼の思考を支配した。
「人形師 源十郎、それほどまでに望むのであれば、不老不死の秘技、その身に授けてやろう。もともとあれは我が一族から流出したもの。人という器を捨て去る気があるのならば、だがな…」
青年の発した言葉がゆっくりと老人の脳裏に浸透してゆく。彼はただ黙ってうなずいた。たとえそれが悪魔に魂を売る事と同義だとしても彼は構わないと思った。妙にぼやけた視界の中、彼は頷いていた。
次に目覚めたとき『秘法書、Magi Drum、人の魂を人形へと移す法、そして人形は人形の法に縛られる(したがう)もの。その法に縛られ永劫に生き長らえるが良い』その声が脳裏に響き渡ると同時、男達は自分たちの望みが不完全ながらも叶えられた事を知った。
*
「そうか、という事は彼女は”小夜子”ではないのか」ため息と、やはり、という思いがないまぜになった表情で博士は彼女を見つめる。
「残念ながら、な。死んだ者は二度とは還らぬよ」
「えーと、という事はわたしは一体誰なんでしょうか?」と見つめられた彼女は小首を傾げながら問う。
「小夜子、さ」
「…なぁ、小夜子、…なんで助けに来たんだ。僕は君を文字通りに捨てたんだぞ、それなのに…、」源十郎のその言葉に何かを決心して博士は小夜子を見つめる。
「だって私、脳ミソカスカスな女ですから そんな事、忘れちゃってしまっていましたぁ」
「…すまない、僕が間違っていた。君はもはや僕の愛した小夜子ではないけれど、今ここで、あらためて君に僕は永遠の愛を誓う!!」