マギ・ドラム
気づけば、自分の肉体の表面がカビのような茶色い物体に覆われるようにして変色してゆき、ぐずぐずと腐臭を吐き出していく、恐慌状態に陥いった男達の一人が彼女に向けて引き金を引いた。そして彼女の肉片が飛び散り、近くにいた男達に付着する。悪夢のような連鎖反応が続きその場にいた男達のだれもがその場にくずおれていた。「ヒィ、くるなぁ、こっちへくるなぁ、銃は使うなぁ、うわぁぁぁ、飛び散るぅぅっ!!」
阿鼻叫喚の地獄絵図が展開され、全ての男達が倒れ伏した中に一人の男がゆっくりと現れる。そして、小夜子の身体に無造作にその手を埋没させるとその身体から一つ目の不格好な人形を取り出すと、ぼそりとこう言った。「幻灯人形 多事見、さすがに五感を伴う幻覚は強烈だろう」
「君が、源十郎君か、助けてくれた事には礼を言うが、早くこの場を去りたまえ、感染するぞ」入って来た長身痩躯のその男を見もせずに博士は言う。
「心配ない、あの秘法書は一族から流出したものだ」
「そうか、という事は」ため息をつきつつ博士が見上げるようにしてその男に尋ねる。
「処置、しておいた」小夜子さんの肉体を修繕しながら、極めて無表情に青年は答える。
「彼女と一緒の生を歩むことを先程決心したばかりだが、正直な話、自分が小夜子のようになくて良いと知って、ホッとしている」彼にというよりも独白するように博士は言った。
「御主人様っ、こっちの処置終わりましたぁ」言って一人の黒髪の少女が青年の側にと駆けよってくる。
「なるほど、これが神無か、彼女に使われている秘術を小夜子に使わせてくれと言っても無駄、なのだろうな…」羨望の眼差しで一人の男が創り上げた生き人形を見つめる。
「神無がここに存在という業をのぞく気があるのなら、考えても良い」答えは希望を含む絶望で返された。
「…やめておくよ、”Magi Drum”ですら僕の手には余る」源十郎の顔をしばし覗き込み、博士はあきらめたようにそう弱く笑った。