プロローグ
CAUTION!
これは決して死者を冒涜するお話ではありません。
目覚めると、そこはゴミ置き場だった。そういえば今日は|月曜日(生ゴミ)の日だったなぁと、のほほんと彼女は考えた。
−某月某日某所での会話−
「間違い、ないのだな」
光さえもどこかに吸い込まれてしまったような薄暗いその部屋で、その部屋の主とおぼしき一人の老人がぬめりと呟いた。
「はい、確かです」
目の前の男は表面上は老人の妖怪じみた眼光を真正面から受けとめると、それだけを端的に言った。
「そうか、…それで」
「現在、確保に三人ほど向かわせております」
老人の言わんと欲することを正確にくみ取ると男は答えた。
「…」用は終わったといわんばかりに、老人はとさり、と豪奢なベッドに横たわった。
「それでは、」
「…、わかっているな」
「私は、不老不死などというものに価値を見いだせません」
背中にかけられた声に男は迷いもなく答えた。
「世にこれほどの悲願はあるまいよ」
「時は、うつろいやすいものです」
「…、人の心もな」
しばしの沈黙が二人の間に舞い降りた。
「…、行け」
「仰せのままに」
−人造人間現る−
その日 能登 源十郎は不意に足首をつかまれた。
結果、彼は焼けつけるようなアスファルトの地面と不本意なる接吻を交わすはめにおちいった。
「あうぅうー、お願いですからぁ、お、お おちついててくださぁああいぃーー、なにがあっても起こってもびっくりしたりしないでくださぃぃー、ヒック、悲鳴なんかとかもあげないでくださると素敵ですぅーー、ウ、エッグ、気絶とかもしないでくださぃぃー、お願いして頼みますから一生逃げないでいてくださぃぃー。うぅぅ、生卵なんかとかもぶつけないでくださるとおありがとうございますですぅぅー、おねがいしまずでずまずがらぁーー、ううううっ……」
腐った肉の匂いを漂わせる、死んだ魚のような目をした女。
それが自分を地面に転がした女性に対して抱いた能登 源十郎の第一印象だった。
日本人形のように短めに切りそろえられたおかっぱ頭に、緑色のカチューシャをのせ、上半身だけで冗談のように転がっているメイド服の女。それが彼女を観察した結果 抱いた彼の彼女に対する結論であった。
「あううぅっ、お願いして頼んでみますから気絶しないで下さあぁいよぉぉぉーーーっ」どうやら呑気に彼女を観察する源十郎が目を開けたまま気絶したものだと思ったらしい。まぁ、活きのよい内臓を飛び跳ねさせながらすがりついてくる生きている死体なんぞと、その肉体の発する腐臭とともにご対面した日にゃ、すみやかに現実逃避を決め込むのが、まっとうな人間としてとるべき態度ではあったろう。が、彼 人形師 能登 源十郎はいささかまっとうな人間の集合から、はみ出しぎみと言われていた。