1:プロローグ
―――最果ての、名もなき島。その島の中心部にある大きな穴の上に、黒い蝶が舞い降りた。
謎の爆発によって大きな穴が穿たれたこの島の上に降り立った幻の黒い蝶。全ての災厄が終わり、生き残ったほんの僅かな人間が後世に語り継いでいった話の中に登場する、可憐で恐ろしい少女の話である。
事の始まりは、この地球という惑星に、魔法という全てを捻じ曲げる、偉大なる、そして愚かなる力が生まれたことだった。
これによって、戦争で銃を撃ち合う時代が終わった。魔法で簡単に銃弾が防げるようになったこの時代において、銃はただのガラクタとなってしまったのだ。強さを渇望した愚かなる人間たちは、遂に戦争に魔法の力を使用し、戦争は魔法での殺し合いへと変わった。
誰が魔法という力を生んだのか、そんなことを知らずに、平気で人殺しの道具として魔法を行使する人間。
それを許さない存在が、一つだけあった。
遙か最果ての、戦いとは無関係な名もなき島。そこに一人で暮らす、純白の羽を持つ黒髪の少女。彼女はただ、魔法によって今も消し去られていく命を嘆き、そして魔法を行使する全ての人間を、憎んでいた。
―――魔法は平和をもたらさない。全てを滅ぼし、無に帰すのみ。
―――ただそれが、本当の平和の答えかもしれない。
少女は西に沈みゆく夕陽に向かって、祈った。
この世界から魔法という力が消えることを。いや、全人類が滅ぶように、と。