表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

現代恋愛の短編作!

ヤンチャなくせに、私の前ではデレる君

作者: 葉月いつ日
掲載日:2026/02/06

 正直に言えば、私は彼が苦手だった。


 山科龍河やましなりゅうが

 金髪気味の髪色、だらしなく着崩した制服、授業中でも平気で居眠りする態度。


 他校との小競り合いに首を突っ込んで、頬に絆創膏を貼って登校してくるのは日常茶飯事。


 廊下を歩けば、下級生がサッと道を空け、厳しい生活指導の先生でさえ「またお前か……」と頭を抱える。


 休み時間、教室の窓際で仲間とバカ騒ぎしている彼の周りには、いつも近寄りがたい刺々しい空気が漂っていた。


 ──どう見ても、関わらない方がいいタイプ。


 それが、入学当初の私の評価だった。


 山科くんと話すようになったのは、ほんの偶然だ。

 放課後、図書委員の仕事で残っていた私が、誰もいないはずの図書室で本を片づけていると、予備棚の奥から大きなあくびが聞こえた。


「……あ、やべ」


 顔を出したのは、まさにその“苦手な彼”だった。


「ここ、立ち入り禁止なんだけど……」


 恐る恐る注意すると、彼は一瞬きょとんとした顔をして、それから頭を掻いた。


「わりぃ。寝てた」

「寝てた、って……」

「騒がしいとこ苦手でさ。ここ、静かでちょうどいいんだよ」


 拍子抜けするほど、素直な声だった。

 その日から、図書室で山科くんと顔を合わせるようになった。


 クラスではあんなに騒がしいのに、ここでは別人みたいに静か。

 私が本を運んでいると、黙って手伝ってくれるし、重そうな箱があれば何も言わずに持ってくれる。


「……意外だね」

「なにが?」

「もっと乱暴な人かと思ってた」


 そう言うと、彼は小さく笑った。


「それ、よく言われる。でもさ」


 少し間を置いて、私の方を見る。


「ここでは、カッコつけなくていい気がするんだ」


 心臓が、変な音を立てた。


 それからだった。

 山科くんが私の前でだけ、よく笑うようになったのは。


 名前を呼ぶ声が、少しだけ柔らかくなったのは──。

 他の女子には見せない表情を、私だけが知っていると気づいたのは──。



 ◇



 学校中が、これまでにないほど騒然としていた。


「あのさ、聞いた?」

「警察まで来たらしいよ……」


 廊下のあちこちで飛び交う噂話。

 山科くんが他校の生徒数人と派手にやり合い、相手に怪我人まで出たという。


 下手をすれば退学、あるいはそれ以上の事態——。


 そんな物々しい空気の中、私はいつものように放課後の図書室で、返却された本の整理をしていた。

 静寂が、今日に限ってはひどく落ち着かない。


 その時、重厚な木の扉が、重々しい音を立てて開いた。

 入ってきたのは、山科くんだった。


 その瞳は、まだ興奮が冷めていないのか、野良犬のような鋭く険しい光を宿している。


 あまりの気迫に一瞬息を呑んだが、彼が私と目を合わせた瞬間、その鋭さが嘘のように霧散した。


「……あ」


 彼はバツが悪そうに視線を泳がせ、パッと顔を背けた。


「怪我……大丈夫?」


 恐る恐る尋ねると、山科くんは止まっていた足をようやく動かし、私の隣までやってきた。


 机の上に置かれた彼の拳は、あちこちの皮が剥け、数箇所の絆創膏が無造作に貼られている。


 大きな手のひらが、微かに熱を帯びているのがわかった。


「ああ……このくらい、大したことねぇよ」


 ぶっきらぼうにそう言うと、山科くんは力なく椅子に腰掛けた。

 どうしてそんな無茶をしたのか。

 問いかけると、彼は少しの間を置いて、ぽつりぽつりと話し始めた。


「……後輩がさ。ゲーセンで他校の連中に捕まって、財布とスマホ、全部持ってかれたって泣きついてきて」

「それで、一人で行ったの?」

「……ああ。ああいう奴ら、誰かがガツンと言わねーと調子に乗るだろ。……やりすぎたのは反省してるけど、あいつの怯えた顔見たら、身体が動いてたんだわ」


 山科くんは頭を掻いて、自嘲気味に笑った。

 学校中が“ヤンチャな問題児“だと彼を恐れている。

 けれど、誰もその裏側にある、真っ直ぐすぎるほどの正義感を知らない。


「警察沙汰にまでなって……怖くなかった? 停学じゃ済まなかったかもしれないのに」


 そう聞くと、山科くんは私をじっと見つめ、それから観念したようにふにゃりと眉を下げた。


「それ、マジ思った。停学になったら、ここに来れなくなっちまうからさ。それだけは勘弁だったわ」



 ◇



 卒業式の日。

 体育館の隅で、私は一人、山科くんを探していた。


「……いた」


 校舎裏。

 ネクタイを緩めて、いつものように壁にもたれている彼。


「卒業、おめでとう」


 そう言うと、山科くんは照れたように視線を逸らした。


「お前もな。……なぁ」


 少し迷ってから、彼は私を見た。


「俺さ。ヤンチャで、面倒で、評判も悪いけど」


 深呼吸して、続ける。


「お前の前では、ちゃんとしたいって思った」


 ──胸が、ぎゅっとなる。


「だから……これからも、一緒にいてほしい」


 返事は、最初から決まっていた。


「うん。……私も」


 彼は安心したように笑って、少しだけ近づいた。


「なぁ?」

「なに?」

「やっぱ俺、お前の前だとデレるわ」


 そう言って照れる彼を見て、私は思う。


 ──ヤンチャなくせに。


 でも、そんな君が──大好きだ。



              〜〜〜おしまい〜〜〜




貴重なお時間を使ってお読み頂き、本当に有難うございました。

興味を持って頂けたならば光栄です。


作者のモチベのために☆やいいねを残して頂くと幸いです。感想などもお待ちしております。

ブクマ頂けたら……最高です!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ