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聖女の私にできること  作者: 三ツ陰 夕夜
第一章 聖女転生

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第七話 お誘い

 その患者さんは、園田(ソノダ)さんという名前で、木村さんの弟子の一人なのだそうだ。

 お侍さんのケンカ中に、怪我をした方を治療しようとした木村さんをもう1人のお侍さんが切りつけ、先生を庇った園田さんが切られてしまったということだったらしい。

 私が別室で少し休ませてもらっている間に意識を取り戻した園田さんは、医師というより武士に見えそうな四角い顔のおじさんだった。

「このご恩は一生忘れませぬ」

 体はまだ起こせなかったが、しっかりとした口調には生気がみなぎっているようだった。

「本当になんとお礼を申し上げたら良いのか」

「木村さん、もうそれはいいですって」

 この力でお礼を言われるのにも多少慣れてきていたが、さすがに何度も頭を下げられると居心地が悪くなってしまう。

「医師の先生たちだって毎日誰かを治療して誰かの命を助けてるじゃないですか。私も私にできることをしたまでですよ」

 謙遜ではなく、本心からそう思っているのだ。

 人にはない力を持ってはいるが、ただ貰って使っているだけ。私なんかより人を助ける為だけに沢山勉強して努力している木村さん達の方が断然凄いと思ってしまう。

「聖女殿に、提案、と申しますか、お願いがございます」

 ようやく頭を上げてくれた木村さんは、怖いくらい真剣な顔をしていた。そしてその目には、覚悟の色があった。

「あなたのお力をこの医療所でお使いいただきたい・・・!」

 何となく、そう言われるのではないかと言う予感はしていた。こんな力を持っている人間が放っておいて貰えるはずもない。

 より多くの人を救えるというのは、私に取ってみれば大きなメリットだし、専門家の下で力の解明をしていけるのはありがたい。断るのが不自然なくらいだ。

 ただ・・・。

「少しだけ考える時間を頂けませんか?」

 彼の誘いに答えるにあたって、ひとつだけ、私には心残りがあった。



 木村さんにいつもの大通りまで送って貰うと、そこからはひとりで歩いた。

 「聖女さま」と声をかけてくれる町の人たちに手を振りながら、お福さんの店に入る。

「お福さん、ただいま!」

 机の上で、朝は食材だった物達が今は美味しそうな料理へと姿を変えていた。

「おかえり!遅かったんじゃないかい?」

 もう仕込みを終えてしまったのか厨房からひょっこり顔を出したお福さんは、早めのお昼ご飯だったらしい。

「ちょっと色々あって。あの、後で話してもいい?」

 上手く言えなくて、中途半端な言葉になってしまう。こういう時に取り繕うのは苦手だ。

 そんな私に何かを察したのか、厨房から出てきたお福さんは三角おむすびが山になったお皿をいつもの座敷席にドンと置く。

「まずはご飯!大事な話なら食べながら聞くからね!」

 彼女のこういう豪気なところにはいつも救われる。

 まるで本当の娘にでもなったかのようなくすぐったさを感じながら、私はお福さんの向かいの席に腰を下ろした。



 私の抱えていた心残り。

 それはお福さんのお店の手伝いが出来なくなるということだ。

 最近の店はお客さんが多すぎて完全なセルフサービス状態とはいえ、私が働かなくなってしまうとどうなるかは予想がつかない。

 木村さんに医療所に誘われたことと一緒に、そういった心配事を全て正直にお福さんに話した。

 お福さんは、うんうんと相槌を打ちながら聞いてくれた。そして私が全て話し終わると一言だけ口を開いた。

「それで、あんたはどうしたいんだい?」

 その一言が、彼女の私への愛の証明だった。

 お福さんは、私みたいな記憶も定かではない怪しい人間に衣食住を与えてくれて、その上私の意思を一番に尊重してくれているのだ。

「私、医療所で働きたい」

「そう言うと思ってたよ」

 お福さんは微笑みながら私の頭をぽんぽんと撫でた。

 元の世界の母親にだって、こんなに優しくされたことはなかったのに。

「あんたのその力はきっとたくさんの人を救うためのもんだ。やろうと決めたならやれるだけ頑張ってきな」

 堪えきれずに涙が溢れた。日が出ている時間に別のところに働きに出るだけと言ってしまえばそれまでだが、知らない世界でずっとそばに居て色んなことを教えてくれたお福さんの存在は、私の中で精神安定剤のように重要なものになっていたのだ。

「言っとくけど門限は厳しいからね。そこはちゃんとあちらさんにも伝えておくんだよ」

 「うん」と頷くと、急に恥ずかしくなってきて、泣きながらだと言うのに笑いが込み上げてくる。

 お福さんもつられて笑ってくれたから、なんだか医療所でも頑張れそうな気がした。

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