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聖女の私にできること  作者: 三ツ陰 夕夜
第五章 相愛

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第四十六話 一夜が明け

 目を覚ますと、涼やかなのに男らしい双眸が私を覗き込んでいた。

 愛おしげな僧正様の笑みに、昨晩の自分の痴態が脳裏に蘇る。

「起きたか」

 返事をせずに顔を逸らそうとしたが、それより早く唇を奪われた。

 ゆっくりと、焦らすようにキスをされると、お腹の奥が切なくなってしまう。

 足を絡まされ、逃げることもできない。

 こんな時間から何をやらかしてくれるのか。

「っ、朝ですよ・・・!」

 外からは鶏の声が聞こえている。夜と勘違いしたなんて言い訳は通じない。

 今が何時かは分からないが、そのうちお美代さんだって起こしに来るというのに。

「そなたが先に寝てしまったゆえ」

 僧正様は、拗ねたように唇を尖らせた。

 可愛い仕草に不覚にもキュンと来てしまったが、だからと言って朝っぱらからそんなことをするなんて、それはさすがに無理だ。

 お尻に伸びてきた手をペチンと叩く。全く油断も隙もない。

 ならばと、今度はキスが落ちてきた。

 さっきよりも甘く、優しく重なる唇に、早速油断してしまって・・・。

「・・・!」

 なんと、僧正様の舌が、口の中に入り込んできたのだ。

 いつの間にか顎を掴まれていたため、本気のキスにされるがままになってしまう。

 昨夜の余韻が思い起こされ、苦しさの中に熱い快感が湧き上がってくる。この人、本当に手慣れ過ぎじゃない??

 重なっていた口が離れ、見つめ合う。

 まるで情欲の手綱を握られているような、怖いくらいに愛おしい気持ちがあった。

「すみれ・・・」

 囁きながら私を撫ぜる僧正様の手を受け入れた、その時だった。

「道明僧正様!朝でございます!」

 聞きなれない少年の声が響いた。

 僧正様のお小姓さんだろう。私の部屋に起こしに来たということは、つまりまぁ筒抜けということだ。

 ・・・恥ずかしすぎる。

 僧正様は煩わしそうに溜息をつき、声のした方をチラリと見た。

 そんな、急な大人の色気に少しだけドキドキしてしまう自分が憎い。

「分かっておる」

 お坊様の朝は早いらしい。もうお務めの時間なんだろう。

 ほんの少しだけ、残念な気もするが。

「今日は体調が優れぬゆえ、正午にまた参れ」

 隣の人から聞こえて来た言葉に、我が耳を疑った。

 嘘をついたのだ。いい歳の大人が、僧正様ともあろうお方が。

 堂々と、女の子といちゃつきたいがために、嘘をついたのだ。

「・・・承知致しました」

 どう聞いても体調が悪い人の返事ではない。なのに、お小姓さんが困惑しながらも下がってしまう。

 え、待って、この人連れて行って・・・!

 お小姓さんの足音が聞こえなくなると、邪魔者が居なくなったとばかりに、僧正様は満足そうにこちらを向き直った。

 私は、抗議の顔で受け止めてやった。

「僧正様って女癖が悪いんですね」

 苦々しい言葉が口をつく。プレイボーイなお坊様なんて聞いたことがなかったが、この手慣れ方はもう数多の女性を泣かせてきたに違いない。

 顔が良くて手馴れていて、特定の相手がいないなんてそれはもうどう考えても女の敵だった。

 本気でそう思っていた。というのに、彼は不快にも笑い声を上げた。

「ハッハッハッ!そうか、そのように思うのか」

 法衣を脱ぎ、声を上げて笑う時の僧正様は、ただの年相応の男性にしか見えなかった。

「昨夜も申したが、おなごと肌を重ねるのはこれが初めてよ」

 なんて仰ってるけど、絶対に嘘だ。まともな性教育もされてなければ禁欲の生活を送っているはずのお坊様だ。知識がないなら経験で補うしかないに決まっている。

 しかも何より、この方は本当に見目麗しい。

 お坊様であっても呼ばれれば女の子はホイホイ着いていくだろう。

「そなたが私の夜の所作にもグッと来てしまうのではないか?」

 急に艶めかしい色を帯びた目に捉えられ、またドキリとしてしまう。

 そんなことは無いと信じたい。が、この瞳の前では何をされても受け入れてしまいそうな、そんな魔性があった。

 いや、待てよ。もし仮にそうだったとしても原因は彼にあるはずだ。

 私がチョロいと言うような言い方をしているが、要はこの色気の塊のような魔物の存在が悪いのだ。

 顔が赤くなっている気がするが、かまわず恨ましげな顔でその魔物を睨みつける。

 何かしらの文句を言ってやろう。そう思ったところで、隣の部屋に続く襖が開いた。

「姫様!朝でございます!」

 お美代さんだった。

 見られた。見られてしまった。見られてしまった・・・!!!

「あ!し、失礼いたしました!小僧様がいらっしゃったのでてっきりお帰りになられたものかと!!」

 早口で捲し立てながら襖を閉め、続いて隣の部屋からも出ていく音が聞こえた。

 布団を被っていたとはいえ、明らかに裸であるとわかる程度には見えていただろう。

 知られているだけでも恥ずかしかったというのに、まさかいちゃついている現場を目撃されてしまうなんて・・・!

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