第四十四話 夜の訪問
お美代さんが去ってすぐ、私は早速もう後悔していた。
その時をただ待つのには癒しが必要だった。
いつもの布団係の子が来て、布団を敷いて帰っていく。
綺麗に並べられた2枚の布団は、お美代さんがちゃんと触れ回ってくれたという事を意味していた。
あちらの世界と違って、建物に防音機能などはほとんどない。お城では、物事を円滑にするため、プライバシーもあまりない。
諸々を考えてしまった結果、ぶわっと、体の底から羞恥心が湧き上がってきて。顔だけじゃなく全身が羞恥の熱に染められてしまう。
今更だが断ってしまうか?
断ってもあの人はきっと了承してくれるだろう。泣きそうな笑顔で、「分かりました」とすんなりと帰ってくれるだろう。
すんなりと、私に指一本触れないままで・・・。
そんな風に羞恥心と罪悪感を天秤にかけ、私は一人でしばらく悶えていた。
三十分くらいはそうやって悶えていただろうか。
火照った耳に、滑るような足音が、聞こえてきた。
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月は欠け、夜闇は深く、秘めたる訪いにはうってつけの時分であった。
警らは、私を咎めない。
ちらと見えたあの娘の侍女もすぐに下がった。
もしや、私の想いを、受け入れて下されたのであろうか。
焦燥にかられ心の臓が早鐘を打つ。
生まれてこの方、この様に無様な念いを抱いたことなどなかった。
狂おしいほどの衝動を胸の奥に押し殺し歩みを進める。
部屋の前に着いても、まだ確証を得られぬ心持ちであった。
誠に、受け入れて下されたのか。
思い違いではないのか。
「・・・聖女様、道明でございまする」
小さく、声をかける。
返答はない。
ないが、お嫌であればそうと答えるであろう。
虫の声が響く中、部屋からは衣擦れの音ひとつ伺えない。
焦れた私は無礼を承知で障子を開け、入室した。
衝立のあちらで影が揺れている。
回り込むと、俯き座る聖女様がいらせられた。
お顔の色は伺えない。
しかし、立ち去るべきであると思う心を、彼女の体を求める熱が押しのけた。
触れられぬほどの間を開け、聖女様のお近くへ膝をつく。
「聖女様・・・?」
お顔を覗くと、この方はようやく少し面を上げて下された。
下方からの眼差しは、媚びるように熱を帯びており、押し倒し蹂躙してしまいたい衝動で体に力が入る。
理性というものはこんなにも脆弱なものであるのか。
「無理にとは申しませぬ。お嫌であればそうお申し下されば・・・」
心にもない言葉が口をつく。長年で培った僅かばかりの体裁だ。
「嫌」という言葉は聞きたくもなかった。
受け入れてくれと、切に、切に祈った。
「嫌では、ないのです、ただどんな顔をすればいいのか分からなくて」
そのお声は震えていた。
恐怖では無い、ただただ恥ずかしがっておられるのだ。
あまりのいじらしさに、己の中に燻っていた情欲が声を上げるのを感じた。
今度は、聖女様のお膝が触れる位置に移る。
手を、お膝の上に置く。
聖女様の困り顔がこちらを向いた。私を、この私を見てくださったのだ。
もう堪えることは出来なかった。
一息に聖女様の唇を奪うと、その身を強く抱き寄せた。
可笑しな話であると思われようが、己が全てを投げて求めたくなるほどに聖女様を好いている事に、この時ようやくと気づいたのだ。
聖女様のお顔が私を今一度見上げる。もう体裁など気にせず、その唇を奪った。
好いた相手に受け入れられることが、こんなにも幸福に感じるものか。それはまるで体が燃え上がっているようであった。
「あちらへ」と布団へ促す。
この娘に、胸の奥より沸き上がる熱に、溺れてしまう予感を感じていた。




