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聖女の私にできること  作者: 三ツ陰 夕夜
第五章 相愛

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第四十四話 夜の訪問

 お美代さんが去ってすぐ、私は早速もう後悔していた。

 その時をただ待つのには癒しが必要だった。

 いつもの布団係の子が来て、布団を敷いて帰っていく。

 綺麗に並べられた2枚の布団は、お美代さんがちゃんと触れ回ってくれたという事を意味していた。

 あちらの世界と違って、建物に防音機能などはほとんどない。お城では、物事を円滑にするため、プライバシーもあまりない。

 諸々を考えてしまった結果、ぶわっと、体の底から羞恥心が湧き上がってきて。顔だけじゃなく全身が羞恥の熱に染められてしまう。

 今更だが断ってしまうか?

 断ってもあの人はきっと了承してくれるだろう。泣きそうな笑顔で、「分かりました」とすんなりと帰ってくれるだろう。

 すんなりと、私に指一本触れないままで・・・。

 そんな風に羞恥心と罪悪感を天秤にかけ、私は一人でしばらく悶えていた。

 三十分くらいはそうやって悶えていただろうか。

 火照った耳に、滑るような足音が、聞こえてきた。


------

 月は欠け、夜闇は深く、秘めたる(おとな)いにはうってつけの時分であった。

 警らは、私を咎めない。

 ちらと見えたあの娘の侍女もすぐに下がった。

 もしや、私の想いを、受け入れて下されたのであろうか。

 焦燥にかられ心の臓が早鐘を打つ。

 生まれてこの方、この様に無様な(おも)いを抱いたことなどなかった。

 狂おしいほどの衝動を胸の奥に押し殺し歩みを進める。

 部屋の前に着いても、まだ確証を得られぬ心持ちであった。

 誠に、受け入れて下されたのか。

 思い違いではないのか。

「・・・聖女様、道明でございまする」

 小さく、声をかける。

 返答はない。

 ないが、お嫌であればそうと答えるであろう。

 虫の声が響く中、部屋からは衣擦れの音ひとつ伺えない。

 焦れた私は無礼を承知で障子を開け、入室した。

 衝立のあちらで影が揺れている。

 回り込むと、俯き座る聖女様がいらせられた。

 お顔の色は伺えない。

 しかし、立ち去るべきであると思う心を、彼女の体を求める熱が押しのけた。

 触れられぬほどの間を開け、聖女様のお近くへ膝をつく。

「聖女様・・・?」

 お顔を覗くと、この方はようやく少し面を上げて下された。

 下方からの眼差しは、媚びるように熱を帯びており、押し倒し蹂躙してしまいたい衝動で体に力が入る。

 理性というものはこんなにも脆弱なものであるのか。

「無理にとは申しませぬ。お嫌であればそうお申し下されば・・・」

 心にもない言葉が口をつく。長年で培った僅かばかりの体裁だ。

 「嫌」という言葉は聞きたくもなかった。

 受け入れてくれと、切に、切に祈った。

「嫌では、ないのです、ただどんな顔をすればいいのか分からなくて」

 そのお声は震えていた。

 恐怖では無い、ただただ恥ずかしがっておられるのだ。

 あまりのいじらしさに、己の中に燻っていた情欲が声を上げるのを感じた。

 今度は、聖女様のお膝が触れる位置に移る。

 手を、お膝の上に置く。

 聖女様の困り顔がこちらを向いた。私を、この私を見てくださったのだ。

 もう堪えることは出来なかった。

 一息に聖女様の唇を奪うと、その身を強く抱き寄せた。

 可笑しな話であると思われようが、己が全てを投げて求めたくなるほどに聖女様を好いている事に、この時ようやくと気づいたのだ。

 聖女様のお顔が私を今一度見上げる。もう体裁など気にせず、その唇を奪った。

 好いた相手に受け入れられることが、こんなにも幸福に感じるものか。それはまるで体が燃え上がっているようであった。

 「あちらへ」と布団へ促す。

 この娘に、胸の奥より沸き上がる熱に、溺れてしまう予感を感じていた。

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