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聖女の私にできること  作者: 三ツ陰 夕夜
第四章 宴

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第四十二話 夜のお誘い

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 二週間もかかった。やっと宴事件のゴタゴタがひと段落したらしく、明日からはまた医療所通いが認められた。

 のんびりとした時間も嫌いではなかったが、突然の長期休暇、それも城から出ては行けないという制限付きでは、さすがに退屈にならないわけが無い。

 そんな風にウキウキと、明日の事を考えながら朝食後の散策をしていた私は、この後殿に呼び出されることになるのだ。



 「ワシの側室となる気はあるか?」という殿の言葉にまず思ったのは「なんて悪質な冗談なんだ」ということ。

 この人の兄には散々からかわれていたため、兄弟揃ってそういう性格なのかと思った。

 「形だけ」、「囲える」という言葉になるほどと少し納得した。

 聖女の業を疎ましく思った誰かがいればまたこの前のような事件が起きるかもしれないし、この力を悪用しようとする輩もいるだろう。

 聖女を城に縛り付けるのに、側室ほど最適な理由は無い。

 でも殿の、私を試すような表情に、あの人の面影が重なって見えた。

 パッと見は似ている印象を受けない兄弟だが、こうやってよく見れば確かに似ていた。

「無論、側室としての務めを果たしたくば、ワシもやぶさかではないがな」

 冗談すら似ている二人は、内心で互いを想いあっているところすら似ている。

 そっくり過ぎて、少し切ない。

「お断りいたします」

 被せるように答えると、殿は何やらブツブツ言っていたが、私の耳には届いて来なかった。

 ただ、もうこんなにも彼への気持ちが大きくなっているのだと、改めて気付かされてしまっていたから。



 昼食前の厨房はいつもバタバタしている。

 城に閉じ込められて暇を持て余していた私の日課となってしまった厨房見学。それにはしっかりと理由があった。

「痛っ!」

 働き始めたばかりの子が、出血する指を抑えていた。どうやら、じゃがいもの皮むきで切ってしまったらしい。

 私はすかさず駆け寄ると、聖女の業で傷を治す。

 そう、この平和な城の中で、一番怪我人が多いのがこの厨房だと気づいたのだ。

 切り傷、火傷、指のあかぎれ。聖女の業は厨房では万能だった。

 お礼に笑顔で返すと、また邪魔にならないところへ引っ込む。

 皮むきは明日の仕込み用だったようで、竈の周りでは次々と料理が出来上がっているのが見えた。

 刃物を片付け始めているし、あれだけ料理が出来上がればあとは配膳だけか。

 出番を終えた私は、運ばれてくる料理を待つべく部屋に戻ることにした。

 配膳の手伝いは残念なことに以前断られていたが、お美代さんが一緒に食べてくれるようになったため、食事の時間は最近の楽しみの一つだ。

 そうやって、ご飯のことしか考えていなかったので、部屋へ戻る外廊下に僧正様を見つけた時は、少し驚いた。

 憂いを帯びたまつ毛が庭を見ている。今日も腹立たしいくらいお綺麗だ。

「僧正様こんにちは」

 宣言通りご無体は働かなくなったし、殿の味方であると知れて、私の僧正様への態度は軟化していた。

 生活圏に要警戒人物がいなくなったのは凄く健康に良かったからだ。

「聖女様・・・」

 何かを躊躇うようなその表情に、少しだけ不安な気持ちがよぎる。

 いつも涼しげなこの人の、歯切れの悪い物言いは珍しい。

 でももうこの人の心は読まないと決めていたので、ただただ言葉の続きを待った。

「今宵、お部屋を尋ねてもよろしいでしょうか?」

 宵と聞くと宴の前夜が思い起こされた。何かまた内密な話があるのか、なぜ今では無いのか。

「夜でなければいけないのですか?」

 疑問をそのまま口する。

 この人相手に駆け引きなんて無理なことはしない。そうなってくると、下手に考えず直接聞いてしまうのが一番手っ取り早い。

 僧正様は、何故か少し驚いた顔になり、すぐに意地の悪い笑みを浮かべた。

 ゆっくりと、節度のある距離の節度がなくなっていく。

 内緒話だろうかと首を傾げていると、吸い込まれるように私の肩口に僧正様のお顔が滑り込んできた。

「夜のお誘いをしているのです」

 思わずその場から飛び退く。

 無体を働かないと誓ったはずのその人に、明らかに無体な言動を受け、頭は混乱していた。反省したのではなかったのか??

 混乱してつい、我慢ができずに心を読んでいた。読んでしまっていた。

「お受けくださるのであれば、侍女にお伝えくださいませ」

 読んでしまった僧正様の心の中には、私に対する独占欲と情欲と、愛情があった。

 なんで?いつから?いつの間にこんな思いを向けられていたのか。

「つ、伝えるとは・・・?」

 混乱する頭で聞き返す。声は、震えていた。

 彼は答えない。

 いつものニコリとした作り笑いの仮面を被ると、音もなく立ち去って行った。

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