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聖女の私にできること  作者: 三ツ陰 夕夜
第四章 宴

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第四十一話 提案と願い

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 里中(サトナカ)のやつが手を回した事で、結果として兄上のことをみなへ話すことができ、ワシは満足であった。

 兄上が少々苦い顔をしておったが、ここまで口を噤んでおってやっていたのだからいたし方あるまい。

 あの取り調べとは名ばかりの兄上への弾劾の場から十二日経った。

 兄上の手筈通り事件は落着し、全てがまっさらに片付くと、ようやくと日常が戻って来ようとしていた。

 そして、ワシは部屋で一人、昼間から勝利の美酒を嗜みながらも人を待っておるところである。

 ある者を呼び出しておったのだ。



「いらせられました」

 開け放たれた表より、侍女の声がする。

 「入れ」と声をかけると、待ち人が現れた。聖女殿である。

 聖女殿は遠慮がちに端の方へと座るので、扇でワシの目前を示す。

 その娘は、きちと移動はしたが、不快感な顔を隠そうともしておらんかった。

 初めに会うた時よりは幾分かくつろいだ様であるのは喜ばしいが、あの、考えが全て表に出すぎるのはどうにかならぬものかと思う。

 取ってつけたような仕草で頭を下げるのを見るに、作法は学んでいるらしいがな。

「そなた、ワシの側室となる気はあるか?」

 娘にとっては寝耳に水であったのであろう、無作法にも顔を上げワシを()め付けてきおった。

 ただの不調法者であれば咎めもするが、この娘であれば笑止に終わる。

 存外に、ワシもこの娘を気に入っておるらしい。

「形だけじゃ。側室となればワシも腰を入れてそなたを囲えるゆえ」

 そしてワシもそなたの威を借りれる、と、終いの言葉は言わずにおいた。

 この案を持ち掛けてきたのはあの兄上である。

 正室であるお真紀(オマキ)には悪いが、内密のため、知る者は極わずかであった。

 聖女殿の面持ちがすぅと変わる。見たところ、心を定めたようじゃな。

「無論、側室としての務めを果たしたくば、ワシもやぶさかではないがな」

「お断りいたします」

 痛快な返事がいっそ愉快であった。

「ふりであっても、もそっと考えぬか」

 意地の悪い笑みを浮かべてやるが、娘は平然とした体で頭を下げた。

 からかいがいのない娘だ。

「よい、下がれ」

 ワシのことを悪しく思うているようではなかったが、あの面持ちは好いた男でもできたか。

 聖女殿を取り囲む顔ぶれを思い起こす。やれ一体どの益荒男(ますらお)が射止めたやら・・・。



 それから、半刻もせぬうちに、更なる訪問者があった。

「道明僧正がいらせられました」

 兄上が?

 先触れも出さずに来るとは、内密の話しか。

 お耳の早い兄上であれば、先の話やもしれぬが。

「お通しせい」

 声をかけると侍女は下がる。続いて現れた兄上は、部屋に入らず、廊下で頭をお下げになられていた。

 先の話ではなかったか。

「兄上、入られよ」

 聞こえぬはずもないが兄上は(がん)として動かず、何やら張り詰めた様が伺えた。

 申したき義があるのは明白であったので、兄上をお待ちしながら酒を口にする。

 わずかの静寂の後、兄上は静かに口を開かれた。

「東山城城主であられる志野原(シノハラ) 将親(マサチカ)様に、お願い申し上げたき義があり、参りました」

 平素であれば、ふたりきりの時の兄上は砕けた物言いとなる。

 こうして身分を弁えた物言いをする際は、決まって肝要な願いがある時。

 ワシに志野原当主としての返辞を求める時だ。

「申せ」

 ゆっくりと扇を閉じる。

 その音に応えるが如く、兄上はその願いとやらを申された。

「将親様には大変なご無礼である事を承知の上で申し上げまする」

 今更何をと、内心で笑みが浮かぶ。

 父上の跡を継ぐのを断られた折に、一生分の無礼は受けたわ。

「今宵、聖女殿の部屋を訪れること、お許しくださいませ」

 思いもよらぬ言葉、思いもよらぬ名に、兄上の姿をしかと見た。

 聖女殿。あの娘を、兄上が良きように踊らせようとしていた事には気づいておったが・・・。

 まさか、益荒男は兄上であったか。と、声には出さず驚嘆した。

 きりりと張り詰めた声色に、平時のような余地はない。あの兄上が、このように緊張されている姿は初めて見たやもしれぬ。

 真にあの娘を慕われておいでなのですね。聖女と僧正の身なれば、立ち行かぬ事も多かろうと、容易に見越せるであろうに。

 御身の立場であれば、その情が身を亡ぼすやもしれぬとお分かりになられているであろうに。

 先の事を思いふと憐憫の情が湧くが、それを口にするほどワシは野暮天ではなかった。

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