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聖女の私にできること  作者: 三ツ陰 夕夜
第四章 宴

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第四十話 取調べ

 中庭に面した一番大きな部屋は、今は臨時の奉行所になっていた。

 殿が真ん中奥に座り、その前にはお奉行様らしき人がいる。部屋の両脇には宴の席にいたお偉いさんの中でも特に偉い人が数人と、私。今回は僧正様も廊下の隅に控えていた。

 お奉行様がよく通る声で罪状とその根拠、罪人の当時の行動を読み上げていく。

 罪人だという二人は、庭に敷いた(むしろ)の上に座っていた。

 どちらも、年はまだ二十代くらいの若い男性で、坊主頭と長髪の2人だった。

「その方ら、申し開きがあるのであれば申してみよ」

 弁明の余地はある事に少しだけほっとする。

 まず口を開いたのは坊主の方の男性だった。

「オラは、脅されてたんだ!やんなきゃひでぇ目に合うっていってよぉ!」

 悲痛な叫びに心が痛む。人を裁くというのは精神的な負荷が大きい仕事だ、私には傍聴だけでも耐えられそうにない。

 わざわざこの場でやる必要もないんじゃないか?そんな気持ちは長髪の男性の言葉に掻き消えた。

「俺は、僧正様のためって聞いてやったんだ」

 僧正様?僧正様と言ったのか?予想外の単語に頭が混乱する。

 名を呼ばれた彼の方を向くが、相変わらずの作り笑顔で表情が読めない。

 お偉い方がザワつくのが聞こえる。

「僧正様が、この国を良くしてくださるからって、だから話に乗ったんだ」

 止めてくれと、叫びたい。あの人をこれ以上苦しめないでくれと。

 お奉行様が厳しい目付きで僧正様を睨みつける。罪人の言葉とはいえ、名が上がれば疑わしく見えてしまうだろう。

 彼が罪人になってしまう。

 だが、私はこの場をどうにかする手段を持っていなかった。

「道明僧正、お話を伺っても?」

 お奉行様の行動は正しいのだろう。私だって、彼の心を読むまではあちら側の人間だと思っていた。

 心の中で叫び声を上げながら僧正様を見る。

 しかし、彼は返事をしなかった。

 彼の代わりに殿が答えたのだ。

「よい、兄上は無罪じゃ」

 普段は「道明僧正」と呼ぶのに、わざと「兄上」と呼んでいるようだった。それに、少し苛立っているのが分かる。

 お奉行様は殿に従い、そのまま罪人二人へ沙汰を言い渡そうとした。が、重鎮の一人がそれを遮った。

「お恐れながら申し上げます。道明僧正には疑われるべく点が多すぎまする」

 殿の兄で、地位も支持もあり、頭もいい。確かに、継承者争いを恐れる人も出て来るだろう。それほどに、彼はあまりにもでき過ぎていた。

 この場は、僧正様を殿の前で吊し上げるために設けられたのだと、今になって気づく。

「何卒、お取調べを!」

 懇願する初老の重鎮。この人がこの場を用意したのか。

 心を読もうとしただけで溢れる殿への忠誠心が分かった。殿のことを思うがこその行動なのだと言うことが分かった。

 決死の説得に殿はため息を着いた。チラリと僧正様へ視線を送ると、応じるように彼は立ち上がる。

 お奉行様の前にゆっくりと歩み出で、殿の正面に座った。

 でも、相変わらずの作り笑顔は彼の本心を完璧に隠していた。

「みな、これから申すことはしかと頭に刻め」

 殿が、集まった者たちを見渡しながら声を上げる。

 何を話す気かは分からなかったが、その表情からは悪い感情は感じられなかった。

「ここにおわす道明僧正はな、ワシがこの世で最も敬愛する兄上じゃ!」

 兄弟だという話しは、公ではなくとも伏せられてもいないため知っていた。ここにいる人は全員そうだろう。

 ということは、「この世で最も敬愛する」という単語を聞かせたかったのかもしれない。

「兄上は、父上がご存命の折、父上とワシの二人で城を継いでくださらぬかとお願い申し上げたのを、断られたのよ!」

 これはさすがに初耳だった。初老の重鎮含むお偉方も、信じられないという顔で殿を見ていた。

「兄上がどうしてもと言うので黙っておったがな!今この時であっても、兄上が望まれるのであればこの座をお譲りしたいとワシは思うておる!」

 殿の顔は冗談を言う時のものではなかった。そして、苦笑を浮かべる僧正様の顔が、それが事実である事を物語っていた。

「それに、な」

 殿の顔が、急にいらずらっぽく笑う。

「ワシは此度の件ひと月も前より知っておったわ。その方ら如きが兄上に太刀打ちできるはずもあるまい」

 驚きに満ちた頭の片隅で、こういう時の顔は僧正様と本当にそっくりだと思った。

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