第二話 お福さんのお店
成り行きで働き出した食堂は、びっくりするほど大盛況だった。
夕方にはまだ早い時間に開店したというのに、一時間もせずに席が埋まり、満席でも「座らなくていいから」と立ち飲みのお客さんまで出てくる次第。
おばちゃんの店の人気凄い・・・!
以前、某チェーン店でホールスタッフをした事はあったけど、なんというかジャンルが違う。
注文は主にお酒で、正確さより速さ重視。多少間違えてもこぼしても気にしない。
お支払いはお金を席に置いて勝手に出ていくスタイル。明らかに多かったり少なかったりするけどいちいち金額を確かめたりはしてないという凄まじさ。
二時間も経つ頃には作った料理がほぼ無くなり、各席にお酒の瓶を置いたら「ちょっと休憩しな」とおばちゃんに厨房へ呼ばれた。
「お福さんのお店大人気なんですね」
仕込みを手伝っている時に軽く自己紹介をしていた。
おばちゃんの名はお福さん。現在三十二歳で、旦那さんは亡くなっており、十五歳になる娘さんは奉公?に行っていて、今は一人で店を切り盛りしてるらしい。
前の私より年上だと思っていたのに、まさか年下だったとは・・・。
「いや、今日は特別だよ」
おばちゃんはお椀で汁物をすすりながら、ガヤガヤと賑やかな店内の方に目をやった。
同じ方向を見ると、何人ものおじちゃんたちが厨房を覗き込んでいた。
「あんたたち!腹いっぱいになったならもう帰りな!」
お福さんの怒鳴り声に覗き込む顔が半分に減る。
「若い娘がいるってだけで浮ついちゃって、やだねぇ」
なるほど、若い娘こと私がいるからかと、やっと気づいた。
ずっとアラサーとして生きてきた身なので若い娘と言われると居心地が悪いが、そのお陰でお福さんに恩返しできるのであれば存分に利用しない手は無い。
それに何より、若い体は全然疲れない。
お福さんが握ってくれた三角おむすびを三つと、お味噌汁二杯を平らげるとさっきまでの疲れも嘘のように消えていた。
「私、まだまだ働けますよ!」
細腕で力こぶを作ると、「何だいそれは」とお福さんに笑われてしまったが、気概だけは伝わったらしい。
「それじゃ、居眠りこいてるやつと尻が椅子にくっついてるやつを追い出しに行こうかね」
ヨイショと立ち上がるお福さんに続いて厨房を出る。食堂はムワッとしたアルコールの匂いがした。
店内には、席に座って寝てるおじさん、地べたに寝てるおじいちゃん、壁に寄りかかって寝てるおじさん。起きてるおじさんはほとんど全員こちらに注目していて、本当におじさんって若い娘が好きなんだなぁと他人事のように感じる。
ちなみに、私のせいかもしれないが今日のお客さんはおじさんとおじいちゃんだけだった。
お福さんは近くの席から順に「もう帰りな」とか「お勘定だよ」とか声をかけていって、私はその陰に隠れながら空いた席を片付けていく。
「酔っ払いは追い返す時が1番大変だから」と、私が絡まれないようにと気を利かせてくれるお福さんの背中が凄く格好良かった。
それは、半ば強引にお客さんたちを追い返したお福さんが暖簾を取り込むのを手伝っている時だった。
少し遠くから悲鳴のような声が聞こえてきたのだ。
お福さんのお店は早く開けて早く閉めるのがモットーとのことだったので、時刻は黄昏時。まだ落ちきっていない夕日に照らされて通りの向こうに人だかりが見えた。
何が起こっているか分からないけど、胸がざわつく。
行かないと・・・!
なぜだかそんな思いが頭をよぎり、お福さんの静止を横に私は悲鳴の方へ駆け出していた。




