第三十一話 聖女の力?
------
僧正様にコトの直前でお断りをしてしまった後、部屋に戻った私はお美代さんに慰められ、少しだけ自信を取り戻していた。
言うなれば、お福さん親子は私の心の拠り所であり、弱さの全てを見せられるこの世界での家族だ。
泣き腫らした目も冷やしてもらい翌日にはほとんど元に戻っていた。
朝日を目の前に、「よし!」と気合いを入れて城の門をくぐる。
働かなければ。私を待っていてくれる人のために。
木村先生の計らいで、今日の仕事はまた草順先生の手伝いだ。
患者を相手にしなくてもいいということに私は少しだけホッとした。
草順先生の指示のままに薬の材料を手渡し、作り終わった薬を決められた方法で梱包していく。
少し手馴れてきたため、手を動かしながら無駄口を叩く余裕も生まれていた。
「山田先生が何を考えているか分からない」と言う内容で、顔が怖いだのこんな酷いことを言われただの、取り留めもない愚痴をこぼす。
草順先生は、同意もしなければアドバイスもくれないが、ただ聞いてくれているだけでありがたい存在だ。
でも、特に返事をもらうことも考えずに喋っていただけなのに、話が途切れたタイミングで予想外の事を言われることになるなんて。
「それなら、考えを読めばいいのでは無いですか?」
草順先生の口から聞こえた言葉に、思わず彼を見た。
驚いた。感情の起伏がほとんどない彼でも冗談は言うらしい。
「読めれば楽なんですけどね」
フフっと笑いながら返す。こんな冗談めいたやり取りができるのも仲良くなってきた証かもしれない。
なんて思ってたのに、草順先生は以外にもキョトンとした顔をしている。
「読めるでしょ?」
何を言っているのだと言う顔をされ、全く同じ顔で見つめ合う。
私が?考えを読めると?
聖女と呼ばれているとはいえ、さすがにそれは買い被りすぎではないか。
よく話の見えない私に、草順先生は手を止めて頭をボリボリと掻いた。
「えぇ~無意識なのかぁ」
彼の少ない口数では、何を言っているのか分からなかった。薬草博士の彼はあまり人と喋るのが得意ではなく、長く話すというのが苦手なのだ。
だが、話してもらわなければならない。話してもらわなければ伝わらないから。
ちょっと嫌そうにも見える草順先生に、表情だけで「詳しく」と言葉を促す。
彼が難しい顔をしながら喋り出すのを、私は邪魔にならないように黙って聞いていた。
「場所を言わなくても薬の名前だけで分かりますよね」
言いつつ、確認するように私を見て、薬棚を見る。
そりゃあ一日に何回も同じ指示を受けていれば、素人の私も多少は薬の名前だって覚える。それは考えを読むというよりはただ私が成長しただけではないのか。
そんな私の考えを知ってか知らずか、草順先生の目線が今度は薬棚から、机の方へと移る。
「あと、その漢方は今日初めてですが、名前だけで取ってくれました」
そう言われてみれば、そうだったかもしれない。
愚痴を喋るのに気を取られていて気付かなかったが、確かにこんな漢方は初めて見た気がする。
「しかも僕、言い間違えたんですよ」
なるほど。要は名前を言い間違えた初めて使う漢方を、どうやって間違えずに取ってこれたのか、ということか。
たまたまではないかとも思わなくはないが、草順先生はあまり楽観的なことや不確定な情報を言うタイプではない。
疑問が浮かんでもじっくり観察し、結果を断定できてから初めて口にする研究者タイプなのだ。
「えー、でも、まさか、そんな・・・」
それほどまでに彼への信頼があったとしても、さすがに考えが読めるなんてことはすぐには信じられない話だった。
そんな私に、彼はある提案をする。
「じゃあ、検証してみましょう」
それは実に研究者らしい合理的な提案だった。




