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聖女の私にできること  作者: 三ツ陰 夕夜
第三章 お城暮らし

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第二十九話 愛のない慰め

 襖を閉めると、明かりの無いその部屋は仄暗く、外が昼か夜かも分からない。

 少し手狭な室内はとても静かで、現実ではないようなフワフワとした気持ちになる。

 ぼんやりとした視界の中、僧正様が両手を広げているのが見えた。

 誘われるがままにその胸に飛び込む。

 優しく抱きしめられ、胸の奥から体の隅々まで僧正様の香りに満たされた。

 本当に、慰めてくれるらしい。

「お辛いことがあったのですね」

 ヨシヨシと、抱きしめたまま頭を撫でられると、もう何もかも忘れて縋りつきたくなる。貞操なんてそんな些細な事どうでも良いとさえ思った。

 慰めてくれるのなら、それでいい。この体なんて好きにすればいい。

「私の前では取り繕わなくても良いのですよ」

 頭を撫でていた手が、背中から腰へと回される。

 腰をぐいと引き寄せられると、バランスを崩した私は床に倒れてしまった。

 私の上には当然のように彼が覆いかぶさっている。

 長い指が頬を撫で、私の唇をなぞる。それだけで吐息が漏れそうになるような、そんな手つきだった。

 でも目を閉じようとしたところで、廊下をドタドタと歩く足音が聞こえた。

 襖の向こうはまだ昼であることを思い出すと、少しの羞恥心が込み上げてきて・・・。

「やっぱり、夜に・・・」

 しませんか?と言う前に口で口を塞がれた。

 触れるだけのキス。それは、こちらの世界でのファーストキスだった。

 口を離した僧正様は、蠱惑的な笑みを浮かべると私の胸元にキスを落とした。

「・・・っ!」

 キスの跡を舌が這いながら、少しずつ襟元がはだけられていく。

「ぁ・・・」

 くすぐったいようなもどかしい感覚に、思わず小さな声が出た。

 頭の片隅では、相変わらずダメだと警告する声が聞こえていた。それも、もうどうでもよかった。

 ただただ楽になりたかった。

 僧正様が私の帯を解くのに合わせて腰を浮かせると、慣れた手つきの彼にあっという間に下着姿にされてしまう。

 獣のような怪しい光を孕んだ目が、私を見つめる。

 私の事が好きではない人。なのに私を、私の体を求めて来る人。

 この人は、私の事が好きなわけではないと、私は知っていた。

 でも、だからなんだと言うのだろう。

 私を利用しようとしていたとして、それの何が悪いのか。

 僧正の唇が、私のそれに重なる。

 唇が離れると、下着の紐に手が伸びるのが見えた。

「お慕い申し上げておりまする」

 蕩けてしまいそうな甘い声が降ってくる。

 違う、嘘だ。この人は嘘をついている。

 分かっている、分かっていて受け入れた。受け入れたはず、だったのに・・・。

 なのに、目から涙がこぼれた。

 それが涙だと自覚すると同時に、突然堰が切れたかのように涙が溢れ出してしまう。

 一瞬だけ、ほんの一瞬だけ、かつて私を愛してくれた人の温もりを思い出してしまったのだ。

 傲慢にも、「愛されたい」と、思ってしまったのだ。

 目の前には、すぐに涙に気づいた僧正様の困惑の顔があった。

「ちが、違うんです・・・!嫌なわけじゃないんです・・・」

 下手な嘘をつきながら、何度も何度も涙を拭う。一度決壊してしまった感情は押しとどめる事が出来なかった。

 愛のない行為など嫌だ。愛されたい。愛して欲しい。私を、ちゃんと愛して欲しい。

 泣きじゃくる私に僧正様はそっと服を戻してくれた。

 泣いていて彼の顔はよく見えなかった。でも、泣き止むまで黙って傍にいてくれたから、だから、彼のことがもう少しだけ知りたくなってしまったのだ。

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