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聖女の私にできること  作者: 三ツ陰 夕夜
第一章 聖女転生

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第一話 記憶喪失とアルバイト

「あら、あんた起きたのかい」

 突然声を掛けられ、ぼんやりしていた頭がパッとクリアになる。

 声がした方を返り振り返ると、三十路くらいの女性が店の奥からこちらを覗いていた。

 頭にバンダナのようなものを巻いて、手には何か野菜を持っているようだ。

 何か答えようとして、喉に何かが張り付くような違和感を覚えた。

 あの神という存在が私をこの世界に転生させたとして、転生してからしばらく眠ってでもいたのだろうか。

 転生、という言葉にも引っかかる。

 状況を見る限り、転生ではなくタイムスリップのようなものなのではないだろうか?

 とはいえ、まずはお礼だ。

 見知らぬ人間に助けてもらったのだ。ごちゃごちゃ考える前にまずはお礼を言わねば。

 軽く咳ばらいをしてから、少し距離がある彼女にも聞こえるように腹から声を出す。

「あの、ありがとうございます!」

 自分の口から出た声が、自分のものではなかった。

 明らかに元の年齢よりも若い、少女と言っても過言では無い声だった。

 もしかして、若返ってる・・・?

 よく考えてみれば、薄い座布団で寝ていたはずなのに腰にも背中にも痛みは無い。

 それに、心なしか体も軽く感じる。

「もしかしてどこか痛むのかい?」

 いつの間にか先ほどの女性が近くに立っていた。

 あちらにいた時は見えなかったが、年季の入った前掛けを付けてふっくらとガタイが良いため、給食のおばちゃんという風体だ。

「あ、いえ、大丈夫です」

「あぁ、良かった!見た目は何ともなかったけど、あんなとこに倒れてたからなにか酷い目にでもあったんじゃないかと心配してたんだよ!」

 まるで元から知り合いだったかのように親身に心配され、少し前まで同年代だった身としては少し複雑な気分になってしまう。

「あんなところって、私どこにいたんですか?」

「覚えてないのかい?!」

「あ、頭を打ったのか少し思い出せなくて・・・」

「まぁまぁまぁ!可哀想に!」

 おばちゃんは隣に腰掛けると、あかぎれだらけでザラザラの両手で私の手を握った。

「あのね、こっから番所を通り過ぎて少し行ったところに山菜の取れる山があるだろ?そこの沢の近くにあんたは倒れてたんだよ」

 確かに若い女の子が山の中に倒れていたらそれは異常事態だ。

 良くて遭難、最悪乱暴された後だと考えるだろう。

 元が同年代だからか、おばちゃんが何を考えているのか、どのくらい心配しているのかが手に取るように分かって心苦しい。

「何も、覚えてないのかい?」

 下手な嘘をつくのも躊躇われて、おばちゃんの言葉にとりあえずゆっくりと頷く。

「自分の名前とか、住んでたところは?」

 本当のことを言ったとして、それこそ頭がおかしくなったと思われてしまうかもしれない。

 それならばまだ記憶喪失の方がマシだと、今度は首を横に振った。

「まぁ!どうしようかねぇ。あたしは今から店があるから一緒に親を探してあげれないし・・・そうだ!番所に行くかい?」

 番所というのが、私の知っている番所なら警察ということだろうか。

 気持ちはとてもありがたい。ありがたいが、私の身元捜索で大事(おおごと)になるのは避けたかった。

「私、助けていただいたお礼にお店をお手伝いしたいです!」

 こうなれば、少し苦しいが無理やりに話題を変えるしかないと、おばちゃんに心配をかけずに上手く事を運ぶための言葉を探す。

「記憶はきっとそのうち戻ります!体も何ともありません!お世話になった方にお礼もしないまま帰ったらそれこそ親に叱られてしまいます!」

 畳み掛けるとおばちゃんは眉間に皺を寄せて考え出した。

 どこの世界でも飲食業は万年人手不足だろうし、働き手は大歓迎だろう。

 あちらの世界ではアラサーだったのだ。就職面接なら慣れたものだ。

「私、よく覚えてないけど包丁とかは使ったことがある気がするんです!」

「本当かい?それじゃあまぁ、記憶が戻るまでうちでお手伝いしてもらおうかな」

 かくして、転生した私は記憶喪失の飲食店アルバイトになったのであった。

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