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聖女の私にできること  作者: 三ツ陰 夕夜
第三章 お城暮らし

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第二十三話 お引越し

「行ってきます」

 いつものようにお福さんに手を振る。

「あぁ、行ってらっしゃい」

 いつもと同じ返事を聞くと、もう帰れないであろう実家に背を向けた。

 未練を断ち切るようにゆっくりと歩き出す。

「ちゃんとご飯は食べるんだよぉ!」

 お福さんの声が背中を押してくれる。

 振り返りたくなる気持ちをグッと堪えながら、私は城へ向かった。



 城に入ると、荷物もそのままにすぐに殿のお部屋へ通された。

「この度はお招きいただき恐悦にございます」

 深々と頭を下げて挨拶する。

 ひとりで来たのは初めてな上に、作法なんて知らないので下手なことをしてしまっていないか少しだけ不安だ。

「よい、ワシは硬いのが嫌いじゃ」

 頭を上げろと言うことだろう。大人しく指示に従う。

 この地で最も偉い人なのでと以前は緊張していたが、何度も会ううちに気持ちに余裕が持てるようになっていた。

 見た目の割に怖くもなければ頭が固くもないこの人は、昨日はなんと町民とも気さくに話していたのだ。

「この城では楽に過ごせ。侍女も付けるが何人欲しい?」

 侍女という言葉にハッとした。本来ならこちらからお願いするべきことだったけど、殿の方から聞いてくれるとはとても都合が良い。

「このお城にお美代さんという方がいると思うのですが、ひとりでいいのでその方にお願いしたいです」

「お美代、お美代か、あい分かった、その者を付けよう」

 どう切り出そうと思っていたお願いをすんなりと聞き入れて貰えたため、私の中の殿への好感度が「悪い人じゃない」から「いい人」に上がる。

 城での生活にも少しだけ希望が見えてきた。



「私がお美代でございます!」

 私が指名したお美代さんは、私より三つくらい歳下のハキハキと明るい女性だった。

「初めまして。これからよろしくお願いします」

 頭を下げる彼女に頭を下げ返す。

「そんな、頭をお上げ下さい!」

 焦ったように彼女は言った。どうやらここでは市井(しせい)と常識が違うらしい。

「私、ここに住まわせて貰うだけなので、気を使わないでください」

 ダメ元でお願いしてみたが、身分差というものは絶対のようで、お美代さんは頑として首を縦に振ってはくれなかった。

 一応、私はお美代さんの主という立場になってしまうらしく、客であってもそこそこの地位として扱われるらしい。

「姫様、お荷物はこれだけでございますか?」

 極めつけがこれだ。

 姫様呼びは殿からの提案らしいが、その絶妙に微妙なセンスは確実に周りに悪影響を与えている。誰か早急にどうにかして欲しい。

 お美代さんは、風呂敷一つ分の私の引越し荷物を担ぐと、新我が家となる部屋へと案内してくれた。

 途中の部屋もいくつか紹介しながら歩いていたが、部屋が多すぎて一度に覚えるのは無理そうだった。

「こちらです」

 案内されたのは、東の奥の外廊下を渡った先にある小さな角部屋だった。

 相対的に小さく見えたが、多分お福さんのお店と同じくらいの広さはあった。

「隣は侍女である私の部屋ですので、何か御用の際はお申し付けください!」

 荷物を備え付けの棚にしまいながらお美代さんが言う。

 棚以外の調度品もいくつかあるが全て使っていいということだろう。

 お城暮らしなんて、凄いところに来てしまったなぁとしみじみと思う。角部屋なので絢爛な庭も特等席だった。

「姫様、ひとつお尋ねしてもよろしいでしょうか?」

 荷物の片付けを終えたお美代さんが、少しモジモジしながら聞いてきた。

 何か言いにくいことだろうか?考えながらも「どうぞ」と先を促す。

「姫様が私をご指名くださったとお伺いしたのですが・・・」

 言葉の文脈的に、指名理由を聞きたいのだろうが、なんと聞けば良いか迷っているようだった。

 分かる。偉い人への質問って凄い気を使うよね!心の中で大きくうんうんと頷いてしまった。

「私ね、昨日までお福さんの家に住んでたの」

 お福という言葉を聞いた途端、お美代さんは目を大きくしながら驚いた。驚きの色に少しずつ哀愁の色が混ざり、「そっか」とため息のような言葉が漏れた。

「お福さんがね、城に行ったら娘のお美代を頼れって言ってくれたの。あの子なら何があっても味方になってくれるからって」

 それは昨晩、お福さんが不安な私にお守りのように教えてくれた話で、この話を聞いたからこそ憂鬱にならずにここに来れたのだ。

 まさか以前聞いていた娘さんの奉公先が、こんなに近くだとは思ってもいなかったが。

「母が・・・そうですか」

 お美代さんは笑った顔がお福さんによく似ていて、自然と姉のような親近感が湧いていた。

「分かりました!そうとあらばこのお美代、全身全霊を持って務めさせていただきます!」

 ドンと胸を叩く仕草はまるで若い頃のお福さんのよう。

 彼女がいてくれるおかげで、肩身の狭いお城暮らしも楽しくなりそうだった。

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