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聖女の私にできること  作者: 三ツ陰 夕夜
第二章 聖女の力

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第十七話 再びの邂逅

 真っ直ぐ医療所に戻るはずだった私は、まだお城にいた。

 うっかり渡し忘れたものがあるとかで、木村先生が患者さんの所へ戻ってしまったからだ。

 私は同行する必要もなかったようなので、縁側に腰掛けその帰りを待つしかない。

 殿の御前という大仕事を終えたので、のんきにも「お昼ご飯何かな~」なんてことを考えていた時だった。

「今日は落ちる心配をせずとも良さそうにございますね」

 唐突に聞こえた声に、頭より先に体が反応していた。心臓が飛び跳ね、体が硬直する。

 私は、この声に聞き覚えがあった。

「お隣、失礼してもよろしいでしょうか?」

 音もなく現れたその人は、私の返事など待たずに勝手に隣に腰掛けた。

 フワッとあの香りが漂う。

 この声、この香り、忘れるはずもない。僧正様だ。

 ずっと庭園の方を向いているので顔こそ見えなかったが、頭の中でその顔を思い浮かべるだけでも動悸がするのだ。直接顔など見れるはずもなく、視線は向けないでおいた。

「今日はそのお可愛らしいお顔を向けてはくださいませぬのですか?」

 私が黙っているのをいい事に、僧正様はとんでもないことをぬかす。この人、もしかしなくても私が盛大に照れているのを見てわざとやっているのか・・・!

 城に来る時にこの人の事を考えなくもなかったが、木村先生が一緒だからと油断してしまっていた。

 まさか一人になった時を狙ってきたわけじゃないだろうが、どう考えてもタイミングが悪すぎだ。

 木村先生!早く帰ってきてください!

 こんな時テレパシーを使えたらと、切実に思う。

 大きな声を出せば良いだけなのは分かっている。しかし、人の体はこういう場面で大きな声を出せなくなる構造をしているのだ。

 しかもしかも、リアクションがないことに痺れを切らしたのか僧正様は恐ろしい次の一手を打ってきた。

「っ!?」

 手の甲を包む体温に声にならない悲鳴を上げる。床に置いた手に、僧正様の手が重なったのだ。

 逃げようとする手をお見通しとばかりにふた周りも大きい手が握りしめる。

 僧正様の熱に手が溶かされてしまいそうだった。

「離してください・・・!」

 さすがに看過できない状況に、文句を言う。声が上ずらないようにお腹に力を入れて僧正様を睨みつけた。

 ため息が出るほど綺麗な顔が、恋人のような距離にあった。誰がどう考えても会うのが二度目の男女の距離では無い。

「私がお嫌でございますか?」

 こんな風にこんなセリフを言われたことがある人が、この世に何人いるだろうか?

 熱を帯びた視線に見つめられながら、頭が真っ白になりそうなのを必死でこらえた。

 嫌では無い。むしろとても好きだ。だがこの好きは、適切な距離を置いて一方的にキャーキャー言いたいタイプの好きであって、断じて節操なくスキンシップをしたいタイプの好きでは無い。

「そ、そういう事じゃなくて・・・!」

 抗議の意思を示したいが、喉が張り付いてしまったかのように上手く言葉が出ない。

 そんな私にどこをどうやって勘違いしたのか、この人は更に顔を寄せて来た。近い、近過ぎる。これはもう油断したらキスされてしまう距離だ。

「それとも、お好きですか・・・?」

 ゆっくりとセクシーな唇が動き、上目遣いの視線が私を捕える。

 震え上がるほどの切ない熱が体を駆け巡って、少しでも油断したら受け入れてしまいそうだった。

 いっそ全てを投げ出して僧正様のその胸に飛び込んでしまいたい衝動に駆られる。

 でも、ダメだと、頭の片隅で警告する声が響く。

 この人はダメだ。呑まれてはダメだ。

 ぼんやりとした頭の片隅で分ってはいた。分かってはいても、抗えなくなってしまうほどに、僧正様の色気は私を捉えすぎていた。

 長い指が私の指に絡みつき、あっさりと手の自由が奪われる。

「続きは、あちらで」

 完璧に好みすぎる顔から目が離せない。

 続き?あちらで?

 頭の中で復唱して、何をするつもりかも全て理解出来たが、熱に浮かされた体に抵抗する気力はもう残っていなかった。

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