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聖女の私にできること  作者: 三ツ陰 夕夜
第二章 聖女の力

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第十六話 城での訪問診療

 翌日、私はまた朝からお城にいた。

 今日は木村先生の助手として、検診のお手伝い係なのだ。

 医療所に来ることが出来ない人のために、定期的にこうやって診にきているということらしく、臨時の診療室には何人もの人が訪れていた。

 私が治せそうな人はどんどん私に回してくれるので、芋洗い式に診察が終わって行く。

 お昼ご飯の後、午後の診察が始まるとすぐに患者の列が途切れた。

「十六人でしたか、お加減はいかがでしょう?」

 切り傷、打ち身、肩の痛みなどのごく軽い治療であったからか、十六人の治療を終えてもまだ体は軽かった。

「全然問題ないです」

 肩をぐるぐる回しながら答える。やはり重傷者の方が体力を使うということなのだろう。

 木村先生は満足したように頷くと、道具をまとめ始めた。

 訪問診療は終わりということか。

「この後は、特別なお方の診察です。殿も同席されますので身支度を整えてから参りましょう」

 どうやら最後は大仕事になるようだ。お偉いさんの相手は苦手だったが、木村先生がいるなら・・・と諦めて後を追いかけた。



 木村先生が、手馴れたように御歳七つにならせられるという殿のご長男、菊千代様の診察を始めるのを、私は少し後ろの方から見学していた。

 殿の自室だというそこは、手狭ではあるが細かい所まで装飾が行き届いており、畳すらも高級な香りがする。

 ひとつ高くなった席には殿が、その隣には殿のご正室様がいらっしゃり、木村先生の診察を見守っていた。

「どうじゃ?」

 待ちきれない殿が先生に声をかける。

 少し心配そうな様子を見ると、菊千代様はどこかお悪いのだろうか?

 木村先生は診察が済んだのか聴診器を外すと、殿の方に向き直った。

「まずまずと言った状態でございます」

「やはりそうか・・・」

 私の目からは元気そのものに見える菊千代様だが、見かけによらず病気のようだ。

 雰囲気からして長期的なものなのかもしれない。

「いつものお薬を処方致しておきましょう」

 木村先生が荷物の中からお薬を取り出すと、思い出したかのように殿が私の方を向いた。

「木村、聖女殿にも直せぬのか?」

 突然の無茶ぶりに鳥肌が全身を覆う。忘れているなら一生忘れていて欲しかった。

 患者の病名どころか症状すらも聞いていないのになにか言える訳もなく、必死の視線を木村先生に送る。

「恐らくではございますが、無理でございましょう。菊千代様のものは生まれつきの体の(さが)ですゆえ」

 私の視線に気づいたかどうかは分からないが、先生はきちんと私を守る発言をしてくれた。

 しかも、できるだけ聖女の業自体の評判を落とさないような言い回しをしているのが憎い。

 我が子のこととなると心配性になるのはどこも同じなのか「だがしかし」と食い下がろうとした殿を止めたのはご正室様だった。

「殿、菊千代の体が日一日と丈夫になっておりますこと、存ぜぬ訳ではございませぬでしょう?発作の頻度も日に三回から二日に一回まで減っております。これ以上何を望まれますか」

 ピシャリと言葉を遮られた殿は、少ししゅんとした顔で黙り込む。殿が二十九歳だとしてもご正室様はそれより年下に見えるが、しっかりと尻に敷かれているらしい。

 あの状態の殿であれば、怖くは無いんだけどなぁとしみじみと思う。

 薬も渡し終わったので「では」と木村先生が立ち上がる。慌てて後を追いかけ部屋を出ると、一気にプレッシャーが体から抜け落ちた。

 お偉いさんの前というのは本当に疲れる。

 そして、力が抜けたところで「あ、そうだ」と、思い浮かんだことがあった。

 公式な場では無いところで先生に聞きたいことがあったのだ。

「先生、もしかして菊千代様は喘息持ちですか?」

 何の気なしに聞いたのだが、木村先生は予想以上の驚きの表情を浮かべた。キョロキョロと周囲を見渡し始めたのを見ると、大きな声で言ってはいけないことだったらしい。

「その話をどこでお聞きになりましたか?」

 声を潜める木村先生に同じく潜めながら答える。

「発作の話と、胸ばかり聴診されていたので・・・」

 向こうの世界で知り合いに喘息持ちがいたので、なんとなくの症状を知っていたのだ。

 割と一般的な知識かと思って聞いてしまったが、違ったらしい。あの場で発言しなくて良かったと心から思った。

「その話は医療所に戻ってから致しましょう」

 暗に「ここでは誰が聞いてるか分からないから」と言われている気がした。確かにお城の中は警備や侍女などの人が意外と多い。

 優雅に見えるお城暮らしは意外と大変なんだなと、その時の私はまだ能天気にも考えていたのだ。

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