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聖女の私にできること  作者: 三ツ陰 夕夜
第二章 聖女の力

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第十四話 事故現場

 一日数人ずつをと決めた次の日。つまり医療所での勤務二日目の日の朝。

 今日は朝から医療所内の雑務をお手伝いしていたが、診察時間はいったん木村先生の助手を引き続きという形になった。

 擦り傷や切り傷はできるだけこちらに回してくださいと受付診察に伝えたところで、都合の良い患者がすぐに現れるわけもない。なので、木村先生の助手をしながら聖女の業の出番を待っていた。

「何事でしょうか・・・?」

 診療所が開いて三十分も経っていないくらいのタイミングだったか、何やら表が騒々しくなるのが聞こえた。

 続いて受付診察の方から先生のひとりが走り込んでくる。

「大変です!建築中の家から建材が落下したらしく、重傷者が複数出ているとのことです!」

 報告を聴きながら、木村先生は険しい顔で立ち上がった。頭の回転が早いんだろう、すぐに指示を飛ばす。

「私と山田(ヤマダ)先生で向かいます。郷広先生には足りなくなりそうな物を集めて追いかけよと伝えてください」

 こういう時は現場に向かうらしい、木村先生は治療キットの中身を確認し、いるものといらないものを瞬く間により分けると小脇に抱えた。

「聖女殿も同行願えますか?」

 聞かれたところで、もちろん断る理由などどこにもなかった。



 馬だった。

 医療所の隣に厩があったので「かわいいなぁ」なんて思っていたのだが、この病院の医師の移動手段はその馬だった。

 確かに救急車もドクターカーもないここで緊急の移動手段としては最適なのだろうが、馬に乗る医師なんて考えたこともなかった。

 馬に乗るのなんて当たり前に初めてだったけど、馬ってすごく揺れる。しかも生き物の上だから車のように安定していない。

 手綱を握る木村先生の背中に必死にしがみつきながら、事故現場に着くまで何度も振り落とされるかと思った。

 これなら駕籠の方がまだマシだ。でも、医療所で働く限りは馬に乗れないままという選択肢は無さそうだなぁと内心頭を抱えた。

 だがそんなプチ受難も、現場の光景を目前にすると一瞬でどうでもよくなる。そこにはそれほどの惨状が広がっていた。

 血溜まりが出来た地面に三人、怪我をした男性が寝かされている。一人は頭から出血しているのか髪の毛が赤く染まり、一人は左の肩が潰れている。もう一人は外傷が見当たらないが、全員意識がはっきりしない様子だった。

「私と聖女殿はこちらの重傷者を診ます。山田先生はあちらを、重傷者が紛れていれば連れてきてください」

 「分かった」と頷く山田先生が向かう先には、軽傷なのか、座り込んでいる人が何人か一箇所に固まっていた。

 医師が到着する前に怪我の状態で場所を分けたということだろうか?この状況でそこまで手際良く動けたって事?

 ・・・いや、まずは重傷者だ。と、木村先生を追いかけた。

 先生はまず傷が見当たらない男性を診察し始めた、私は肩を負傷した男性の脇に座り込み全身を確認する。

 よし、怪我は肩だけだ、これなら私でも治せる!

「木村先生、私はこちらの方から治します」

 先生が頷くのを確認してから、肩に手をかざす。一瞬で業を発動させると、陥没した肩がゆっくり風船のように膨らんでいった。

 できることならこのまま完治させてあげたかったが、緊急事態ではそう思い通りにならない。

「聖女殿、こちらの方が先です!」

 木村先生の鋭い声が響く。そちらの人の方が容態が悪いのだろう。

 断腸の思いで業を中断し、木村先生の診ていた男性の元へ向かうと、先生は座っていた場所を譲ってくれた。

「恐らく内蔵が破裂しております。治せますか?」

 損傷ではなく、破裂。そんな重傷治したことは無い。

 無いが、治さなければ助からないと木村先生の強ばった顔が物語っていた。

「やります」

 治せますとは言えなかった。悔しかった。私は自分の持っている力のことすら満足に理解出来ていないのだ。

 木村先生が示すお腹の上に手のひらをかざして集中する。溢れ出る光に、治れ、治れ、と強く念じた。

 患部が見えないというのは恐怖だった。本当に治せているのかの判断は患者の顔色を伺うしかないからだ。

 もしかして効果がないんじゃないかという不安が襲いかかってくるのを必死で振り払いながら、ただ待つしかない焦れったい時間に耐えた。

 十分はそうしていただろうか?

「顔色が良くなってきていますね」

 木村先生の声に顔を上げると、先程とは一転いつもの穏やかな表情の先生が患者の向こう側に座っていた。

「あちらの男性はただの脳震盪でした。頭を切っているので出血は多いですが大事ありません」

 私の緊張を和らげようとにっこりと笑顔を見せる。少しだけ肩の荷がおりたような気がしながらも、業が止んでしまわないように手のひらへ意識を集中し直す。

 先生が良くなっているというのなら、この患者は良くなっているのだろう。

 そばにいてくれる木村先生の存在が泣きたいくらい力強かった。

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