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聖女の私にできること  作者: 三ツ陰 夕夜
第二章 聖女の力

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第十二話 医療所勤務二

 私のお仕事は、いったん木村先生の隣での荷物持ちとなった。

 木村先生には重傷者が来るまでゆっくりしていていいと言われたのだが、お給料も発生する以上きちんと働かないとお福さんにも申し訳が立たない。頑として譲らない私に根負けする形で、木村先生は荷物を預けてくれた。

 荷物とは言ったが、実際は凡庸性の高いすぐに使える治療キットみたいなもので、包帯とキズ薬、咳の薬がほとんどらしい。

 ここに無い薬は都度奥で調合するらしく、病院と薬屋を兼ねた施設ということのようだ。

 そしてこの施設、凄く画期的だと思ったところがひとつある。まず、三名の先生が別々の部屋で新しく来た患者さんを診ていて、軽傷ならすぐ処置し、難しい場合や判断に困った時は木村先生の部屋へと促す。

 この三人がいわゆる外来の受付を兼ねているため、診察不要な人や態度が悪すぎる人はすぐお帰りいただいているのだ。

 それ以外の先生は調薬や消耗品の管理、お会計と、ある程度役割が分かれていて効率の良さが伺える。

「こんにちは。手間をかけてすみませんが、もう一度私に症状をお聞かせいただけますか?」

 木村先生の本日の患者第一号は、小太りのおばさんだった。

 昨晩から胃が気持ち悪いのだと訴えるその人は、しきりにお腹をさすっていて顔色も少し悪いように見えた。

 「それは大変でしたね」と、木村先生は患者の気持ちに寄り添いながら症状の詳細を聞き出していく。

 あちらの世界と違い検査の方法も限られるため、恐らくこの会話力がとても重要になってくるのだろう。

 明らかに関係ない話もうんうんと頷きながら、話が脱線しそうな時は軌道修正しながら、木村先生がおばさんの症状を聞き出していく。

 昨日の昼に傷んだ魚を食べたのならそれが原因だと私にも気づいたが、話をやめないのにはわけがあるのだろうか・・・?

「では、最後にもう一度腹の音を聞かせていただけますか?」

 聴診は受付の診療でやっていたはずだが、まだ何か確認したいことがあるらしい。

「腹を出しての確認となりますゆえ、こちらに横たわっていただきたい」

 その言葉で木村先生の意図を察した私は、大きな布を取り出した。

「帯を緩めていただけますか?」

 先生の代わりに説明をしながらおばさんの体を布で遮る。同じ性別の私に気が緩んでくれたらしく、おばさんは素直に帯を解いてくれた。

 そのまま横になったおばさんの胸元を布で隠し、お腹だけが見えるように調整する。

 お福さんのお店で治療してた時も、肌が見られて平気な人もいれば絶対に見られたくない人もいたので、こういう細かい配慮はちゃんとしていたのだ。

 準備が出来ると木村先生は聴診器でおばさんのお腹の音を聞き始めて。

「なるほど・・・」

 目をつぶりながら数分かけて音を聞いていた先生は、聴診器を離すとにっこりと微笑んだ。

「おめでたですな」

「え、やだ先生そんなこと・・・!」

 おばさんが、恥ずかしそうな嬉しそうな声を上げる。

「これより二月(ふたつき)の間はできるだけ仕事も休むように。それ以降も力仕事はお控えください」

 説明を受けるうちに実感が湧いてきたのか、おばさんの顔から戸惑いの色が消え、お腹を大事そうにさすり出した。

 あちらの世界でも出産は命懸けなのに、ここではもっと大変だろうに・・・。

 喜ばしさと心配な気持ちが混じりあって凄く複雑な心境だったが、でもそれはそれ。私も木村先生に倣って「おめでとうございます」とニッコリ微笑んだ。



 吐き気止めの漢方を処方された妊婦のおばさんは、すっかり足取りも軽く帰って行った。

「治療以外のお手伝いも安心してお任せできそうですね」

 次の患者さんが来るまでの空き時間に、なんとお褒めの言葉をいただいた。

 布で患者さんのプライベートゾーンを隠したことだろう。木村大先生に褒められると少し照れくさい。

「あれくらいでしたら前のところでもしてましたから」

 一度広げた布をまた折りたたんで片づける。本来なら割いて患部を覆う用の布だったから。

「でも、妊娠は分かりませんでした」

 つわりの吐き気なら恐らく聖女の術も役に立たなかっただろう。「傷んだ魚」という単語だけで判断してしまった自分の考えの甘さに少し落ち込んでしまう。

「元より医療の知識がないことは伺っておりましたゆえ、お気にされるほどでもございますまい」

 良いところは褒めて、駄目なところは優しく励ます。なんて理想的な上司だろうか。

 軽い感動を覚えた私は、一生ついて行きます・・・!と、木村先生に心の中で最敬礼を捧げた。

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