第十一話 医療所勤務
医療所に着くと、ちょうど昼食の準備が済んだ医師達が木村先生の帰りを待っていた。
慕われているようで、待っていた医師達が「お帰りなさいませ」と口々に挨拶をする。
「ただいま戻りました」
木村先生はにっこりと笑顔を作ると、空いていた席にゆっくりと座った。
私は、と見回すが用意されている席なんてあるはずもなく、入口に近い先生方に「なんだお前は」という視線を浴びせられ、いたたまれない気分になった。
「こちらへ」
木村先生から救済の声がかけられて、ホッとしながら先生の横に座った。
先ほどより倍増した胡乱な視線が突き刺さったが、木村大先生がいれば何とかしてくれるだろうと気を抜くことが出来た。
「人をそのように無遠慮に見つめるものではありませんよ」
更なる救いの一言で、先生方は一斉に品定めをやめてくれた。やはり木村先生は人としての位が違う。
「予定より少し遅くなってしまいましたが、こちらの方を紹介させて頂きたい」
木村先生は先生方を見渡しながら言うと、最後にチラリと私の方を見た。
その視線に釣られるように先生方の視線が戻ってくる。
「こちらが巷で噂となられている聖女殿です」
何人かが息を飲むのが聞こえた、純粋に驚く顔もあれば、嘘だろ?と眉を顰めていたり、考え込むように口元に手を当てている先生もいた。
「木村先生」
一人の先生が手を挙げて発言の許可を求める。いつもの事なのか、木村先生は目線だけでどうぞと許可を出した。
「もしや、先日園田先生を治療されたのってその方なのでしょうか?」
「そうです」
答えを聞いた瞬間、先生方がざわつき始める。十人ほどしかいなかったが、口々に喋っているとそこそこの騒ぎ方だ。
エセ治療だと疑われるのも、心酔したように感謝されるのも多少慣れて来ていたが、医師の先生方の反応にはどうして良いものかと困ってしまう。
困った時の木村先生とばかりに彼の方を見ると、得意げに微笑んでいるのが見えた。
このおじいちゃん少しお茶目なところがあるのか。
騒ぎ出した時は驚いたが、さすがに人生の経験値が違うようで、騒ぎは直ぐに収まった。
完全に静かになったのを見て、木村先生はまた口を開く。
「私はこの方にこの医療所で働いて欲しいと願い出て、ご快諾いただきました。殿への挨拶もすでに済ませておりますゆえ、昼餉の後に自己紹介の時間を設けさせていただきたい」
うんうんと頷く先生方の反応を確認すると、木村先生はまた私の方を見てニコリと笑った。
急遽私の分も用意してもらった昼食を終えると、先生方は膳を片付けて流れるように木村先生の話を聞く体形に座った。
うっすらと、小学校の時の掃除の後の時間のようだなと思った。
尤も、平均年齢が三十歳後半くらいのおじさん達なので軍隊みたいと言った方が近いのかもしれないが。
私は、膳を片付け終わるとすぐに木村先生の隣の安全圏を確保していたので、今度は迷子にならずに済んだ。
そして、全員が座ったのを確認してから、木村先生は喋り出す。
「先程もお伝えした通り、この方が園田先生をあの状態から快癒させてくださった聖女殿です。私も治療の際立ち会わせていただきましたが、奇跡としか言い表せない御業でございました」
奇跡。確かに私も治してもらう立場であればそう表現しただろう。万能でこそなかったが、使い方さえ分かっていれば園田先生の時のように命を救うことも出来るのだ。
「残念ながら少し前より以前の記憶が定かではいらっしゃらず、どこでこのような力を身に付けられたかは分からないとのことですが」
そうですよね?と確認するように木村先生がこちらを伺う。
罪悪感で胃がキュッとなったが、悟られないように大袈裟に頷いた。
「お力をお貸しいただけることになりましたので、先生方におかれましてもよろしくお願いいたします」
木村先生が頭を下げるのに合わせて私も頭を下げる。
すんなりと受け入れてくれる訳もなく、あまり好意的では無い拍手が聞こえた。
頭を上げると、木村先生に挨拶をどうぞと表情で促される。
あちらの世界ではアイコンタクトなんて文化がほとんどない環境にいたが、こちらではよく使われているようで、私にも自然と察しの能力が身についていた。
正面から何人ものおじさん達に見られると圧迫面接かと思うほどの圧力を感じたが、これも経験!とお腹に気合いを入れる。
「はじめまして。聖女と呼ばれていますが、残念なことに私は自分のことやこの力のことがよく分かっていない状態です」
転生するまでの話は記憶喪失である設定にしていたので、こういう自己紹介の場での言い回しが難しい。
だが、そこそこの人生経験は積んでいる。やる気アピールであれば自信があった。
「木村先生のご好意で皆さんのお手伝いをさせて頂くことになりました。医療についての知識はほとんどありませんが、お手伝いの傍ら医療のことを学ばせていただきたいと思っています。この力については、皆さんの医療に携わるものとしての心得を伺いながら、どう使っていくべきかを考えていく所存です。どうぞよろしくお願いします」
一人一人の目、を見ると恥ずかしいので、鼻の辺りを見ながら力説した。完璧なスピーチだったのではないだろうか。
それを保証するように先程よりも暖かい拍手が贈られる。
そんな感じで、同僚からの第一印象はまずまず良好というところから始まったのだ。




