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ドーセントの目《絵の記憶》  作者: プロトリアン
5/5

作者不明

封印された痕跡


「全部で5点です。すべて『作者不明』に分類されている作品です。」


ユリムが渡してくれたリストを、私はゆっくりと眺めた。紙に書かれたタイトルは簡潔だった。

〈無題 – 肖像〉、〈赤い痕跡〉、〈影の中の顔〉…寄贈年はそれぞれ異なっていたが、共通点は一つだった。

寄贈者がすべてユソン文化財団と明記されていたのだ。


「展示場に飾られたことは一度もなく、内部の収蔵庫にだけあったそうです。」


ユリムは声を潜めて囁いた。


「でも妙に、全部—」

「女性が主人公ね。」


私は彼女の言葉を遮り、リストを見下ろした。


「そして…みんな、どこかの時点で失踪したか、孤立した状態で最後の足取りが途絶えている。」


ユリムは黙って頷いた。彼女の眼差しは不安と好奇心が入り混じっていた。


「そのうちの一人、『チョン・ソア』という名前を覚えています。地域のギャラリーで展示準備中に行方不明になったそうです。でも、その直前に—」


「財団にポートフォリオを提出したのね。」


私はユリムより先にファイルをめくりながら言った。


「寄贈直後、絵は内部倉庫へ。人は痕跡もなく消えたと。」


これは偶然ではない。私はますます強くそれを感じていた。


ユソン文化財団は絵を収集したのではなかった。彼らの「痕跡」を封印しているのかもしれない。

私はリストを置いてユリムを見た。


「ユリム、今日、収蔵庫に入れる?あの絵、直接見たいわ。」


ユリムはしばらくためらってから頷いた。


「たぶん大丈夫。でも…カンチーム長が最近ちょっと神経質なの。こっそり入らないとダメかも?準備はいい、探偵チョン・ウンビ?」


彼女の冗談に、私はふと笑った。しかし、心の片隅は重かった。

カンチーム長の鋭い眼差し、彼の警告がしきりに頭に浮かんだ。


「あまり深入りしないでください、ウンビさん。」




収蔵庫の秘密


その日の午後、ユリムと私は美術館の地下収蔵庫へ向かった。

職員用エレベーターはゆっくりと降りていき、ドアが開くと冷たい空気が私たちを迎えた。

収蔵庫は静まり返っていた。蛍光灯が点滅し、埃をかぶった陳列棚を照らした。


「ここよ。」


ユリムが懐中電灯で片隅を指した。

銘板もなく番号だけで管理されているキャンバスが、ぽつんと置かれていた。


「これが…チョン・ソアさんの絵。」


ユリムが指差したキャンバスは、赤色の絵の具がにじんだ抽象画だった。

一見すると無秩序な色彩の流れのようだったが、私はその中に何か—「形」があることを直感した。

私はスケッチブックを取り出した。絵の前に立つと、微かな囁きが耳に染み込んだ。記憶のように、風のように。


「…そこに…誰か…いる…の?」


その瞬間、手に持ったペン先がひとりでに動き始めた。


目の前がぼやけ、私は新しい空間に吸い込まれた。


赤い霧が立ち込める空間だった。キャンバスににじんだ色彩が生きているように動いた。

その中で、形が浮かび上がった。

無表情な顔々。みな女性だった。

泣いている者、顔をそむけている者、唇を閉じている者。彼女たちは一人一人鮮明になり、私を取り囲んだ。

そして彼女たちの後方には、ぼんやりとしたシルエットが立っていた。

まるで舞台裏で人形劇を操る人のように。形は曖昧だったが、目だけはひときわはっきりしていた。冷たく非現実的な、その目。


「この人…あの時の人だ。」


私はつぶやいた。スケッチの中の男。美術館で、財団で、そして絵の中で私を見つめていたその存在。

ペン先が素早く動いた。私の意思とは関係なく、彼のシルエットが紙の上に描かれた。

だが今回は違った。彼の後ろに、女性たちの顔が重なっていた。イ・スヨン、チョン・ソア、そして名も知らぬ人々。


「ウンビお姉さん、大丈夫ですか?」


ユリムの手が私の腕を掴んだ。私は息を荒げながら現実に戻った。

スケッチブックには、先ほど見た幻影がそのまま描かれていた。無表情な女性たち、そしてその後ろの男。


「ユリム…この絵、ただの抽象画じゃない。ここに…実在の人物がいる。」


ユリムはスケッチブックを見て目を丸くした。


「何?人たち?ウンビお姉さん、これ本当に怖い。この男…誰?どうしてしきりに現れるの?」


私は答える言葉が見つからなかった。だが一つ確かなことがあった。

この絵は単なる芸術品ではなかった。それは誰かの秘密、誰かの絶叫を封印した記録だった。


---

収蔵庫を出て、私たちは美術館近くの小さなカフェへ向かった。ユリムは依然として不安そうな表情だった。


「ウンビお姉さん、本当に大丈夫?最近、顔がすごく青白いよ。

それに…あの絵、すごく変だよ。どうして全員女性なの?どうして全員行方不明になったの?」


私はコーヒーカップを見下ろしながらため息をついた。


「私にも分からない。でも…イ・スヨンが私の名前を呼んだ。チョン・ソアの絵からも何かが私を呼んだ。これは偶然じゃない。」


ユリムはカップを置いて首を傾げた。


「でもあの男は何?スケッチの中の人。財団の役員だって言ってたじゃない?もしかして…彼がこのすべてを知っているんじゃない?」


「そうかもしれない。」


私はスケッチブックを広げ、彼の顔を改めて見た。


「彼がイ・スヨンを描いたのかもしれないし…チョン・ソアをはじめとする他の人たちの絵にも関連があるのかもしれない。」


ユリムはため息をつきながら笑った。


「分かった、探偵チョン・ウンビ。じゃあ次は?財団にまた乗り込むの?今度は豚足じゃなくてサムギョプサルおごるから、オッケー?」


彼女の冗談に、私はふと笑った。だが、心の片隅はますます重くなった。

これらの絵は私に近づいてきていた。そしてあの男は…その中心にいた。


---

その日の夜、

私はベッドに横たわり、再びスケッチブックを開いた。

チョン・ソアの絵の前で描いた人物の一人—泣いていた女性に焦点を合わせた。

彼女の瞳は深く、悲しみで満ちていた。

私は鉛筆を手に取り、彼女の顔をなぞって描き始めた。

すると、彼女の瞳の中に別の残像が浮かび上がった。


舞台。照明。そして…ポラロイド写真。誰かの顔がプリントされた写真が破れていた。


「彼は決して…私を知らないと言うでしょう。」

声が耳に聞こえるように鮮明だった。


私は息を止めた。手がひとりでに動き、ポラロイドを描いた。

写真の中の破れた顔の下に、ぼんやりとした文字が現れた。


「…ヒョン。」


そして、写真の端にはっきりとしたマークが一つ。ユソン文化財団のロゴだった。


「これ…何…?」


私は震える手でスケッチブックを見下ろした。「ヒョン」という名前。

イ・スヨン、チョン・ソア、そしてまた別の誰か。これらすべての人が財団と絡み合っていた。


---

翌朝、

私は美術館へ向かった。いつもより足取りは重かった。

第3展示室に入ると、イ・スヨンの肖像画が私を待っていた。

私は注意深く絵の前に立った。手袋をはめた手でフレームを触った。

再びあの作業室が脳裏に浮かんだ。赤い霧、無表情な女性たち、そしてその後ろの男。


「ウンビ…彼を信じないで。」


イ・スヨンの声が再び響いた。だが今回は新しい声が混じり合っていた。


「彼は私たちを消したの。」


チョン・ソアだった。彼女の声は震えていたが、切実だった。

私は手を離し、息を荒げた。視界がぼやけた。

超能力を使うたびに私の目はますます弱くなった。目が見えなくなっても止めることはできなかった。

その瞬間、展示室のドアが開いた。足音が近づいてきた。私は後ろを振り返った。

カンチーム長だった。


「ウンビさん、またここで何をしていますか?」

彼の声はいつも通り優しかったが、眼差しは鋭かった。


「ただ…絵を見ていたんです。」

私は努めて笑顔で答えた。


カンチーム長は絵をちらりと見て言った。


「この絵は良い作品です。しかし…あまり執着すると良くないことが起こるかもしれませんよ、ウンビさん。」


彼の言葉が終わると、展示室の照明が点滅した。私は心臓がどきんと落ちるのを感じた。


---

その日の夜、私は机に座ってスケッチブックを再び開いた。

ポラロイドの破れた顔、「ヒョン」という名前、ユソン文化財団のロゴ。すべてが絡み合っていた。

私は鉛筆を手に取り、新しいスケッチを始めた。今度はあの男のシルエットを中心に、彼の後ろに立っている女性たちを描いた。

イ・スヨン、チョン・ソア、そして名もなき人々。彼らは皆、私を見つめていた。


「彼は私たちを消したの。」


チョン・ソアの声が頭の中で響いた。私は鉛筆を止め、スケッチを見下ろした。

彼の眼差しは冷たく、非現実的だった。まるで舞台裏で人形劇を操る人のように。

私は窓を開けて夜の空気を深く吸い込んだ。

ソウルの灯りは遠くで輝いていたが、その光は暖かくなかった。冷たく、鋭い影のように私を包み込んだ。


イ・スヨンとチョン・ソアはなぜ私を呼んだのだろうか。「ヒョン」は誰なのだろうか。

そしてあの男はなぜこのすべての絵の中に存在するのだろうか。

私はスケッチブックを閉じながら決心した。ユソン文化財団の影の中に、もっと深く入っていかなければならない。

彼らの秘密、彼らの痕跡を探し出すために、もしかしたら生きているかもしれないから…

だがその瞬間、机の上の電話が振動した。

画面には見慣れない番号が表示されていた。私は息を止めた。電話に出ると、低い声が聞こえた。


「チョン・ウンビさん、どこまで知っているんだ?」


その声は聞き慣れないものだったが、どこか聞き覚えがあった。スケッチの中の男の眼差しが頭に浮かんだ。

私は電話を切って息を整えようと努めた。だが心臓はますます速く鼓動した。

絵は私を呼んでいた。そして私は今、舞台裏の人形劇に立ち向かう準備をしなければならなかった。

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