表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ドーセントの目《絵の記憶》  作者: プロトリアン
4/6

スケッチの中の顔


「この人…どこかで見たことありませんか?」


私は慎重にスケッチブックをユリムに差し出した。鉛筆で描かれた男の顔は、生き生きとしていながらも、どこか妙に慣れ親しんだ感じがした。


深く窪んだ目元、シャープな顎のライン、古典彫刻のような冷淡な雰囲気を醸し出していた。彼の眼差しは相変わらず私を追いかけていた。絵の中で、そして私の頭の中で。


ユリムはスケッチブックを受け取ると、しばらくの間じっと見つめていた。彼女の目がどんどん大きくなり、唇が少し開いた。


「…わ、これいつ描いたんですか?ディテールが本当にすごい…雰囲気がちょっと、見覚えがあるけど…」


彼女は眉をひそめ、記憶をたぐり寄せた。私は息をひそめて待った。ユリムの記憶力は鋭かった。彼女が何かを思い出すなら、それは重要な手がかりになるはずだった。


「…思い出した。」


私の心臓がどきっとした。


「去年の後援会のオープニングパーティーで見たわ。美術館の大口寄贈者の一人で、ユソン文化財団の理事会の人間だったかしら…正確な役職は覚えてないけど、まさにこの雰囲気だった。あまりにも印象が強くて覚えてるの。」


「この人が…財団関係者だって?」


私の声が少し震えた。ユリムは頷きながら言葉を続けた。


「ええ。それと、もう一つ。」


彼女は声を潜めた。漢南洞のカフェの騒音が私たちを取り囲んでいたが、彼女の言葉は鋭く耳元に突き刺さった。


「その日、その人は、長い間ある絵をじっと見つめていたわ。誰かがその絵を片付けようとしたら、絶対にダメだって言ったの。まるで…それが生きている存在であるかのように。」


絵が生きている。絵が記憶を宿す。そして…その男は私を見た。

私はスケッチブックを閉じ、息を整えようと努めた。ユソン文化財団。イ・スヨン。そしてこの男。全てが絡み合っていた。彼がイ・スヨンを描いた画家なのだろうか?それとも彼女の最期の瞬間を目撃した人物なのだろうか?


「ユリム、あのオープニングパーティー…もしかして、その人がどんな絵を見ていたか覚えている?」


ユリムは首を傾げながら考え込んだ。


「うーん…正確には分からないけど、肖像画だったような気がする。でも、あの時は絵がものすごくたくさんあったから…ちょっとぼんやりしてる。ごめんね。」


「大丈夫。十分だよ。」


私は微笑んだが、心はますます重くなった。この男は単なる寄贈者ではなかった。彼は間違いなくイ・スヨンの秘密と絵の中に絡まっていた。


数日後、私は決意を固めた。ユソン文化財団に直接行かなければならない。イ・スヨンの失踪、スケッチの中の男の眼差し、そして絵の警告。すべての手がかりが財団を指し示していた。


私は国立現代美術館に偽装見学の申請書を提出した。展示協力の件で財団本社を訪問するドーセントという名目はもっともらしかった。カンチーム長は申請書を見て頷いた。


「いいでしょう、ウンビさん。財団との協力強化には、こういう訪問も重要です。気をつけて行ってらっしゃい。」


彼の微笑みは穏やかだったが、目には鋭いものがあった。私は努めて笑って彼を通り過ぎた。しかし、彼の視線がずっと気にかかっていた。


清潭洞、ユソン文化財団本社は、ソウルの富と権力が凝縮された街に位置していた。ガラスと鋼鉄でできた建物は、太陽の光を反射して冷たく輝いていた。ロビーに入ると、エアコンの風とともに妙な緊張感が私を包み込んだ。芸術支援を標榜する財団だったが、ここはどこか息苦しく冷たかった。


「ご用件は何でしょうか?」

受付の女性職員が整然とした笑顔で尋ねた。彼女の微笑みは完璧だったが、眼差しは刃を研いだようだった。


「展示協力の件で、美術館から参りました。ドーセントのチョン・ウンビと申します。」


彼女はタブレットを確認して頷いた。


「はい、チョン・ウンビ様。会議室へご案内いたします。」


エレベーターを待つ間、私はロビーを見回した。壁にはユソン文化財団が寄贈した作品の写真が飾られていた。肖像画、風景画、抽象画。


そしてその中の一つ…灰色のドレスの女性。イ・スヨンの肖像画だった。


心臓がドキドキと鳴った。ここにも彼女の絵があった。


エレベーターの扉が開いた瞬間、一人の男が私のそばを通り過ぎた。濃い灰色のスーツ、ガラス玉のような眼差し、そして…スケッチブックの中のあの顔。

私は息を止めた。彼の目が私をかすめた。短い瞬間だったが、その眼差しは鋭かった。まるで私を見透かすようだった。

彼は頷きもせず、避けることもしなかった。ただ、私を認識しているようだった。


「…どうして知っているの?」


その言葉が口から出かかった。しかし、彼は何も言わずにエレベーターの中へ消えた。扉が閉まり、彼の後ろ姿が視界から遠ざかった。

私は手を胸に当てた。心臓がとても速く打っていた。彼は間違いなくスケッチの中のあの男だった。絵の中で私を見つめていたあの眼差し。イ・スヨンの最期の瞬間を目撃した人物。


会議室に案内された私は席に着いた。ユソン文化財団の職員たちが次々と入ってきた。形式的な紹介、微笑み、名刺交換。しかし、私の頭の中は先ほどすれ違ったあの男でいっぱいだった。


「チョン・ウンビドーセント様、国立現代美術館からいらっしゃいましたね?今回の展示協力の件、良い機会だと思っています。」


財団の広報担当者、40代前半の男性が笑って言った。彼の名刺には「理事 キム・ミンソク」と書かれていた。しかし、彼は私が会ったあの男ではなかった。


「はい、ありがとうございます。今回の展示、ユソン文化財団の寄贈作品が大きな役割を果たしました。」


私は努めて冷静に答えた。しかし、視線はしきりに会議室のドアに向かった。彼が再び現れるか、あるいは現れないか、恐ろしかった。


会議は1時間以上続いた。展示日程、寄贈作品リスト、後援計画。私はメモを取りながら頷いたが、頭の中は別のことでいっぱいだった。イ・スヨン。絵。そしてあの男。

会議が終わった後、私は慎重に尋ねた。


「もし…ユソン文化財団が寄贈した肖像画の、作家情報を知ることはできますか?特に『無題 – 灰色のドレスの女性』について興味があります。」


キム・ミンソク理事は微笑んで首を振った。


「ああ、あの作品たちですね。ほとんどが作者不詳なんです。古い収集品で、記録があまり残っていませんね。ユソン文化財団は芸術を保存することに重点を置いていますので、作家情報はあまり気にしません。」


彼の返答は滑らかだったが、どこか隙があるように感じられた。私はもっと聞きたかったが、彼の眼差しが鋭く変わるのを感じて口を閉ざした。


美術館に戻った私はユリムを探した。彼女は展示室でオーディオ機器を点検していた。


「ユリム、今日…あの男に会った。」


ユリムは手を止め、私を振り返った。


「え?あのスケッチの中の男?どこで?」


「清潭洞。ユソン文化財団の本社で。エレベーターですれ違ったんだけど…私を認識しているようだった。」


ユリムの目が大きく見開かれた。


「本当に?これますます怖くなってきた。あの男が財団の理事だったら…イ・スヨン事件とさらに深く絡んでるんじゃない?」


私は頷いた。


「そうよ。それと…私たち、イ・スヨンさんが失踪した日付の前後で、財団から寄贈された絵のリスト、全部確認できる?」


ユリムはしばらく考えてから頷いた。


「できると思う。美術館のデータベースに寄贈記録が残ってるはずよ。でも…これ本当に危ないんじゃない?カンチーム長も最近、あなたをちょっと変な目で見てるじゃない。」


彼女の言う通りだった。カンチーム長の鋭い眼差し、彼の警告。「深入りしないでください。」その言葉は単なる助言ではなかった。


「それでも…知りたいの。イ・スヨンが私の名前を呼んだ。あの男が私を見た。これはただの偶然じゃない。」


ユリムはため息をついて笑った。


「分かった、探偵チョン・ウンビ。でも今度はコプチャンじゃなくてチョッパルおごるってことで、OK?」


彼女の冗談に私はふっと笑った。しかし、スケッチブックを閉じると、彼の眼差しが私のうなじを冷やすのを感じた。


その夜、家に帰った私は机に座った。スケッチブックを開くと、彼の顔が再び私を見つめていた。深く窪んだ目元、静かな怒り。しかし今日は違った。彼の眼差しは単なる警告ではなかった。まるで私に何かを伝えようとしているかのようだった。


私は手袋を外し、慎重にスケッチブックに触れた。超能力を使うたびに視界がぼやけたが、今回は止めることができなかった。指先から電流が広がった。

目の前がぼやけ、私は新しい空間へと吸い込まれていった。


暗い廊下だった。ガラス窓の向こうには清潭洞の夜景が見えた。廊下の突き当りにはドアが一つあった。ドアの隙間から漏れる光、そして低い声。


「絵には絶対に触るな。」


その声はスケッチの中の男の声だった。断固としていて、どこか切羽詰まっていた。

ドアが開き、私は彼の視線の中へ入っていった。部屋には机と書類の山、そして壁にかけられた絵。イ・スヨンの肖像画だった。しかし今回は違った。彼女の瞳が動いた。まるで私を追ってくるかのように。


「ウンビ…彼を信じないで。」


イ・スヨンの声が耳元に響いた。私は息を止めた。彼女の声はより鮮明で、より切羽詰まっていた。

その瞬間、男が顔を向けた。彼の目が再び私に向けられた。


「お前はなぜここにいるんだ?」


彼の声は冷たく鋭かった。私は彼の視線から逃れようとしたが、体が動かなかった。まるで絵の中に閉じ込められたようだった。


目を開けると、私は机に突っ伏していた。スケッチブックは開いており、彼の顔は相変わらず私を見つめていた。指先が震えた。今見た幻影は単なる記憶ではなかった。イ・スヨンは私に警告していた。そしてあの男は…私を知っていた。

私は鉛筆を取り、スケッチの横に書き込んだ。


「彼を信じるな。」


イ・スヨンの警告だった。しかし「彼」とは誰なのか?スケッチの中の男?カンチーム長?それともユソン文化財団の別の誰か?

私は窓を開けて夜の空気を吸い込んだ。清潭洞の明かりが遠くで瞬いていた。しかしその明かりは暖かくなかった。冷たく、鋭い影のように私を包み込んだ。


イ・スヨンはなぜ私を呼んだのだろうか。あの男はなぜ私を知っているのだろうか。

そして、この絵たちはなぜ私に話しかけてくるのだろうか。


私はスケッチブックを閉じ、決心した。ユソン文化財団の影の中へもっと深く入り込まなければならない。イ・スヨンの秘密、あの男の正体、そして私の超能力の本当の意味を知るために。

しかしその瞬間、電話が鳴った。画面には「カンチーム長」という名前が表示されていた。私は息を止めた。なぜよりによって今?彼の声が頭の中でこだました。


「深入りしないでください、ウンビさん。」


私は電話に出なかった。しかし、電話は鳴り続けた。まるで私を追いかける影のように。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ