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ドーセントの目《絵の記憶》  作者: プロトリアン
3/16

消された名前



その夜、私は眠れなかった。

ノートパソコンの青い光が部屋を満たしていた。

検索窓に入力した名前、イ・スヨン。彼女の痕跡はあまりにも希薄だった。


名前:イ・スヨン。年齢:25歳。最後の足取り:3年前10月、漢南洞の個人作業室。失踪後現在まで生死不明。


私はしばらく画面を見つめた。

名前のある人を探すということは、存在の最も基礎的な確認だ。

しかし、イ・スヨンは世界のどこにもいなかった。絵の中の一場面を除いては。


「失踪にしてはあまりにも静かじゃないか。」

独り言が口から漏れた。


ニュース記事一つ、ブログ一行。

まるで誰かがわざと彼女の痕跡を消したかのように、イ・スヨンの人生は絵一点にしか残っていなかった。


絵は誰かの記憶であり記録だ。だとすれば、その場面を残した人は…絵を描いた人は誰だろう?


私はノートパソコンを閉じて窓の外を見た。

漢南洞のネオンサインが遠くで輝いていた。

その光の中のどこかに、イ・スヨンの秘密が隠されているのかもしれない。

しかし、今は何もできなかった。ただ、頭の中で彼女の声がこだまするだけだった。


「助けて…お願い、ウンビ。」

彼女が私の名前を呼んだ瞬間、私の心臓は凍りついた。

これは単なる幻影ではなかった。絵は私に何かを伝えようとしていた。


翌朝、国立現代美術館へ向かう道は、なぜかさらに重く感じられた。

出勤チェックをして、オーディオ設備を点検しながら、普段通りに一日を始めた。

しかし、指先は依然として冷たかった。


第3展示室。『無題 – 肖像』がかけられている場所。午前の来館者がいない隙を見て、私は再び絵の前に近づいた。

白い壁、ほのかな照明の下、彼女の瞳は依然として私を見つめていた。


「今度は…もっと深く見られるだろうか。」

私は慎重に手袋をはめた手を上げて絵のフレームに触れた。

ドーセントとして絵に触れることは禁止されているが、この能力は指先を通じて伝わる。息を吸い込んだ瞬間、おなじみの電流が脳に広がった。

目の前がぼやけ、私は別の世界に吸い込まれていった。


色あせた天井、絵の具が飛び散った木の床、長い窓の隙間から日が差し込む作業室。雨の匂いは消え、代わりに暖かい日差しが部屋を満たしていた。絵の中の女性、イ・スヨンは依然としてキャンバスの前に座っていた。灰色のドレス、おとなしい手、そして彼を貫く瞳。

しかし、今回は違った。彼女の前に、男が立っていた。


黒いシャツ、白いエプロンには絵の具がついていた。筆を握った手は止まっており、彼の目はイ・スヨンを見つめていたわけではなかった。

彼は…彼女の恐怖に耐えていた。


「これは…芸術じゃない。」


彼の声は低く、かすれていた。芸術に没頭した画家の言葉ではなかった。

葛藤と苦痛、恐怖が入り混じった告白のようだった。

私は彼の視線でイ・スヨンを見た。彼女は動かなかった。

しかし、彼女の指先が微かに震えていた。恐怖だった。

その瞬間、男の瞳が突然私に向いた。


「……!」


息が止まった。彼は絵の中の空間で私を認識していた。彼の目は深く、静かな怒りに満ちていた。まるで私に警告するかのように。


「ウンビさん!」

突然の叫びに私は現実に戻った。カンチーム長が戸惑った顔で立っていた。


「大丈夫ですか?またぼんやりと…何かに取り憑かれた人みたいに、本当に大丈夫ですか?」


私は頷けなかった。指先は氷のように冷たかった。今見たあの男、彼の眼差しは単なる「記憶の再現」ではなかった。

彼は生きていた。どこかに、あるいはまだこの絵の中のどこかに。


「大丈夫です…ただ、少しめまいがして。」


私は無理に笑って答えた。

カンチーム長は目を細めて私をじっと見た。


「ウンビさん、最近少し無理してるんじゃないですか?あの絵、あまり気にしすぎないでください。ただの芸術品ですから。」


彼の言葉は柔らかだったが、どこか鋭い響きがあった。私は頷いたが、心の中は混乱していた。


退勤後、私はユリムと漢南洞のいつものカフェへ向かった。ユリムはラテの上に描かれたハートの形を見てぶつぶつ言った。


「このバリスタ、毎日ハートばっかり描くね。次はお星様描いてって言わなきゃ。」


私はふっと笑ってコーヒーカップを見下ろした。しかし、頭の中は依然としてあの作業室、あの男の眼差しでいっぱいだった。


「ユリム、今日…またあの絵を見たの。」


私は慎重に口を開いた。


ユリムはカップを置いて目を丸くした。


「何?また?ねえ、チョン・ウンビ、あんた本当にあの絵に取り憑かれたんじゃない?今度は何見たの?」


私は息を整えて言った。


「今度は女の人じゃなくて…男の人がいたの。画家みたいだった。でも…彼が私を見たの。私の名前を知ってるみたいに。」


ユリムの表情が固まった。


「何?名前?ウンビ、それちょっと怖いよ。本当に。もしかして…あんたの見間違いじゃない?」


「違う。はっきりしてた。彼は私を見てた。そして…『これは芸術じゃない』って言ったの。」


ユリムはため息をついて首を振った。


「ねえ、これはただの絵じゃないよ。何かおかしい。ユソン文化財団とも関係あるじゃない。あの財閥、キム・テヒョン会長…なんか怪しくない?」


私は頷いた。


「そう。そしてイ・スヨン、あの失踪した女の人…彼女もユソン文化財団で働いてたって。アートコンサルタントだったの。」


ユリムは口をあんぐり開けた。


「マジで?じゃあこれは単なる偶然じゃない。ウンビ、私たちこれ、本当に掘り起こすべきなんじゃない?でも…あんた大丈夫?顔がどんどん青白くなってる。」


私は手で目元をこすった。視界がまたぼやけてきた。この能力を使うたびに、私の目はどんどん弱くなった。しかし、止めることはできなかった。あの男の眼差し、イ・スヨンの声が私を捕らえていた。


「大丈夫。ただ…少し調べてみなくちゃ。あの男が誰なのか、なぜ私を見たのか。」


ユリムはため息をついて言った。


「よし、探偵チョン・ウンビ。でも一人でやらないでね。私も手伝うから。その代わり、今度はチキンじゃなくてコプチャン奢ってね!」


彼女の冗談に私たちは同時に笑い出した。しかし笑いの裏で、不安はどんどん大きくなっていった。


その日の夕方、家に帰って私は机に座った。指先が震えた。

絵の中の男の眼差しが頭から離れなかった。私は静かに画材道具を取り出し、久しぶりにスケッチブックを開いた。

ドーセントとして絵はよく見ていたが、自分で描くのは久しぶりだった。

感覚に導かれ、手が動いた。鉛筆が紙を擦って線を描いた。


彼の黒いシャツ、絵の具のついたエプロン、そしてその瞳。静かな怒り、淡々とした悲鳴のような表情。

一線、また一線。私は息を殺して彼を描き出した。彼の目は深く、何かを語りかけようとしているようだった。

スケッチが完成した瞬間、私はハッと止まった。


「……誰ですか?」


自分に問いかけた質問は空気の中に消えなかった。スケッチブックの上、彼の目が本当に私に向かって笑っているようだった。

私は鉛筆を置いて息を整え、スケッチを眺めた。この男は誰だろうか。イ・スヨンとどんな関係なのだろうか。そしてなぜ…私を知っているのだろうか。


翌日、美術館はいつものように静かだった。しかし、私はもう普通のドーセントとして働くことはできなかった。

第3展示室に入ると、『無題 – 肖像』が私を待っていた。


私は慎重に絵の前に立った。手袋をはめた手を上げてフレームに触れた。

再びあの作業室が思い浮かんだ。色あせた天井、絵の具の匂い、そしてあの男。


「これは芸術じゃない。」


彼の声はさらに鮮明だった。そして今度は、彼の目が私を真っ直ぐ見た。


「ウンビ…気をつけろ。」


私は息を止めた。彼は確かに私の名前を呼んだ。

その瞬間、展示室のドアが開いた。足音が近づいてきた。私は手を離して後ろを振り返った。

カンチーム長だった。


「ウンビさん、またここで何してるんですか?今日はちょっと忙しくて気が散るでしょうに。」


彼の声は柔らかだったが、眼差しは鋭かった。


「ただ…絵を見ていただけです。」


私は無理に笑って答えた。


カンチーム長は絵をちらりと見て言った。


「この絵、良い作品ですよ。でも…あまり深く踏み込まないでください、ウンビさん。好奇心は時に危険を伴うこともありますから。」


彼の言葉が終わると、展示室の照明が点滅した。私は心臓がどきりと落ちるのを感じた。

絵は私を呼んでいた。そして私は今、名前のない絵の秘密の中へますます深く入り込んでいた。


その夜、私はスケッチブックを再び広げた。あの男の顔は依然として私を見つめていた。

彼の眼差しは警告であり、訴えでもあった。

イ・スヨンは誰だったのか。あの男はなぜ私を知っているのか。そしてユソン文化財団は、この全てとどう絡んでいるのだろうか。

私は鉛筆を手に取り、彼の顔の横に書き込んだ。


「気をつけろ。」

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