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ドーセントの目《絵の記憶》  作者: プロトリアン
13/16

侵入者の影


夜が更けた。

私はスケッチブックを抱きしめてソファに座っていた。チャン・ピラの最後の映像が頭の中を駆け巡った。


「ウンビ、もしこれを見ているなら…戦って。」


その断固たる声が耳から離れなかった。

スケッチブックのざらついた紙の上を指先でなぞりながら、私はゆっくりと彼女の顔を描き出した。

記憶の中で薄れていく輪郭を手探りするように、私の手は紙の上でためらった。

まるで筆の代わりに指先で絵の具を塗るように、彼女の表情、眼差し、そしてかすかな微笑みまで繊細に蘇らせようと努めた。

紙の質感が指先に生々しく感じられるほど、彼女はより鮮明に私の目の前に現れるようだった。疲れているがしっかりとした眼差し、私に向けられた切迫したメッセージ。


その瞬間、玄関の方から微かな金属音が聞こえた。

鍵の音ではなかった。

鋭い、ピッキングが鍵に触れる音だった。


心臓がどきりと落ちた。

私は息を潜め、スケッチブックと携帯電話を手にベランダに身を隠した。

ドアが「カチャ」と音を立ててゆっくりと開いた。


足音が家中に響いた。

ゆっくりと、慣れたような足取り。誰かが私の空間を侵していた。

私は112にダイヤルしようとして止めた。


「通報しても…遅い。これは単なる強盗じゃない。」


スケッチブックが手の中で熱く反応した。

ドアの隙間からかすめるシルエットが、私の手の下でぼんやりと描かれた。赤い眼差し、マスク、黒いスーツ。


「V-02、確保しろ。」


見知らぬ男の声が低く響いた。私は息を止めた。

V-02。チャン・ピラが残したテープ。彼らはそれを狙っていた。そして…私を。


---

追撃の心臓


彼が寝室に一歩足を踏み入れた瞬間、私は本能的に玄関のドアへ突進した。

彼の視線が私に届く前に、私の手はすでに冷たいドアノブを掴んでいた。

ガタン、と鍵が外れる音は、私が感じた緊張感と同じくらい大きく響いた。

ドアが開くと同時に、私は暗闇に包まれた廊下へ滑り込むように飛び出し、長い影の間を侵入者の足音が追ってきた。


「チョン・ウンビ、すでに監視中だった。逃げられない。」


彼の言葉が不気味なデジャヴュを引き起こした。

昨晩路地で見た影、赤い眼差し。彼らは私をずっと見張っていたのだ。

階段を滑るように降りた。後ろから追いかけてくる足音がだんだん近づいてきた。


「ここだ!」


建物裏手から太い声が聞こえた。明るいライトと共に黒いSUVが停車した。

私は本能的に立ち止まった。また別の追跡者だろうか?

しかし車のドアが開き、見知らぬ男が手を差し伸べた。


「チョン・ウンビさん、こちらへ。」


彼の眼差しは追われる者のものではなかった。

誰かを助けに来た人の目だった。

私はためらいながら彼の手に触れた。

車が発進すると、後ろから影たちの車両が追いついてきた。


男はハンドルを握りながら言った。


「都心CCTV、今迂回させました。3分だけ持ちこたえれば、後続車は跡形もなく消えます。」


彼の声は落ち着いていて、安心感を与えた。私は息を整えながら尋ねた。


「どなたですか?」


彼はしばらく私を横目で見て答えた。


「ミョン・ジェソン。ソウル中央地検経済特殊部検事です。ずいぶん前からユソン文化財団を調査中でした。そして…あなた、チョン・ウンビさん。あなたを探していました。」


彼の眼差しは深く、どこか温かかった。その瞬間、私は得体の知れない安堵感を覚えた。

しかし同時に、彼の存在が私の運命を再び揺るがすことを直感した。


---


ミョン検事は私をソウル都心郊外の、くたびれた建物の中にある秘密のアジトへ連れて行った。

オフィスの壁は、数多くの書類や写真、繋がれた糸で埋め尽くされていた。

ユソン文化財団のロゴ、NP-PROJECT-Ⅲの文書、そしてチャン・ピラの名前が至る所に散らばっていた。


「これは…」


私は壁に貼られた古い報告書を見つめながら呟いた。

ミョン検事はテーブルに一枚の書類を差し出した。


「NP-PROJECT-Ⅲに関する国政監査漏れ報告書です。そしてこれはチャン・ピラ博士の警告映像の一部複製本。」


彼はモニターをつけ、チャン・ピラの映像を再生した。彼女の声がアジトを満たした。


「ウンビ、あなたは彼らの絵じゃない。」


私は息を呑んだ。ミョン検事は書類を指差しながら言った。


「チョン・ウンビ、被験者02番。現在、実験以降に記憶と感情の回復反応が現れた唯一の事例。つまり…彼らが最も恐れる変数。」


「じゃあ…私が…」


私の声が震えた。


「あなたは『道具』ではなく『引き金』です。実験全体を無効化できる例外値。」


彼の言葉は断固としていたが、眼差しには微妙な温かさが込められていた。彼は机の上のコーヒーカップを私に渡した。


「長い夜でしたね。これでも飲んでください。」


コーヒーカップの温かさが指先に伝わった。

彼の手に触れた瞬間、心臓が軽く跳ねるのを感じた。

しかしすぐに首を振って現実に引き戻された。


「チャン・ピラ博士が言いました。『記憶が鍵』だと。そして『絵を通して感情を再生する能力』が…私が持っている鍵だと。」


ミョン検事は頷いた。


「では、その鍵で一緒に扉を開けますか?」


彼の目は私をまっすぐに見つめていた。

その視線に込められた信頼、そして微かな期待感が私の胸を打ち鳴らした。私はしばらくためらって口を開いた。


「やらなければ。イ・スヨン、チョン・ソア、そして…私のために。」


---


アジトの照明の下、私たちは計画を立てた。

ミョン検事は机の上にウォンジュG系列保管所の地図を広げた。


「チャン・ピラが残した最後の地点です。財団の秘密倉庫で、NP-PROJECT-Ⅲの核心データが保管されていると推定されます。

しかしセキュリティが厳重です。進入するにはコードを知る必要があります。」


私はスケッチブックを開き、チャン・ピラのメモを思い出した。


「進入コードは記憶。」


「記憶…私の超能力が鍵だと思います。絵を通して記憶を見る能力。それでコードを見つけなければ。」


ミョン検事は微笑んで頷いた。


「あなたの能力、本当に特別ですね。ドーセントとしての直感も含まれているんですか?」


彼の冗談に私は軽く笑った。


「ドーセントは絵の中の物語を読むんです。これは…ただその延長線上ですね。」


彼の眼差しが柔らかくなった。瞬間、作業室の空気が微妙に変わった。

彼は机の上の書類を整理しながら言った。


「チョン・ウンビさん、今夜はここで休んでもいいです。ソファは少し不便かもしれませんが…安全は保障します。」


彼の口調は軽かったが、真心が込められていた。私は頷いてソファに座った。

スケッチブックを握る手が温かくなった。ミョン・ジェソンの存在は見知らぬものだったが、不思議と信頼できた。

そしてその信頼の中に、得体の知れない感情が芽生え始めていた。


---


翌朝、私はユリムに電話した。

彼女は切羽詰まった声で言った。


「オンニ、大丈夫?昨晩電話したのに出ないから本当に心配したよ!」


「ごめん、ユリム。昨晩…ちょっと色々あったの。」


私はミョン・ジェソン検事との出会い、G系列保管所の計画を簡潔に説明した。ユリムはため息をついて言った。


「本当に、オンニは探偵映画の主人公みたい。でも今回は私も一緒に行かなきゃね?ウォンジュまで行くんだから、

私たちトッポッキもチキンもじゃない、デザートカフェ巡りどう?私がマカロン奢る!」


彼女の冗談に私は笑い出した。


「分かった、ユリム。一緒に行こう。でも…気を付けて。もう本当に危険だから。」


ユリムは真剣な声で答えた。


「分かってるよ、オンニ。でも私たちは最後まで行くよ。イ・スヨン、チョン・ソア、そしてチャン・ピラのために。」


---


その夜、アジトで眠ろうとした私はスケッチブックを広げた。

チャン・ピラの映像、ミョン・ジェソン検事のしっかりとした声、そしてウォンジュのセキュリティ倉庫が頭の中で絡み合った。

私は鉛筆を手にチャン・ピラの顔を描いた。


しかし再び手が勝手に動いた。

新しい場面が浮かんだ。


江原道の山奥、G系列保管所。コンクリートの壁の向こう、数十台のモニターが点滅していた。

画面にはイ・スヨン、チョン・ソア、そして私の顔が浮かんでいた。

そしてその中心に、赤い眼差しの男が立っていた。彼はキャンバスを手に私を描いた。


「もう一度描け。そうすればお前は思い出すだろうから。」


彼の声は低く、鋭かった。私は彼の視線と向き合った。

彼の顔はぼやけていたが、どこか見覚えがあった。ヒョン・ドユンではなかった。

しかし彼の存在は全てを見透かすようだった。


---


目を開けると、アジトの薄明かりが目に刺さった。

スケッチブックは膝の上に落ちていた。先ほど見た幻影が鮮やかに描かれていた。

赤い眼差しの男、G系列保管所、そして私に向けられた囁き。


私は立ち上がってミョン・ジェソン検事を探した。彼は机の前で書類を検討していた。


「また幻影を見ました。」


私はスケッチブックを差し出して言った。

彼は絵を見て目を細めた。


「この男…財団の内部人物である可能性が高い。ヒョン・ドユンの右腕、あるいはそれ以上。」


彼はしばらく沈黙した後、私を見つめた。


「ウンビさん、この戦いはますます危険になります。しかし…私があなたを守ります。」


彼の言葉が私の胸を打った。彼の眼差しにはしっかりとした決意と、微かな温かさが混じっていた。

私は頷いた。


「私も…止まれません。チャン・ピラが残した地図に従わなければ。」


ミョン検事は微笑んで手を差し出した。


「では、一緒に行きましょう。ウォンジュへ。」


彼の手を握った瞬間、心臓が再び鼓動した。

それは単純な同盟ではなかった。彼の手に伝わる温もり、彼の視線から読み取れる信頼。それは新たな始まりだった。


私はスケッチブックを握りしめ、決意した。

G系列保管所へ行かなければ。チャン・ピラの真実、イ・スヨンとチョン・ソアの記憶、そして私の運命を探さなければ。

そしてその道で、ミョン検事と一緒なら、もしかしたら怖さも少しは和らぐかもしれない。

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