消された影
映像の痕跡
「もう一度再生して。」
私の声は低く、はっきりとしていた。
漢南洞のカフェの静かな片隅、ノートパソコンの画面の前に立つユリムは、すぐに映像の一時停止を解除し、問題のシーンに戻した。
ARCHIVE-00の後半部。画面の片隅、カメラアングルの外で一瞬映し出された書類の山。そこにはかすかに印刷されたタイトルと部署名が残っていた。
[デジタル感情研究パート / 第7区域実験統括チーム]
「この部署…聞いたことある?」
私はユリムを見ながら尋ねた。
彼女はモニターから目を離さず首を横に振った。
「第7区域は、公式には現在閉鎖された研究棟よ。財団のイントラネットに登録された活動もないし、予算記録も3年前から途絶えているわ。」
「じゃあ、誰かがわざと消したんだね。感情実験の記録と一緒に。」
私は画面をキャプチャして保存した後、画面右上に表示された発信情報を指さした。
PLJ-04-R / 2021.03.11 / 送信者: PL.チャン
「…PL.チャン?」
「イニシャルだと思う。P.L. Jang。チャン姓の誰か。」
ユリムは素早くキーボードを叩いた。数分後、彼女は一つの記録を引き出した。
「ここにあった。チャン・ピルラ。元財団所属の感情アルゴリズム設計者。実験統括責任者で、3年前に自主退職。」
彼女はスクロールを下に見ていった。
「退職理由は『自発的研究中断』、その後行方不明。」
私はモニターを凝視した。
映像の中の人物たち――目が消された被験者たち、苦痛を抑えながら繰り返される感情記録。
その残酷な設計の中心に誰かがいた。チャン・ピルラ。
「財団はこの人物を隠していたんだ。」
ユリムが頷いた。
「書類上では誰もこの人物の存在に言及していなかったわ。カンチーム長の報告書でも実験統括が誰なのか空欄よ。まるでわざと空けておいたみたいに。」
私はスケッチブックを取り出し、映像の中のシーンをもう一度描いた。
顔のない実験者、手首に装着された感情測定器、そして隅に積まれていた空のノートとタグ付けされたファイル。
その一つ一つがチャン・ピルラの手に触れたのだろう。
「チャン・ピルラ。その人を見つけなければ。」
ユリムは少しためらって言った。
「退職後の住所は登録されていないわ。でも内部メールサーバーには最後のIPログが残っている。ソウル郊外…城北区の方で最後に接続した記録があるわ。」
「そこから行ってみよう。その人は実験の鍵だ。そしてもしかしたら…」
私の言葉が途切れた。
「…イ・スヨンとチョン・ソア、その失踪事件の真実も、そこにあるかもしれない。」
ユリムは目を丸くした。
「オンニ、本当に?城北区まで行くの?これ、ますます映画みたいになってきた。でも…行く前に私たち、パッピンスでも食べて元気出さない?今度は私が奢るわ、どう?」
彼女の冗談に私はふっと笑みがこぼれた。しかし心は重かった。
ヒョン・ドユンの影、カンチーム長の意図、そして今やチャン・ピルラという新しい名前。すべてが私を新しい舞台へと引きずり込んでいた。
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城北区への旅
翌日、私たちは城北区へ向かった。
ユリムが見つけたIPログは、城北洞の古い住宅街、狭い路地の突き当たりにある閉鎖された建物を指していた。
財団の昔の研究棟と推定される場所だった。
ソウルの秋は肌寒かった。
城北洞の路地は静かで、古びたレンガの建物が並ぶ通りは時間の中に止まったようだった。
私たちは地図に示された住所に従って狭い路地に入った。
「ここであってるのかな?」
ユリムが低い声で尋ねた。
目の前には錆びた鉄門が立っていた。門の上にはかすかに残る看板が見えた。
遊星文化財団研究棟 – 第7区域。看板は昔、色が褪せていた。
私は慎重に門を押した。
門はきしむ音を立てて開いた。
中は暗く、埃の匂いが鼻をついた。
懐中電灯をつけると、廃墟となったオフィスの痕跡が現れた。壊れた机、散らばった書類、そして壁にかかった古いモニター。
「オンニ、これ…ちょっと怖い。」
ユリムが私の腕を掴んだ。
「気をつけて。何かあるはず。」
私はスケッチブックを取り出した。ここで何かを見るかもしれない。
私の超能力、絵を通じて記憶を見る能力。それが私をここへ導いた。
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閉鎖された研究棟の秘密
オフィスの中へ進むと、壁に貼られた古いポスターが目に入った。
「デジタル感情研究 – NP-PROJECT-Ⅲ」。ポスターの下には小さな文字で名前が書かれていた。
総括: チャン・ピルラ。
「ここだ。」
私はつぶやいた。
ユリムは机の上の書類を漁り始めた。ほとんどは古いメモとデータログだった。
しかし、一つのファイルが目についた。
「被験者追跡報告書 – 2016~2021」。
ファイルを開くと、見覚えのある名前がずらりと並んでいた。
イ・スヨン、チョン・ソア、そして…チョン・ウンビ。私の名前の横には小さなメモが書かれていた。
「事例05: 強い視覚反応。認知変容の可能性が高い。追加実験を推奨。」
私は息をのんだ。
ユリムは震える声で言った。
「オンニ、これ…本当にオンニよ。この人たちがオンニを最初から狙っていたのよ。」
その瞬間、オフィスの中からかすかな音が聞こえた。
金属が擦れる音、誰かが動く音だった。私は懐中電灯を照らした。しかし誰もいなかった。
「ユリム、ここから出よう。今は…あまりに危険だ。」
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チャン・ピルラの痕跡
私たちは急いで研究棟を後にした。
しかし手にはチャン・ピルラのファイルと数枚の書類が握られていた。
車の中でユリムは書類をざっと見て言った。
「これ見て、オンニ。チャン・ピルラが最後に作成した報告書よ。NP-PROJECT-Ⅲの中止を要請したわ。『倫理的問題』のためって。でもその直後に退職して消えたのよ。」
「倫理的問題?」
私は書類を受け取って読んだ。チャン・ピルラの報告書は簡潔だったが、鋭かった。
「視覚刺激による感情操作は被験者の認知的自律性を侵害する。実験は直ちに中止されるべきである。」
そして最後のページには手書きのメモが残されていた。
「彼は止まらないだろう。P.L.J.」
「彼は…ヒョン・ドユンのことだ。」
私はつぶやいた。
ユリムは頷いた。
「チャン・ピルラがヒョン・ドユンを止めようとしたのよ。でも失敗したのね。そして…消えた。」
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その夜、
家に帰った私はスケッチブックを広げた。
城北区の研究棟で見た光景が頭の中を駆け巡った。
私は鉛筆を取り、描いた。
古びたオフィス、壊れた机、そしてチャン・ピルラの名前が書かれたポスター。
しかし手が自然と動いた。
新しい場面が浮かんだ。暗い部屋、モニターの前に座る女性がいた。
彼女の顔はぼやけていたが、手首には感情測定器が装着されていた。彼女は画面を見つめながらささやいた。
「彼らは私を消したの。」
彼女の声は聞き慣れないが、どこか聞き覚えがあった。チャン・ピルラだった。
彼女の目は虚ろだったが、私の方を向いていた。
「ウンビ、あなたはまだ生きている。」
彼女の言葉が終わると、画面が変わった。ヒョン・ドユンが立っていた。
彼の手にはキーボードではなく、キャンバスが握られていた。彼は私の顔を描いていた。
「君は完成しつつある。」
彼の声が空間に響き渡った。私は彼の視線を避けようとしたが、彼の目は私を離さなかった。
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真実の断片
目を開けると、私はソファに倒れていた。スケッチブックは床に落ちていた。
今見たばかりの幻影が鮮やかに描かれていた。チャン・ピルラの顔、ヒョン・ドユンのキャンバス、そして私の名前が書かれた書類。
私はスケッチブックを拾い上げ、震える手でページをめくった。
イ・スヨン、チョン・ソア、そして今やチャン・ピルラ。彼女たちの顔が私の顔と重なった。
私は彼女たちの記憶の中へ入っていっていた。
しかしその記憶は断片的だった。まるで誰かがパズルのピースを散らばせたように。
私は机の上の書類をもう一度見た。
チャン・ピルラの報告書、NP-PROJECT-Ⅲのデータ、
そして私の名前。これらすべてが一つの絵を描いていた。
しかしその絵の中心は何だろうか?ヒョン・ドユンの目的は?そしてカンチーム長はなぜ私をこの戦いに引きずり込んだのだろうか?
私はノートパソコンを開き、チャン・ピルラの最後のIPログをもう一度確認した。
城北区、あの閉鎖された研究棟。しかしそこは手がかりの始まりに過ぎなかった。
チャン・ピルラが消えた後、誰かが彼女の痕跡を消そうとした。
そしてその誰かは、いまだに私を見守っていた。
私は席を立ち、リビングルームをうろついた。
アパートは静まり返っていた。
しかし窓の外、城北洞の闇が私を呼んでいるようだった。私はスケッチブックを握りしめ、決意した。
チャン・ピルラを見つけなければならない。彼女が残した真実、そしてイ・スヨンとチョン・ソアの最後の痕跡を。
その瞬間、机の上の電話が振動した。画面には知らない番号が表示されていた。
私は息をのんだ。電話に出ると、低い声が聞こえた。
「チョン・ウンビさん、近すぎます。」
その声はヒョン・ドユンでも、カンチーム長でも、チャン・ピルラでもなかった。
しかしどこか聞き覚えがあった。私は電話を切り、スケッチブックを見下ろした。私の顔、そしてその背後の影たち。
私は今、消された影たちの真実を追いかけなければならなかった。