過去のこだま
「ウンビオンニ、この記事見ました?」
ユリムはタブレットを回して見せた。画面には古いニュース記事が浮かんでいた。
『2016年城北洞芸術家失踪事件 – ついに発見されなかった若い画家』
私の目はすぐに記事の中の白黒写真に向けられた。
端正なシャツ、鋭い顎のライン、そしてどこか見覚えのある眼差し。心臓がドクンと音を立てた。
「この人…ヒョン・ドユンさんに似てるんだけど?」
ユリムは頷いた。
「ですよね?私も最初は見間違いかと思いました。
でもここに、この失踪者の最後の目撃者として記された名前が…‘ドユン’。名字は記載されていませんが、当時財団のインターンだったと出ています。」
私は画面をめくって陳述内容を読んだ。短く、そっけなかった。
「一緒に酒を飲んだが、家に帰ったと思った。特に異常はなかった。」
証拠なし。目撃者1名。終結。
「イ・スヨン作家の事件と妙に似てます。」
ユリムが声を低めて言った。
「ただ失踪して、最後まで一緒にいたのがヒョン・ドユン…またです。」
私の指先が徐々に固まった。
「あの人は…なぜいつも最後にいるの?」
2016年、城北洞。イ・スヨン、チョン・ソア、そして名もなき人々。すべての失踪事件の終わりには、ヒョン・ドユンの影が覆いかぶさっていた。
そして今、私の名前がその影の中に入っていた。
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数日後、私はユリムが渡してくれたカンチーム長のUSBを開いた。
漢南洞のカフェの片隅のテーブルで、ノートパソコンの画面に私たちの顔が映っていた。
USBの中には数十個のフォルダがあったが、一つが私の目を奪った。
NP-PROJECT-Ⅲ
フォルダを開くと、展覧会別の観客統計、感情反応分析、被験者追跡シートのような文書がずらりと並んでいた。
そしてその中のあるファイルのタイトルが私の息を止めた。
〈視覚刺激に基づく情緒反応実験 – 事例 05 : EB〉
私は震える手でファイルを開いた。
画面には私が参加した展覧会の場面、アンケート、感情の起伏グラフ、心拍数記録がびっしりと収められていた。
私がイ・スヨンの肖像画に初めて触れた瞬間、心拍数が急上昇したデータ。展示室で感じた不安と恐怖を記録したログ。
ステージの上にいたのは‘展示作品’ではなく‘私自身’だった。
私はプロジェクト要約書を読み進めた。
「本研究は視覚芸術を通じた感情刺激反応のデータを収集し、脳波および心理反応のパターンを分析することを目的とする。
実験者は被験者の自覚なしに視覚刺激を構成し、反応は展示内外の装置で収集される。」
最後の文章は私の心臓を刺した。
「静かな状態で反応する場合、当該被験者は客体化の可能性が高いと判断される。追加観察および認知変形を推奨。」
「客体化…認知変形?」
私はつぶやいた。ユリムは青ざめた顔で私を見た。
「オンニ、これ…まるで誰かがオンニを実験対象にしたみたい。イ・スヨン、チョン・ソア、そして他の人たちみたいに。」
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その瞬間、カフェのドアが開き、聞き慣れた足音が近づいてきた。
カンチーム長だった。
彼はゆったりとした笑顔で私たちのテーブルに近づいてきた。しかし彼の眼差しは鋭かった。
「これは何ですか?」
私の声は乾いて震えた。私はノートパソコンの画面を指差した。
カンチーム長はため息をついて画面を閉じた。
「…見ない方が良かったのに。」
彼は椅子に座りながら言葉を続けた。
「私も遅れてこれを見たんだ。NP-PROJECT-Ⅲ、元々は心理療法補助用に企画されたものだ。
芸術を通じて人々の感情を癒すという名目だった。でもいつからか…方向が変わってしまった。」
私は口を開くことができなかった。彼の声は低く重かった。
「ウンビさん、あなたは対象だったんだ。実験の。あの人が作った展示、その構図、さらにはアンケートまで。すべて目的があったんだ。」
「誰がですか?」
私は声を絞り出した。
「ヒョン・ドユンだ。」
カンチーム長は確信に満ちた口調で言った。
「最初から、あなたを知っていた可能性が高い。」
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彼の言葉が頭の中を駆け巡った。
ヒョン・ドユン。2016年城北洞失踪事件、イ・スヨンとチョン・ソアの最後の目撃者。そして今、私を狙った実験の設計者。
「チーム長、なぜ私を…なぜ私を対象にしたんですか?」
カンチーム長は首を振った。
「正確な理由は私も分からない。しかし…あなたの超能力。絵を通じて記憶を見る能力。それが彼らを引き寄せた。
あなたは彼らの計画に完璧なパズルのピースだったんだ。」
私はスケッチブックを見下ろした。
ヒョン・ドユンの顔、イ・スヨンとチョン・ソアの肖像、そして私の顔。そしてその背後に垂れ込めるカンチーム長の影。
「チーム長はなぜこれを私にくれたんですか?USB、この秘密。なぜ私を助けてくれるんですか?」
彼はしばらく沈黙した。
そして低い声で言った。
「私が…失敗したからだ。イ・スヨン、チョン・ソア、そして他の人々。彼らを守ることができなかった。
しかしあなたは違う。あなたはまだ生きている。そして…あなたは彼らを止められるかもしれない。」
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カフェを出てユリムと私は漢南洞の路地を歩いた。
彼女はノートパソコンを握って言った。
「オンニ、これ本当に怖い。ヒョン・ドユンがオンニを実験対象にしたなら…私たちはどうすればいいの?カンチーム長は私たちの味方で合ってる?」
私は頷いた。
「分からない。でもカンチーム長が私たちにこのUSBをくれたということは、何かを望んでいるんだ。もしかしたら…彼は私たちを利用しようとしているのかもしれない…」
ユリムは目を丸くした。
「じゃあどうする?もう全部やめて、東海の海を見に行って刺身でも食べに行く?本当に、オンニ、今度は私が刺身奢るから、どう?」
彼女の冗談に私はフッと笑った。しかし心は重かった。
ヒョン・ドユンの影、カンチーム長の意図、そして私の顔が収められたファイル。すべてが私を締め付けてきた。
「ユリム、私たち…NP-PROJECT-Ⅲの他のファイル、全部開いてみないと。そしてC-13倉庫。そこに答えがあるはずだ。」
ユリムはため息をついて頷いた。
「分かった、探偵チョン・ウンビ。でも本当に気をつけて。これ…ますます危険になってきてるみたい。」
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その夜、家に帰った私はスケッチブックを広げた。
ヒョン・ドユンの顔、イ・スヨンとチョン・ソアの肖像、そして私の顔。
私は鉛筆を手に新しいスケッチを始めた。
しかし手が勝手に動いた。見慣れない空間が描かれた。
清潭洞財団本社。C-13倉庫。暗い廊下の突き当たり、鉄扉の向こうから漏れる光。
そしてその中、机の上に置かれたモニター。画面には私の顔が映っていた。
心拍数グラフ、脳波データ、そして私の名前:チョン・ウンビ、事例05。
そしてその奥、ヒョン・ドユンが立っていた。彼の右手にはペンではなく、キーボードが握られていた。
彼はデータを入力していた。私の感情、私の記憶、私の存在を。
「君は完成しつつある。」
彼の声が空間に響いた。私は彼の視線を受け止めた。彼の目は冷たく、鋭かった。
しかしその背後にはもう一つの影があった。カンチーム長だった。
「やめろ、ドユン。」
カンチーム長の低い声が響いた。彼はヒョン・ドユンに向かって近づこうとしたが、彼の体はぼやけていった。まるで絵の中から消え去るように。
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目を開けると、私は机に突っ伏していた。
スケッチブックには、先ほど見た幻影が鮮明に描かれていた。
ヒョン・ドユンのキーボード、カンチーム長のぼやけた姿、そして私の顔が映るモニター。指先が震えた。
鉛筆を置いて息を整えようとしたが、心臓はまだ速く鼓動していた。
これは単純な幻影ではなかった。
私の超能力は、ますます深く、より危険な場所へと私を引きずり込んでいた。
イ・スヨン、チョン・ソア、そして名もなき人々。彼らの記憶が私の内側で響き渡っていた。
しかしその記憶は断片的だった。まるで誰かが意図的に破片を散らばせたように。
私は席を立ち、リビングルームに出た。暗いアパートの中、机の上のUSBが微かな光を反射していた。
NP-PROJECT-Ⅲのファイル。イ・スヨン、チョン・ソア、そして私のデータ。私たちは皆、実験の一部だった。
しかしこの実験の終わりは何なのだろうか?
ヒョン・ドユンはなぜ私たちの記憶を、私たちの存在をキャンバスとデジタルファイルの中に閉じ込めようとするのだろうか?
私はスケッチブックを再び広げた。今度は私の手で意思を込めて描いた。
ヒョン・ドユンの顔、彼の冷たい眼差し。そしてその隣にカンチーム長の姿。
彼はヒョン・ドユンを止めようとしたが、失敗した。彼の眼差しには後悔と無力感が込められていた。
「なぜ私を選んだの?」
私はつぶやいた。
私の超能力、絵を通じて記憶を見る能力。それがヒョン・ドユンの計画にどうして必要なのだろうか?
そしてカンチーム長はなぜ私をこの戦いに引きずり込んだのだろうか?
机の上のノートパソコンを開き、USBを再び差し込んだ。
画面に現れたファイルの間から、新しいフォルダが目に飛び込んできた。
「ARCHIVE-00」。
これまでに見たことのないフォルダだった。私はためらいながらクリックした。
フォルダの中には一本の動画しかなかった。
ファイル名は「INITIAL_TEST_01」。再生ボタンを押すと、画面が点滅し、古い映像が始まった。
暗い部屋、照明の下に置かれたキャンバス。そしてその前に立つ若い女性。彼女の顔はぼやけていたが、見覚えがあった。
イ・スヨンだった。彼女はキャンバスを見つめながら何かをつぶやいた。
「ここに…誰かいるの?」
彼女の声は震えていた。そしてカメラが彼女の顔をクローズアップした。
彼女の瞳には恐怖と混乱が満ちていた。
その瞬間、画面が変わった。
もう一人の女性、チョン・ソア。
彼女は別のキャンバスの前に立っていた。
彼女の手は震えており、目は虚ろだった。
「彼は私を見ている。」
彼女のささやきがスピーカーを通して響いた。私は息を止めた。
画面が再び点滅し、今度は私の顔が浮かび上がった。
第3展示室、イ・スヨンの肖像画の前に立つ私。
私がそのキャンバスに初めて触れた瞬間。
心拍数データが画面の横に表示されていた。
「彼女は反応している。」
見慣れない声が映像に重なった。冷たく、機械的な声。ヒョン・ドユンではなかった。しかしどこか聞き覚えがあった。
映像が終わった。私はノートパソコンを閉じ、息を整えようと努めた。
しかし頭の中は混乱でいっぱいだった。
イ・スヨン、チョン・ソア、そして私。私たちは皆、同じステージの上にいた。
誰かが私たちを観察し、私たちの反応を記録し、私たちの存在を‘完成’させようとしていた。
私はスケッチブックを再び広げた。
今度は私の顔を描いた。しかしその背後に、新しい姿が浮かび上がった。
イ・スヨンとチョン・ソアの顔ではなく、見慣れない女性たち。彼女たちは私を見つめていた。
彼女たちの瞳は虚ろだったが、唇は動いた。
「君はまだ終わっていない。」
彼女たちの声が合唱のように響いた。私は鉛筆を落とした。
その瞬間、アパートの外から微かな音が聞こえた。
窓の向こうで、誰かが通り過ぎる音だった。私はそっとカーテンを引いた。
漢南洞の路地は静かだった。
しかし路地の突き当たり、街灯の下に立つ影が目に飛び込んできた。
影は動かなかった。
しかし私は感じることができた。その影は私を見ていた。
私はカーテンを閉め、息を整えようと努めた。
しかし心臓はますます速く鼓動した。ヒョン・ドユン、カンチーム長、そしてその背後に隠れた誰か。彼らは私をこのステージに引きずり込んだ。
そして今、私はそのステージの中心に立っていた。
私は決心した。
C-13倉庫に戻らなければならない。
NP-PROJECT-Ⅲの真実、そしてこの実験の設計者を見つけ出さなければならない。
イ・スヨンとチョン・ソアのために、そして私自身のために…