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ドーセントの目《絵の記憶》  作者: プロトリアン
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隠された場面

"絵の中の私、ウンビ


人々は私が絵が好きだと言う。そうだ。私は絵が好きだ。

ただ、私が絵を「見る」方法は少し違う。

私はソウル国立現代美術館のドーセント、チョン・ウンビだ。28歳、契約社員。観覧客に作品の物語を聞かせるのが私の仕事だ。


展示室に入ると、私は作品の前に立ち、あらかじめ覚えた台本を取り出す。

画家の生涯、作品の背景、隠された象徴。観覧客は私の話に耳を傾け頷き、時には写真を撮る。

しかし誰も知らない。私が話すその物語が、時には本当かもしれないことを。


私が絵を「見る」のは、単に目で鑑賞することではない。私は絵が「記憶する瞬間」を感じる。

正確に言えば、絵に触れると、その絵が描かれた瞬間が頭の中に再生される。

画家の筆致、息遣い、絵の具の匂い、そして…時には彼らが見たものまで。


最初は錯覚だと思った。小学校の美術の時間、先生の水彩画に触れた時だった。

突然、頭の中に先生が海辺でスケッチしていた場面が浮かんだ。波の音、潮の匂い、さらには先生のため息まで。

あまりに生々しくて怖かった。しかしすぐに慣れた。この能力は私だけの秘密だった。

今も、私はこの秘密を抱えて展示室を歩く。


今日は特別展、「匿名の肖像たち」のオープニングの日だ。国立現代美術館3階の展示室は観覧客で賑わっていた。

真っ白な壁、柔らかな照明、そしてその下に掛けられた数十点の肖像画たち。作者不詳、年代不明。どれも古い絵ばかりだが、瞳は奇妙なほど生き生きとしていた。


私は観覧客の前に立ち、マイクを握った。

「こんにちは、ドーセントのチョン・ウンビです。今回の展覧会は、匿名の画家たちが残した肖像画で、それぞれの絵は名もなき人々の物語を含んでいます。」


観覧客が頷きながら写真を撮った。私は微笑みながら言葉を続けた。

しかし視線はしきりに一枚の絵に向かった。<無題 – 肖像>。作者不詳、年代不明。

絵の中の女性は灰色のドレスを着ていた。両手は膝にきちんと置かれ、瞳は正面を見つめていた。

毎日見ても奇妙だった。あまりに鮮明な瞳、あまりに人間的な静けさ。まるで生きている人のように私を見つめているようだった。


「ウンビ、しっかりして!」

同僚ドーセントのユリム(26歳、快活な性格)が私の隣で囁いた。

「またぼーっとしてるね。前にもそうだった時、観覧客に『ドーセントが作品なの?』って冗談言われたじゃない。」

私はくすっと笑って首を振った。

「分かった、ユリム。ただ…この絵、ちょっと変で。」

ユリムは絵をちらっと見て肩をすくめた。

「変だって?ただちょっと不気味な肖像画って感じだけど。あの瞳、私もちょっと怖いね。」

彼女の冗談に私は小さく笑った。しかし心の一角は不安だった。この絵、今日はどうしても素通りできなかった。


展示案内が終わった後、観覧客が散らばり展示室が静かになった。

私は手袋をはめた手を上げ、慎重に絵のフレームに触れた。

ドーセントとして絵に直接触れることは禁止だが、この能力は指先を伝って来る。慣れた電流が手から脳へと広がった。

視界が霞み、私は別の世界へと引き込まれた。


雨の日だった。小さな窓、湿気たガラス。絵の具の匂いが鼻をついた。私は画家の目で見ていた。

画家はキャンバスの前に座って筆を持っていた。彼の息遣いは静かだった。

そしてその前、女性が座っていた。灰色のドレスを着て、両手を膝に置いたまま。彼女は正面を向いて動かなかった。

瞬きもしなかった。

その瞬間、ドアが開いた。靴底が床を擦る音。遅い足取り。そして——鋭い金属の音。ナイフだった。

女性が顔を向けた。彼女の唇が震え、目が私の方を向いた。いや、画家の方を向いた。

しかし私は彼女の瞳の中に恐怖を読み取った。

そして彼女が言った。


「助けて。」


声は小さかったが、胸を刺した。


「ウンビ!」

突然の叫びに私は息が詰まり目を開けた。ユリムが私の肩をかきむしっていた。


「ねえ、また気が抜けてたの?絵の前でぼーっとして倒れそうになってたじゃない!」


私は手を上げて目元を擦った。視界がぼやけていた。最近、この症状が頻繁になった。

絵を深く覗き込むほど、視界がどんどん霞んでいった。

まるで私の目が絵の中に吸い込まれていくようだった。


「ちょっと…めまいがしたの。」

私は努めて笑って答えた。


ユリムは目を細めて私をじっと見た。

「チョン・ウンビ、あんた本当は病院行った方がいいんじゃない?最近ずっとこうやってぼーっとしてるし。もしかして…恋愛でもして上の空なの?」


彼女の冗談に私はくすっと笑った。ユリムはいつもこうやって心配を小言と冗談で包んでいた。

私はそんなユリムが好きで、何も言わずに頷いた。


「恋愛なんて。ただ…この絵が変で。」


ユリムは絵を再びちらっと見て肩をすくめた。

「まあ、芸術って元々ちょっと変なもんじゃない?さあ、行こう。退勤時間もうすぐだし。漢南洞でコーヒーでも飲もうよ。」

私は頷いたが、心の中ではその声がずっと響いていた。


「助けて。」


それは単なる鑑賞ではなかった。単なる芸術品でもなかった。それは…誰かの最後だったのかもしれない。


退勤準備をしながらロッカールームへ向かった。ユリムは隣でずっと喋っていた。

「ウンビ、今回の展覧会の後援者ってあの財閥じゃない?あの…キム何とか会長。お金持ちで美術館に絵をたくさん寄贈したって言ってたけど。」

「キム・テヒョン会長?」

私はロッカーからバッグを取り出しながら答えた。

「そう!でもちょっと怖くない?この前の展示オープニングの時のあの人の目つき、すごい鋭かったよ。どう見ても金で全部解決するタイプ。」

ユリムの言葉に私は笑い出した。

「ユリム、あんたドラマ見すぎじゃない?財閥がみんな怖いわけじゃないよ。」

しかし心の一角は不快だった。

キム・テヒョン会長。今回の展覧会の主要後援者であり、数十点の肖像画を寄贈した人物。彼の名前は展示室のあちこちに刻まれていた。そして…その肖像画、<無題 – 肖像>も彼が寄贈した絵だった。


ロッカールームを出ながら、私は再び展示室をちらっと見た。照明が消えた展示室、暗闇の中でその女性の瞳が輝いていた。

まるで私を呼んでいるかのように。

「ウンビ、何してるの?早く行こう!」

ユリムがドアの前で手招きした。私は努めて微笑みながらついて行った。しかしその声はまだ頭の中から離れなかった。


漢南洞の小さなカフェ、ユリムと私は窓際のテーブルに座った。退勤後のコーヒー一杯は私たちのささやかな儀式だった。

ユリムはラテをすすりながら言った。

「ウンビ、本当に大丈夫?今日ちょっと変だったよ。絵の前でぼーっとしてたかと思ったら顔も青白いし。」

私はコーヒーカップを置いて笑った。

「大丈夫。ただ…ちょっと疲れてて。」

しかし事実は違った。その絵、その女性の声。「助けて。」その一言が私の頭の中を巡っていた。

これは単なる幻影ではなかった。私が見たのは、誰かの切羽詰まった瞬間だった。


「ユリム、あの肖像画…ちょっと調べてみないと。」

私は慎重に言った。

ユリムは目を丸くした。

「何?あの不気味な絵?なんで?急に探偵ごっこしたくなったの?」

私はくすっと笑って首を振った。

「ただ…変な感じがするの。あの絵、何か隠してるみたい。」

ユリムは肩をすくめて言った。

「いいよ、探偵チョン・ウンビ。じゃあ私も手伝うわ。でももし本当に怖いものだったら、私抜きでやってね!」

彼女の冗談に私たちは同時に笑い出した。しかし笑いの裏で、不安がじわじわと湧き上がってきた。


その夜、家に帰って私はベッドに横になった。しかし眠れなかった。

頭の中にはあの女性の瞳が浮かんだ。灰色のドレス、震える唇、そして「助けて」という切羽詰まった叫び。


私は起き上がって机に座った。ノートパソコンを開き、展示資料を調べた。

<無題 – 肖像>。作者不詳、年代不明。寄贈者:キム・テヒョン会長。それ以上の情報はない。


しかし私の超能力はそれ以上を語っていた。あの絵は単なる芸術品ではなかった。それは誰かの最後の瞬間だった。

私は手を上げて再び目元を擦った。視界がまたぼやけた。この能力を使うたびに、私の目はどんどん弱くなった。

しかし止めることはできなかった。あの女性の声が私を捕らえていた。

そして…彼女の瞳はまだ絵の中で私を見つめていた。


まるで、私が次の番であるかのように。"

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