2.
王宮の中で案内されたのは、大きな会議室だった。
「ここって……」
「そうだ。ここで、エリザベスがスマホの説明をしてくれたな。あの時は、こんなに貴女のことを好きになるなんて思わなかった」
そう、アランさまに二度目の一目惚れをした、御前スマホ会の現場に再びやって来たのだ。
中に入ると、前みたいにたくさんの重臣や貴人たちが既に着席していた。
あっ、お父さまもヴィクトルお兄さまも居る。
視線を送ったけれど、二人とも無表情でスンッとしていて家とは違う様子だった。
まあ、お仕事中だからそれもそうか。
着席して待っていると、ランベールとユリアンお兄さま、それに王さまと王妃さまも入室してきた。
これは、結構大きな会議だわ。一体何かしら。
そう思っていると、司会進行役の官吏が美声を張り上げた。
「それでは、魔神討伐についての報告会を始めます。アラン魔術伯、よろしくお願いします」
なるほど、魔神を倒したことについて発表するのね。
私が同席するのは、きっと褒章に関する部分でソフィアの一件をうやむやにする証言をするとか? とにかく、アランさまの監督責任に追及されないようしなきゃ。
でも私に上手く証言出来るかしら。
ドキドキしていると、アランさまが立ち上がって発表を始めた。
「ああ。結論から申し上げると、私は欲望の魔神コーディウスを討伐した。封印ではないので、もう蘇ることはない」
皆は驚いてザワザワしている。
やっぱり、前代未聞で今までにないことらしい。
はー、それにしてもアランさまってかっこいい。それに強くて賢くて、とにかく素敵だわ。
アランさまが魔神を倒した詳細を説明している間、私はボーっと彼を見つめていた。
顔面が強すぎて、話があんまり入ってこないのよね。
そんな風にボーっとしていたけれど、突然私の名前が聞こえたので意識を取り戻す。
アランさまはこうおっしゃったのだ。
「欲望の魔神は、人の過去に起こった事象から心の傷を思い起こさせる。私も誘惑された。『思い出せ、今までに人間どもにされた数々の仕打ちを』と。魔神は負の感情を食らい、そして強くなるのだと理解した私は、逆に良い感情を思うことにした。つまり、エリザベスを愛する気持ちだ」
周囲の目線が思いっきり私に突き刺さり、一瞬キョドりそうになった。
私は久しぶりに感情抑制の魔法を自分にかけて、なんとかやり過ごそうとした。
それにしたって、ドキドキする。アランさまは一体、何を言い出すの?!
心臓が踊り狂った早鐘を打っているのをよそに、彼は続けた。
「愛する気持ちを思い起こし、魔神に対峙するとただの魔物レベルに弱体化していた。私がもし、エリザベスに出会わずに愛を知らなかったら、魔神は強いままだった筈だ。エリザベスは私の女神だ。彼女が居たから、魔神を倒すことが出来た」
そう言って私を甘い瞳で見つめてくる。
私は感情抑制の魔法をかけている筈なのに、動揺が表面にも出るほどうろたえてしまった。
だって、そんなの無理すぎる。めちゃくちゃドキドキして、ハワワってなるでしょ! 女神とか言われたら!
「魔神を倒すと、身体がすぐに消滅し始めたので角を切断して保存した。魔神の肉体は消えたが、宝玉は残されたので共に持ち帰り、魔術師団に提出した。以上」
その後は魔術師団長という凄そうなおじさん……、三十代半ばくらいの銀髪ロン毛の冷たそうな美形男性が宝玉と角は本物であると証言し、質疑応答の対応をしていた。
質問は、何度も「魔神は本物か」と「本当に倒せたのか」を繰り返して、魔術師団長は途中からイライラした様子だった。
「何度聞かれても同じだ。アラン魔術伯は本物の魔神を倒した。封印ではない。くどい!」
数度目の質問をした大臣をギロッと睨んだので、会議場はシーンとなった。魔力が溢れ出てるっぽいし、迫力満点すぎるのよね。
そこで声を上げたのは王妃であるパトラ伯母さまだった。
「では、アランは史上初めて魔神を葬った人物ということだな。それに相応しい褒美を与えねばなるまい。確か、初めて魔神を封印した勇者は王族の姫君を娶ったとか。どうだ、アラン」
「希望したいのは山々なのですが。先日、私の屋敷内で起こった不祥事の監督不行き届きを、この成果をもって特別に不問となると伺っています」
すると、国王陛下も助け船を出してくれた。
「だったら、こういうのはどうだ。アランが魔神の角と宝玉を持ち帰ったことも、史上初なんだろう。その対価として褒美を与えるのは」
魔術師団長が賛成の声をあげた。
「確かに、これは素晴らしい成果です。今まで、魔神の角の欠片は得られたことはあったらしいが、角を丸ごとと宝玉までというのは初めてです。素晴らしい成果と言えます。アランに褒章を与え、今後も王国の為に動いてもらうのが良いでしょう」
「では、アラン。何を望む?」
国王陛下の問いかけに、アランさまは私を優しい瞳で見つめ、そして手を取った。
アランさまが立ち上がったので、私も一緒に立ち上がる。
「エリザベスを、私の妻に」
「反対だっ!」
ガタッと立ち上がったのはお父さまだった。
それを窘めるのは国王陛下だ。
「フィリップ、いい加減子離れしなさい」
「嫌だ。うちの可愛いエリザベスが嫁に行ってしまうなんて。しかもどこの馬の骨とも分からない魔術伯なんかに……」
「こら、フィリップ。魔術伯とは王国に居てもらわなければ困る人物の身分を保証する制度なんだから。そんな言い方したら駄目だぞ」
「だって、兄上」
思いっきり普通の兄弟の話し方になってる。
ここは皆が居る会議室なのに、王さまと王弟がそんなことで良いのか。
王妃殿下もぴしゃりと言った。
「だって、ではない。これからはアランを娘婿と認め、つまらない妨害工作も止めるように。エリザベスが可哀想ではないか」
「……分かった。分かりました。認めればいいんでしょう」
ムスッとしながらも、ついに了承の返事をしたお父さま。
ヴィクトルお兄さまも、頷いて言った。
「エリザベス、私も認めるよ。でも気に入らないことがあれば、いつでも戻っておいで」
一応、ユリアンお兄さまをチラッと見るとどうでも良さそうだけれど頷いていた。
お母さまは元より、反対はしていなかった。
ってことは。
家族全員の反対が解けちゃったわね!
私の感情抑制の魔法はすっかり解けてしまい、喜びの声をあげた。
「えっ、いいの! じゃあ、私、アランさまの……」
するとアランさまがそこで唇に指を当てるジェスチャーをしたので、黙れってことかなと思って口を閉じた。
アランさまが私の手を取ったまま向かい合って瞳を見つめる。
「エリザベス、やっと正式に求婚出来る立場まできた。あの日の訪問以来、二度目のプロポーズだけれど聞いてくれ」
「はいっ」
「私はこれから一生、貴女と共に在りたい。愛している、エリザベス。私と結婚してほしい」
そして手の甲にキスしてくれた。
あの二度目の一目惚れをこの場でした時には、まさかこんなことになるなんて夢にも思わなかった。
「嬉しい! アランさま、私も愛しています。結婚してください!」
王妃さまが真っ先に拍手し、国王陛下も続く。
そうなると、会議場は皆の拍手でいっぱいになった。
私、幸せだわ!




