3.
ロイは突き放しても諦めず、永遠に質問責めにするようなので簡潔に答える。
「私はエリザベスと共に居る為なら、何でもするつもりだ」
「それで、あの魔神を封じたってこと? あれは危険な存在だ。復活するまで様子を見て、もし復活したら対処するっていうのがいつものやり方なのに」
そう。いつ出て来るか分からない魔神をただ見守り、復活したら封じてまた眠らせる。自然災害のように扱うのが今までの対処法だった。
私の行動規範には、魔神が復活するまでは見て見ぬふりをし、そして条件が整えば魔神の元に出向くというものもあった。
その条件を解析したところ、エリザベスが死亡しソフィアは王国外に追放されること。公国でもエリザベスの死亡事件が重く見られ、ソフィアはホルト候の跡を継げなくなること。
そして私は罪に問われ、魔術師の監獄塔に入れられ、死ぬほどの拷問を受ける。その後、私の憎しみの感情に魔神が呼応する。私は魔神の元に向かい、それと合体して魔王にあるというのだ。
そうならない為に、どうすれば良いか。
魔神に呼応しないように、エリザベスを守りソフィアを先に公国に戻すなど、色々考えた。
しかし一番は、先に魔神を倒してしまうことではないか。
復活を待つまでもないだろう。私は境界を越えた存在なのだから、倒す為に出向くことだって出来るはずだ。
魔神を倒すべく、その存在について調べたが詳細は全て伏せられたままだった。分かったのは、魔神が眠ると言われている場所のみ。
その周辺を遠隔から探知していると、私が探っていることが魔神の方にも知られたような感触があった。調べられると目覚めるのかもしれない。
こうなったら、調査をしている場合仕方なく、私は情報を得られないまま魔神の討伐に単独で出向いた。
魔神は荒野の真ん中にある洞窟の最深部に封じられていた。
その姿を見て、驚いた。魔神は人型で、そして私と同じ顔をしていたからだ。
魔神は私が近付くと瞑っていた目をパッと見開いて語り掛けてきた。
『よく来たな、我が器よ』
ザラザラにしゃがれたような、複数の人物が同時に喋っているかのような、不思議な声に聞こえた。
「器、だと」
『そうだ。我とそなたが一つになって、魔王となるのだ』
「拒否する」
私はろくに魔神の話も聞かずに魔術での攻撃を始めた。
魔神は慌てた様子だった。
『待て! それがそなたの為にもなるのだ。今までそなたを迫害し、利用してきた人間どもに思い知らせたくはないのか』
「それなら己が力でも出来る」
『全ての人間、世界に我らの力を見せつけてやるべきだ!』
「必要ない」
私には、エリザベスが居てくれたらそれでいいのだから。
魔神だ魔王だと、私を巻き込まないでもらいたいものだ。
攻撃を加えても、魔神はろくな抵抗も出来ないようだった。
『何故だ! そなたの過去は辛く苦しいものだった筈。それを晴らす為に……』
「必要ないと言った。それにしても、どうしてそこまで弱いんだ? ただの魔物より低レベルな程だ」
『クッ、調子に乗るなァ!』
反撃してきても、やはり魔神と呼ぶにはおこがましいレベルだ。
私は思い当たることを口にした。
「本来なら、私が不幸になって取り返しがつかなくなってからここに来る予定だったからか? だとしたら、負の想いを食らって強くなるのか」
『そうだ! 思い出せ、今までに人間どもにされた数々の仕打ちを!』
私はいつものように、エリザベスのことを考えていた。
早く会いたい。
こいつを倒せば、すぐにナインヴァンス城に行ける。そうすればエリザベスに会って……、いや。この埃と土にまみれた格好では嫌がられるだろう。先に入浴して身体を洗うべきだ。
身を清めた後に、彼女の部屋に向かおう。
しかし、いきなり部屋に行っても嫌がられるかもしれない。とりあえず、打診のメッセージを送って、行っても良いか尋ねる方が無難だろう。
もし断られても、少し顔を見るだけだとか言い訳して部屋に押し入ろう。
はあ、早くエリザベスの顔が見たい。
そんな風に考えているうちに、気が付くと魔神は地べたにのたうち回って苦しんでいた。
『やめろっ! やめろぉぉッ!』
「どうした。負の感情ではないものを食らわされると弱るのか?」
『クッ……!』
私は試すことにした。心の中でエリザベスの微笑む顔を思い浮かべて呟いたのだ。
「エリザベス、愛している」
『ぐぅっ……! こんな! 神であり魔神となったこの我が!』
「所詮、貴様は境界の内側に居るだけの存在だということだ」
『何ィ?』
私は魔神を見下ろしながら、わざわざ教えてやった。
「貴様がやろうとしていることは己自身の意思ではない。他者にそうするよう決められているのだ」
『何だ、何だ! そなたは何を言っている? 我の決定が他者に決められているだと? では、その他者はどこの誰だというのだ!』
「この世界の神よりも、更に高次元な存在だろう。そして、その存在の正体への糸口は、生まれ変わりをした人々だ」
私が言ったことを、魔神は全く理解出来なかったようだ。
『更に高次元な存在だと! 有り得ぬ! 何が生まれ変わりだ! 訳の分からないことを……!』
「貴様も、何かに生まれ変わると良い。どの世界の、何に生まれ変わるかは分からんがな」
『ま、待てっ……!』
魔神の制止を聞かず、私はその存在を粉々にして燃やし尽くした。
魔神を倒したからといって、世界が変わるような感覚は無かった。境界を越えた私にとっては、この世界の流れなど無視をしても構わないということだろう。
こうして、私はすぐさまノインシュタイン城に向かい、想像していた手順通りに身を清めてからエリザベスと会うことが出来た。
そのまま、彼女と同衾して魔力を注ぎ込んだが、私とて木や石で出来ている訳ではない。
欲を持ってしまうのは当然だが、それに耐える必要があった。
彼女に契約を持ちかけるのは、初夜の最中だと決まっているからだ。
それまでは、ただただエリザベスを愛でて可愛がり、彼女に好まれるであろう潔癖な振る舞いをしておこう。
未だ何かを言おうとしているロイを、追い払う為に言い放った。
「今何を言おうと、貴様には私が理解出来ない。貴様の境界を越えてからでないとな」
「なんだよ~、教えてくれたっていいだろ」
最終的には、魔術を行使して部屋から追い出した。
まあ、あいつが境界を越えたところで、特にどうこうつもりはない。
私には、エリザベスが居ればそれで良い。それは不変なのだから。




