3.
話し合いは、新しく出来たアランさまのお屋敷内の温室ですることになった。
アランさまのお屋敷に到着すると、優しく迎え入れてエスコートしてくれた。私を見つめる瞳は優しい。
あーー、アランさま大好き!
新築の温室は、うちのを模してゆっくりお茶が出来る庭園のようになっている。
あの時は、告白するまでは楽しくお喋り出来ていた。でも、告白すると拒絶されて大泣きしたっけ。
私はこれから、また大泣きすることになるのかもしれない。
でも、全てをはっきりさせたい。
その為には、私の方の事情も打ち明けるべきだろう。
今日はマドレーヌはお休みなので、公爵家の護衛騎士に付いてきてもらった。彼には温室の前で待機してもらう。
二人きりで温室に入ると、なんと、お茶はアランさまが淹れてくれた。
「まあ、アランさま。お茶を淹れることまで出来るんですねっ」
「これくらいは出来る。味はそこまでではないが」
「うふ。いただきます」
飲んでみると、味は普通に美味しい。でも、アランさまが給仕してくれるというこのシチュエーションが、何倍にも幸せを味わわせるのだ。
しばらく、無言で二人きりの空間を堪能していたけれど、彼の方から口火をきった。
「エリザベス、話というのは? あの女騎士が、私を警戒していたように見えたが。何か吹き込まれて心配になったのか?」
「え。女騎士って、ナタリーのこと?」
「昨日、指輪の動作を邪魔していたことは把握している。その女騎士の仕業だろう」
アランさま、前世でいうところのヤンデレストーカーみたいなんだけど!
すごい。多分好きでもない人にされたらドン引きして縁を切ると思う。でもアランさまだから全然嫌だと思わない。
私はフフッと笑って言った。
「私のこと、よく見てくださってて嬉しいです。でもその話じゃなくて、本音で語り合いたくて。まず、私のことを聞いてほしいんです」
「エリザベスのことだと?」
「はい。私、前世の記憶があるんです」
「……前世というのは、エリザベスが生まれる前の記憶だろうか」
アランさまは、流石に驚いたようで虚を突かれたお顔になったけど、疑うことなく話を受け入れてくれたようだ。
頷いて続ける。
「はい。それは階段を落ちた時に思い出しました。珍しいけれど、そういう人はこの世界に少なからず居ます。この世界で生きているだけでは持ちえない知識を知っているのです」
「それは、スマホや補聴器を開発した知識ということか」
本当に話が早い。私は感心しながら同意した。
「その通りです。それだけではなく、前世を思い出した時から思考も変わりました。とはいえ、以前のエリザベスが全部居なくなったというわけではありません。私の中には、思い出した私と、今までのエリザベスが両方居て、ふたりともが私です。言ってること、分かりますか?」
「大体は」
「それで、私は前世を思い出した時に、このままアランさまを追いかけまわすのは良くないって思って、会いに行くのをやめたんです。そういう、思考と行動を変えることが、過去の記憶を参照して出来るんです」
すると、話の分かるアランさまは私の言いたいことを理解して頷いてくれた。
「会いに行くのをやめたのが前世のエリザベス、けれど会ったら好意を思い出してくれたのは今までのエリザベス、ということだろうか」
「そうです!」
私がうんうんと頷くと、アランさまは少し優しい瞳になってこちらを見つめてくれた。
「エリザベスが私を忘れなくて良かった」
「うふ、アランさまったら。でもね、だから思うんです。あの告白の後、アランさまの私への態度がすっかり変わってしまいましたよね。それも、一夜にして」
「…………」
私はごくりと生唾を飲み込んでから、一番気になっていることを確認しようと口を開いた。この推理を確かめる為に、長々と説明をしたのだ。
「アランさまも、ひょっとして、前世を思い出したんじゃありませんか? だから、私への対応が変わったんじゃ?!」
「いや、私には前世の記憶は無い」
勢い込んで尋ねたことが、全くの不発に終わった。
私はガクッとなって項垂れた。
「あっそう、ですか。割といい推理だと思ったんですが」
「しかし、境界は越えた」
「境界は、越えた? どういう意味でしょう」
私の疑問に、アランさまは説明せずに続けた。
「エリザベスも、境界を越えし者なのだろう」
「境界を、越えし者……?」
初めて聞く言葉だから、分からなかった。
私の疑問に、アランさまは語り始めた。
しかしそれは、私が思いもしなかったものすごい話だったのだ。




