1.
朝食会場は、セルジュ先生の説明に驚きの様子を見せていた。
ざわざわとした中で、皆の声が聞こえる。
「まさか、信じられん」
「魔力量を偽装する為に人を監禁するなど」
「ソフィア嬢も、まだ子供だろうに。そんなこと、実現可能なのか」
「子供だからこそ、善悪の区別がつかずに思い切ったことをしたのかも。全て、アラン魔術伯の為なんでしょう……」
居合わせた人たちは、口々に好き勝手言っている。
バルバラは真っ青になって口をわななかせた後、金切り声をあげた。
「嘘です! こんなの、違います!」
ソフィアはぽろぽろと涙を零して、いかにも儚く可哀想な存在アピールをしている。
しかし、後見人であるアランさまが冷たい瞳で突き放した態度な上、一番身分の高いランベールが静観しているのだ。誰も彼女たちを庇うものは居ない。
スクリーンに映ったセルジュ先生が冷静に述べる。
『私が述べたことは、全て証拠に基づいています。それでは、証人に証言してもらいましょう』
セルジュ先生が引っ込む。次に映ったのは、ジェシカだった。
はー、良かった。怪我も無く無事だったようで。
ジェシカも冷静に報告を始めた。
『私は、アランさまに命じられ、ソフィアさまの体調を整える為に侍女として仕えました。アランさまはソフィアさまに、魔力を測定するリストバンドを装着するよう手渡しました。しかしソフィアさまは一度も付けず、バルバラさんに手渡しました。その間も、リストバンドは魔力を計測し続けていました。私は、誰がリストバンドを付けているのか、気になりました』
バルバラが怒鳴る。
「そこの娘は嘘つきの恩知らずです! どうせ金で雇われて、嘘の証言をしているに決まっています!」
『……アランさまが命じられたにも関わらず、私はソフィアさまに近付くことなくずっと下働きをしていました。それはアランさまに既に報告済みです』
「それはっ! この娘が侍女には相応しくないからです!」
『ソフィアさまには怪しい来客がいくつかありました。その中には、ゴシップ紙の記者も居ました。ソフィアさまは、事実無根のアランさまとのゴシップを自ら売り込んでいらっしゃったようです』
「嘘ですっ!」
バルバラの金切り声が響いたが、セルジュ先生がひょいっと顔を出して補足する。
『勿論、裏取りはしています。どの新聞のどの記者かまで、把握しているしアラン魔術伯には報告済みです』
「っ……」
セルジュ先生の追撃に、バルバラはダウン寸前だ。
そこに、ジェシカがとどめを刺した。
『ある日、私はバルバラさんが夜の散歩をしているのを見かけました。犬を連れていると思ったのですが、それは犬ではありませんでした。首輪をした四つん這いになった人間を、鎖に繋いで連れて歩いていたのです。恐ろしさに、私は黙ることしか出来ませんでした』
「犬です! そんなわけがないわ!」
『アリスは犬じゃないわ』
「……! そんな、まさか……」
バルバラがぶるぶる震え出した。
ソフィアも嘘泣きを止めて真顔になっている。
『アリス、証言出来るかしら』
『やります。がんばります』
ジェシカの代わりに映ったのは、やせ細ってガリガリの子供だった。
ワンピースドレスを着ているからかろうじて女の子と分かるけれど、髪の毛はざんばらだし頬がこけていて性別が不詳な見た目だった。
それに、手に拘束具のようなごつい首輪を持っている。
あれが、彼女に付けられていた首輪なのだろう。人に対してやることではない。
彼女は瘦せた身体にしてははっきりとした口調で、告発を始めた。
『私はアリスです。ヴァランシ公国出身です。魔力が多く、暴発しがちだったのを見込まれて買われました。私の仕事は、指示された時に魔力を暴発させることでした』
一気に言った後、口をつぐむアリスにセルジュ先生が質問を始める。
『暴発をするように指示をするよう言ったのは、誰かな』
『名前は知らないおばさんです』
『画面の向こうに映っている人かい?』
『はい、あの人です』
アリスが指さしたのは、当然バルバラだった。
「嘘よ!」
わめくバルバラを無視し、セルジュ先生は問いかけを続けた。
『この首輪は、君に付けられていた?』
『はい』
『それも、その女性がしたのかな』
『はい。私が魔法で歯向かって逃げ出さないようにです』
『それはいつからかな』
『あれから何年経ったか、分かりません。私が八歳の時、買われました。その時は公国のお屋敷でした』
アランさまが口を挟む。
「私たちが公国に居たのは五年も前の話だ。貴女はずっと屋敷に居たのだろうか」
『えっと、はい。買われた時から、ずっと外に出てないんで』
「何故魔力を暴発させるよう命じられたか、理由は分かるか」
『聞いたけど、知る必要はないと言われました。ただ、漏れ聞こえる言葉から、誰かの代わりに暴発させているような気はしました』
それを聞いて、アランさまは自ら確認するよう口を開いた。
「ホルト候と奥方が事故で亡くなった後、ソフィア嬢の魔力は暴発しがちになった。彼女は弱り、私と婚姻を結んでホルト候の跡を継いで欲しいと頼んできた。それが五年ほど前だった。すると、最初から自演自作だったのか……?」
『最初の方は命じられることがしょっちゅうだったので、炎の魔法を屋敷の中でぶっ放してました。最近は、不思議な建物の中で、放つよう命じられていました』
私も口を挟む。
「それって、修練堂かしら」
『しゅうれんどう……?』
「えーっと、以前は真っ白のテントみたいな建物で、魔法を使っても吸い取られるの」
『はい、わかります。最近、景色が描かれていて、とても美しくて、見るのが嬉しかったです』
時間が無いから、本格的な絵画ではなく簡単な風景画だったと聞いたのに。それでもこんなに無邪気に喜んで。
もーっ、この子には美味しいものを食べさせて太らせた後で、美しい景色を見せてあげなきゃ。
そう固く決心して言う。
「世の中には、あの絵より美しい景色がたくさんあるのよ。回復したら、それを感じられるようになるわ」
『あの、ひょっとして。じゃあ、景色を描いてくださったのは、貴女さまなのですか』
「いいえ。私は、真っ白じゃ殺風景だから景色の絵でも描いてほしいとお願いしただけよ」
『やっぱり、そうなのですね。ありがとうございます。あの絵があったから、意識を奪われ犬みたいな扱いをされても希望を捨てずに持ちこたえられました』
「まあ……、良かったわ……」
健気だなあ。それに、私の思い付きが彼女の心の支えになったなら良かった。
ジーンと浸っていると、更にアランさまが尋ねた。
「私は、屋敷内で貴女の気配を一切感じることは出来なかった。それに、貴女も自ら出て行こうとはしていなかった。屋敷の中に、一体何があったのだろう」
『はい。私は首輪を繋がれた上、暗示をかけられていました。人ではなく飼われている存在だということ、そして出て行けば死ぬというものです』
「なんて酷い……」
思わず感想を口に出して呟くと、周囲の人々も同じような感想を口にした。
アリスは淡々と続ける。
『閉じ込められていた塔も、幻想の敵で守護されていました。敵の攻撃は本物なので反撃は必要です。けれど、中に入った者の攻撃は蓄積されていき出る時にその身に返ってきます。今回は、攻撃が大きすぎて塔に蓄積しきれなかったと思われます。塔が崩壊して、外から助けに来てくれた方が私を逃してくれました』
「そうでなければ、これからもずっと閉じ込められていたということか」
『……はい』
アリスがこくりと頷く。それを見てから、アランさまが硬い声を出した。
「私は告発する。我が屋敷に公国の子供が監禁されていたことを。そしてその犯人は、公国のホルト候の遺児、ソフィア嬢だ」




