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ヒーローを追いかけまわすタイプの悪役令嬢に転生してしまったけどキャラ変したいです  作者: 園内かな
思惑渦巻く狩猟祭

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2.


「あの……」


 隣に座っていた野次馬令嬢が、遠慮がちに声を掛けてきた。

 私は顔を上げて鷹揚に応じる。


「貴女も災難だったわね。たまたま私の隣に座っただけで、ありもしない冤罪をかけられるところだったわ」

「そう、ですわね。助けて頂いて、ありがとうございました」

「いいのよ、気にしないで」


 マドレーヌも難しい顔をして言う。


「これで二度目ですね。エリザベスさまが機転の利く方で良かったですが」

「私には何が起こったかよく分からなかった。あれはソフィア嬢の自作自演ということか?」


 ナタリーに尋ねられて、マドレーヌが頷く。


「確たる証拠は無いが。彼女と居る時だけ、ティーカップが自動的に動いている。茶を浴びる趣味があるなら、一人で勝手にしてほしいものだ」

「プッ、どんな趣味なんだ。それにしても、スマホというものは凄いですね。今も、皆がスマホを夢中になって見つめている」


 ナタリーの言う通り、天幕の中に居る令嬢たちの大半がスマホを眺めている。

 私はフフッと笑って口を開いた。


「アリーズ先生も頑張ってくれているみたい」

「アリーズ先生というのは……?」

「まあ! アリーズ先生をご存じないのですか。有名な作家の先生ですわ。ヒット作を連発していて、私どもは皆、アリーズ先生のファンなのです」


 ナタリーの問いかけに答えてくれたのは、野次馬令嬢だった。

 そして周囲の令嬢たちもすぐに反応して、会話に参加してきた。


「アリーズ先生の描写力は素晴らしいですわ。物語に夢中になりますもの」

「王子と竜も、女騎士マリーの事件簿も面白くて、何度も読んでしまいます」

「それに、今の『君を愛することはない……』」

「シッ! それは言ってはいけない約束でしょう」

「そうだったわ。ふふ、今のは聞かないことにしてくださいまし」


 令嬢たちの早口の会話に、ナタリーはついていけないようだ。

 マドレーヌは無言でいる。

 その時、私を呼ぶ落ち着いた声がした。


「エリザベスさま、よろしいでしょうか」


 天幕に居た使用人の女性だ。おそらく、普段は王宮で勤めているのだろう。


「ええ、何かしら」

「天幕の外に、セリーヌ公女のお使いとおっしゃる方がこの手紙を渡されました」

「ありがとう」


 私はその差し出された手紙を受け取って、何気なく差し出してくれた女性の顔を見て驚いた。


「あらっ! ステイシーじゃないの!」

「うふ。エリさま、ようやく気付いてくれましたね。私、さっきからずっとエリさまのこと見てたんですよ」

「まー! すぐに走って近付いて声を掛けたりしないし、落ち着いた声を出せているし、成長したのねー!」


 出来の悪い後輩が成長したような目線でステイシーを見ると、彼女ははにかんだ笑顔を浮かべていた。


「厳しい先輩にめちゃくちゃしごかれて、態度を改めたら洗濯女中から配置換えしてあげるって言われたんですよー! 今は一番下っ端ですけど侍女になれました」

「良かったじゃない。もっと礼儀作法を学んだら、王宮の高級女官になれるかもしれないわね」

「そこまでは望んでないです。でも、もう少し王宮で学んだらいつかはエリさまの所に戻りたいです」

「そうね。お母さまにも言っておくわ」


 私の所に戻すのはあんまり気が乗らないけど、公爵家の侍女として出向しているなら家に戻すのは良いかもしれない。帰ってからお母さまに聞いてみようと思いながら、手紙を受け取る。

 ステイシーは私の返事に文句もつけず、恭しく礼をして持ち場に戻っていった。

 感心だわ。


 今までだったら、馴れ馴れしく話しかけてきたり、不満そうな顔を見せたり、侍女らしからぬ言動ばかりしていたのに。ステイシーも大人になったのねぇ。やっぱり、新しい出会いは人を成長させるのね。

 しみじみとそんなことを思いながら手紙の封を切って中を見ると、セリーヌ姫からのメッセージは


『内密で話したいことがあるので、東屋まで一人で来てほしい』


 というものだった。

 私は黙って、マドレーヌにその内容を見せる。

 マドレーヌはその美しい眉根を寄せて小声で呟いた。


「エリザベスさまを一人で行かせるわけには参りません」

「じゃあ、後からこっそり付いて来て。少しでもおかしいと思ったら助けてくれたらいいわ。アランさまのお護りがあるから、大丈夫だとは思うけれど」

「かしこまりました」


 私が天幕を出ると、待ち構えていたのはセリーヌ公女の側付使用人であるルイスだった。


「あなたが案内人なのね」

「はい」


 いつもの如く、慇懃無礼な笑みを浮かべた童顔の青年だ。

 小雨がぱらつく中、案内される間に私は彼を質問責めにした。


「ねえルイス、貴方はセリーヌさまとどういう間柄なの」

「……公女さまの父君である、ヴァランシ大公さまより側付使用人としてお仕えするよう拝命いたしました」

「突然命じられたわけではないんでしょう? 公国に居た時から親しい仲だったのかしら」

「親しい、等とは恐れ多いことですが。我が一族は代々、大公さまにお仕えしております」


 どうもセリーヌ個人との関係性をズバリ言ってこない。

 私はニンマリとして口を開いた。


「ねえ、貴方のその遠回しすぎて何も言わないところを見ると、何かを隠しているのかしら? 例えば、貴方がセリーヌさまに懸想しているとか」

「は? 下種の勘繰りを。私はそんな不埒な思いを姫さまに抱いたことなど無い!」

「ガチギレだし。何もやましいことが無いなら、普通に幼馴染で~、とか言うでしょ」


 すると渋々、彼は認めた。


「幼馴染というのも恐れ多いですが、幼少の頃よりお側に仕えております」

「子供の頃からずっと一緒なのね。じゃあ、セリーヌさまがこの国に嫁がれたら、貴方も一緒に移住するのかしら」


 私の言葉に、ルイスは流し目をして振り返ったが、それは挑戦的な色を含んでいた。


「それはどうでしょう」

「あら。セリーヌさまがランベールと結婚するのは反対なのかしら」

「反対などと、私の立場で申し上げる訳には参りません。しかし、姫さまは公国内でも婚姻相手に困りませんので、お心のままに選択なされて欲しいものです」


 ふむ。やはり、セリーヌ姫がランベールと結婚してわざわざ王国で苦労するのは嫌なようだ。


「セリーヌさまには、公国内に選びたいお相手はいらっしゃるのかしら?」

「いいえ、そのような方はいらっしゃいません」

「だったら、相手はランベールでもいいじゃない」

「……それが姫さまの望まれる未来であれば」

「不満たらたらに聞こえるわねぇ。貴方個人としては、ランベールは不合格ってことね」


 すると、ルイスははっきり挑戦的に告げた。


「心に別の女を住まわせた結婚相手など、一般的にも敬遠されるでしょう」

「心に別の女……? えっ、ランベールには好きな人が居るってこと?」

「見ていたら分かるでしょう」


 馬鹿にしたような曖昧な笑みを浮かべてこちらを見下ろすルイスの足は止まっている。

 雨がぽつぽつと降ってきて、二人とも濡れているが急いで雨宿りをするより話を進めたかった。


「見ていたらって。貴方がそんなにランベールと深く知り合うってことは、それほどにセリーヌ姫と会う機会が多かったってことよね? その相手はセリーヌさまってことは?」

「ありませんね」

「何でそんなの分かるの」

「分からない方が不思議です。よっぽど鈍いか、彼に興味がないんじゃないですか」


 まあ、興味は無い。

 そういえば、アランさまにふられた翌日に、当てつけの為に妃にしてやると言われたことを思い出す。

 あれは、ランベールも当てつけをするつもりだったのかもしれない?

 でも、意中の相手はセリーヌ姫ではない?

 うーん、分からない。


「……よく分からないから、もうその話はいいわ。私が聞きたいのは、貴方から見たセリーヌさまの人となりよ」

「私から見た、姫さまですか。貴女に姫さまの人となりなんて関係ありますか」

「あら、勿論よ。私、これでもセリーヌさまと親しくさせて頂いているし。セリーヌさまの関心ごとなんかも気になるし」


 ルイスが再び歩き出したので、私も後をついていく。

 彼は前を向いて歩いたまま話し出した。


「そうですね。姫さまは私のような使用人にも心を砕いて気遣ってくださる、とても優しい方です。人の上に立つということが、どういうことか分かっていらっしゃる。そして、それは生半可な努力で成り立つものではないと、傍で見ていた私には分かります」

「セリーヌさまは努力家であらせられる、ってこと?」

「……私は、姫さまが厳しい公室教育に耐え、並々ならぬ努力をされていたのを見守っていました」

「今の、セリーヌさまの優雅で教養のある振る舞いも、努力あってのこと、なのね」

「……到着しました。こちらです」


 東屋というよりは、立派な小屋だった。

 暖炉が燃えているのだろう、煙突から煙が出ている。雨が降っているから、小屋の中を暖めているのだろう。

 どうぞお入りください、と扉を開けるルイスに尋ねる。


「貴方は入らないの?」

「外で待っております」

「服が濡れたでしょう。風邪をひいてしまうわ」

「それほどやわではありませんので」


 いいから早く入れ、とイラッとしたのを感じる。人が親切で言ってるのに、通じないんだなあ。

 外で待っているなんて、服を乾かしてもまた濡れてしまう。せめて屋根のあるところで、と言おうとしたらなんと、ルイスは私を押し込めるように小屋の中に背を突き飛ばして入れると扉をバタン! と閉めてしまった。


 なんという不敬!

 我、公爵家の令嬢ぞ?


 しかも、扉を開けようとしても開かない。

 一体、どうなっているのだか。

 すると、廊下の奥の部屋から声がした。


「遅い! 一体何をしていたんだ、ユリアン」

「えっ」


 その声は、ランベールのものだった。


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