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ヒーローを追いかけまわすタイプの悪役令嬢に転生してしまったけどキャラ変したいです  作者: 園内かな
古城の前夜祭

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3.


 自室に戻った私は、呼び出した人物と会う為に、マドレーヌとシーラにも席を外してもらい一人きりになっていた。

 やがて、その人物が現れた。


「やあ、可愛いエリー。珍しいね、二人きりで会いたいだなんて」

「ええ。内密にお話しをしたかったの。どうぞお掛けになって、ヴィクトルお兄さま」


 そう。私が呼んだのは、長兄のヴィクトルお兄さまだった。

 ソファに向かい合って、ニコニコしているヴィクトルお兄さまにさっそく口を開く。


「お兄さま、ミリセントについてなんだけれど。彼女について、どこまで知っているの?」

「どこまで? そんなに深い仲ではないよ。私の婚約者であることと、領地改革で一定の成果を得ている、才媛であることくらいかな」


 にこやかでいながらも、どうしてミリセントのことを尋ねるのだろうと訝しげな表情をするお兄さま。

 私は言葉を選びながら口を開いた。


「ミリセントは、とんでもない才能を秘めているの。それは、文字を知らない人にさえ思想を与える、ものすごいギフトよ」

「ふぅん? 例えば、読み書きが出来ない平民に高尚な勉学を教えるような、か?」

「それも出来るわ。それに、不特定多数の外国人に政治的思想を与えることだって」

「不特定多数に。それは一体、どういうやり方だろうか。彼女は魔術的な才能は無い筈だけれど」


 それには私は首を横に振った。


「魔術的なことではないの。例えば、子供は寝る前に絵本を読み聞かせてもらって物語を知るでしょう。それである程度の常識や社会性を身につけることが出来る。その絵本の、絵の精度を上げて文字無しでも分かるようなストーリー仕立ての連続したイラストを見たら、描いた人物の思う通りの思想を広げることが出来る」

「つまり、ミリセントは絵本の絵を上手く描くことが出来るってこと?」


 話がすんなり通じた。私は今度は首を縦に振った。


「そうよ。そして、彼女はとても偏った……、少し危険な思想を持っていて、それを広めようとしている」

「まさか。私には、彼女は平和を望む人物に見えたが。それほどの野心を秘めていたのだろうか」

「いいえ、お兄さま。そういう野心ではないの。でも、ご禁制の代物を生み出すような、少々危なっかしい思想の持主よ。まあ、説明するより見てもらう方が早いわね。これよ」


 私はさっきミリセントから預かったばかりの原稿を、ヴィクトルお兄さまに迷うことなく手渡した。

「これは……! 私、か……?」


 驚いていたヴィクトルお兄さまだけど、紙を捲る度に目が据わっていく。

 そして真顔になって、最後まで原稿を見た後たっぷりと無言になった。


「この連続した絵と台詞を、私とミリセントは『漫画』と呼んでいます」

「…………」

「漫画、使いようによってはすごいものになると思いませんか。それこそ、革命を呼び起こせるような」

「………………」

「今はミリセントが妄想を好きに描いていますが……」

「少し、訊ねたいのだが」


 口を開いたお兄さまは、漫画なら効果音がゴゴゴゴと鳴っているような、とてつもない黒いオーラを纏っていることだろう。

 物凄く怖い。

 いつも、穏やかでニコニコしてる人が怒るとめちゃくちゃ怖いんだと私は身をもって知った。しかし、素知らぬ顔をして返事をする。


「はい、お兄さま」

「これは、私とレンドールに見えるのだが」

「はい、そうですね」

「ミリセントは一体、どういうつもりなんだ」

「これは、彼女の願望が込められた漫画なのです」


 私がそう告げると、ヴィクトルお兄さまはいつになく声を荒げた。


「はぁっ?! これが願望だと?!」

「はい。いつも高慢でいけすかないお兄さまが、夜は身分が下の者に泣かされるのが好きだと、そうおっしゃっていました」

「そう。ふぅん……」


 ヴィクトルお兄さまの声は、ゾッとするほど低くなっていた。

 私は取り成すように説明を続けた。


「ミリセントは、ヴィクトルお兄さまの婚約者であることには感謝していました。援助にもとても助かったと喜んでいました。ですが、お兄さまと結婚するつもりはなく、このまま婚約を引き延ばされる方が良いそうです」

「随分待たせてしまったと思っていたけれど、それでも構わないと」

「はい。最終的には、サイの国に向かうそうです。リーシャ商会の、真の会長であるワン・リーシャオと。彼はそちらの皇族のようですね」


 ヴィクトルお兄さまの手にぐっと力が込められ、原稿に皺が寄ってしまった。

 恐ろしい形相で、それでもお兄さまの唇は笑みの形になった。


「そう。ミリセントとは、よぉく話し合わないといけないようだね」

「ええ。彼女ほどの人材を逃すわけにはいかないわ。お兄さま、しっかりミリセントを説得してね。私は彼女をお義姉さまと呼びたいわ」

「それもいいだろう。彼女の部屋はすぐ近くだったね」

「ええ。お部屋まで案内するわ」


 こうして私は、再度ミリセントの部屋をノックした。


「ミリセント、エリザベスよ。もう一度、良いかしら」

「エリザベス? ええ、どうしたの」


 私と思って扉を開けた彼女が目にしたのは、無言で恐ろしい表情のヴィクトルお兄さまだった。


「…………」

「えっ! あれっ、ヴィクトルさま? 一体、どうされたんですか……」


 ヴィクトルお兄さまが無言のまま、ミリセントの部屋に強引に押し入る。彼がバタンと後ろ手に扉を閉める音を聞き、私はそのまま立ち去った。

 後はヴィクトルお兄さまに任せるに限る。私は自室に戻って、朝まで安らかに眠ったのだった。



 翌朝、ミリセントは朝食会場には来ず、部屋から出て来る気配も無かった。男性参加者たちが狩りをする間、女性たちはお茶会の為に天幕に集まる。その中にもミリセントは来ておらず、部屋に籠り切りのようだった。

 ヴィクトルお兄さまは狩りに参加するようで、様子を伺うと彼はニコリと妖艶な笑みを浮かべた。昨日より、機嫌が良くなっているし何だか顔色が艶やかに見える。


「昨夜の話し合いは、上手くいったよ」

「まあ。良かったですわ」

「近いうちに、婚姻届を出すことになるだろう。時期は考えることになるが」

「おめでとうございます、お兄さま。長すぎる春だったのですから、時期はすぐでも良いと思うわよ。それに、ミリセントは部屋に籠りきりで具合でも悪いのではないかしら」

「ああ、後でお見舞いに行っておくよ」

「ふふっ、仲良しになったのね。ヴィクトルお兄さまとミリセントお義姉さま」

「まあ、ね」

「うふふ」


 ミリセントの足元を上手くすくえて、私はご機嫌になった。

 私とアランさまの仲を裂こうとする一角を崩したのだ。

 この調子で包囲網を突破しちゃうぞ。


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