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ヒーローを追いかけまわすタイプの悪役令嬢に転生してしまったけどキャラ変したいです  作者: 園内かな
舞台P原作付きミュージカル編

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2.


 次の目標は定まった。

 私は王妃さまとスマホで連絡を取い、今後王妃さま的にはどうしたいか訊ねてみた。

 すると、二か月後にある狩猟祭にセリーヌ姫さまを参加させて欲しいらしい。


 狩猟祭は王都から少し離れた地方都市の古城で開催される。主催は王太子であるランベール。名前の通り、若き貴公子たちが狩りの腕を競い合う。そして想い人である令嬢に勝利を捧げたりするのだ。

 二人の関係を深めるにはピッタリのイベントだろう。


 ただ、セリーヌ姫は参加を控えるとの回答らしい。彼女の一番の従者であるルイスがそう返事をしてきた。セリーヌ姫本人が嫌だと言っているのか、国からの指示からは微妙なところだ。

 私の役目としては、セリーヌ姫本人の意向を伺い、もし行きたくないとしてもなんとか参加してもらいたいと勧誘する担当だ。


 ランベールが直接、セリーヌ姫にお誘い出来たら良いのだけれど、そこまでの仲では無いらしい。まあ、仲良しだったらセリーヌ姫も是非にと最初から参加しているだろうしね。

 ランベールも頑張って誘ってほしい。


 そんな風に思っていると、セリーヌ姫のお茶会にさっそく誘われた。

 私は勿論、ほいほいと参加した。

 参加メンバーはセリーヌ姫のご学友の女性たちだった。

 姫さまは王立学園に留学中なので、同級生のお友達もたくさん居るのだろうとにこやかに挨拶を交わす。

 そこで、火ぶたは切って落とされた。

 姫さまが優雅にお茶を飲んでから、口を開く。


「私たちは皆、読書会のメンバーなのよ。そこで仲良くなりましたの」

「そうなのです。特に、アリーズ先生のお話が大好きで」


 もうこの時点で、嫌な予感しかしない。

 私は曖昧な笑みを浮かべて相槌を打つ。


「まあ、そうなのですね。大変な評判のお話ですものね」

「ええ。『王子と竜』の複線からのどんでん返し! まさか、竜と王子があんなことになるなんて!」


 一人のご学友が興奮したように叫ぶと、皆がワーワー感想を早口で述べ捲る。

 ここまではまだ良かった。

 しかし、姫さまは悲しそうに言う。


「『王子と竜』は良かったのよ。でも、私たち、『女騎士マリーの事件簿』の最後がどうしても納得いかなくて」


 はい、きたー。

 この議論は本当に何度も幾度となく繰り返されている。ネットの掲示板でも、友人知人間の会話でも。新聞の論表記事にもなっていた。

 とにかく、グイン派とレオン派がいて、グイン派は勝利して喜んでいる。レオン派は納得いかないと呪詛の言葉を吐き散らす。

 物語をただ楽しむだけの人もたくさん居る筈なのだが、思い入れのある人ほど声が大きくなるようだ。

 ご学友の一人が言う。


「私どもは皆、『女騎士マリーの事件簿』のレオンさまのファンなんです」

「な、なるほど~」


 そこからはグイン吊し上げタイムになった。

 どうしてダメなおじさんであるグインが選ばれたのか、議論しながらこき下ろされるのである。

 多分、ここにグレゴリーが居たら泣くと思う。


 私でも「グレゴリーにもいいとこあるし、マドレーヌが選んだんだから仕方ないでしょっ!」と言いたくなる。

 だが、ここはあくまで創作の中の話だ。

 私は曖昧な笑みのまままあまあ、と取り成した。


「物語の中のお話なので。マリーはグインが良かったのでしょう。私にも、よく分かりませんが」


 するとセリーヌ姫がきらりと瞳を光らせて言った。


「エリザベス、貴女は結末を決められる立場にあったのではなくて?」

「っ!」


 皆が息を呑んで私を見つめた。

 他の人は知らなかったかもしれないけど、セリーヌ姫は私がアリーズ先生の編集の立場であると知っているのだろう。

 これは、認めて良いのか迷うとろこだ。

 迷った末、私は首を横に振った。


「いいえ。全ての作家は、創作物を自由に作るべきです。誰かに指示されたお話の結末など、創作物を汚すことになると、私は思います」

「アリーズ先生との関係について、否定はなさらないのね」

「確かに、私はアリーズ先生とコンタクトを取れる立場にはあります」

「……! ではっ」

「まさか! アリーズ先生とお話をされたことがあるということでしょうかっ」


 皆が色めきたつのを、私は静かに話す。


「アリーズ先生は完全非公開での作家活動を希望されています。どのようなお方であるか、年齢職業性別、全てを伏せるということです」

「性別までっ」

「そして、結末を決められる立場であるかというご質問ですが。それは違います。あのお話はアリーズ先生のペンが、そのように動いて書かれたものです。作家先生の中には、物語の中の人物が勝手に動いていくそうですわよ。きっと、アリーズ先生もそうなのでしょう」

「ま、まあ~。でも、どうしてレオンさまが選ばれずに、グインが選ばれたのかを、少しだけでも教えて頂きたいですわっ」


 令嬢の一人が悔しそうに述べる。

 すると、セリーヌ姫がまた瞳をキラッと光らせた。


「エリザベスさまには、いつも美しい女騎士が控えておられるとか。それこそ、マリーのような」


 あーーー、バレてる!

 マドレーヌが女騎士マリーのモデルだって、バレてるわコレ。

 そこから色々推測されていることに、私は慄いた。

 このままでは、アリーズ先生の正体やらグインとレインの正体まで全てまるっとバレてしまうのではないか。バレるだけならいいけど、公開されて面白おかしいゴシップ記事になることだけは避けたい。

 私はしれっと言った。


「最近は別の騎士も頼りにしておりますの。公爵家の筆頭騎士は、腕が立ちますのよ」


 皆が一斉に、少し離れた場所に立っているノディを見た。

 令嬢たちの視線を一気に浴びたノディも内心はびっくりしただろうけど、ベテランなので表情を変えずに静かに立っている。

 今、マドレーヌは新婚休暇として、まとまったお休みを取っている。今日連れてこなくて良かった~。

 しかしセリーヌ姫は追及を止めない。


「では、その女騎士は今は?」

「彼女は、都合で職を辞しましたの。私の騎士ということで、以前からいらぬ噂を立てられて気の毒でしたもの。それもあって、快く送り出しましたのよ。中傷はやはり、彼女の心を傷付けたのでしょうから」


 そうまで言うと、セリーヌ姫は口をもごもごとさせた。


「そんなつもりは、私にはないのですけれど……」


 お前のしようとしていることは、余計な噂を立てることなんだぜとチクチク言葉で言ってやったわけだ。

 マドレーヌは辞めてないけど、セリーヌ姫が来るところには連れていかないことにしよう。

 場が盛り下がってシンとなってしまったので、私は本題に入る。


「ところで、皆さまは二か月後にある狩猟祭には参加されますの? 私は今まで、行ったことがなくて」


 皆は「父や兄が参加した」とか「来年は行きたい」などと言っている。

 セリーヌ姫は困ったような顔で口を開いた。


「私は、あまり狩りが好きではないの。その、罪もない動物たちが大量に積み上げられると聞いて、恐ろしくなってしまって」

「積み上げる場所には近付かず、参加だけでも出来ますわよ。それに、ナインヴァンス城に宿泊出来ると伺いましたわ。いつもは王家が管理していて、中に入ることも出来ない美しいお城ですのよ」


 セリーヌ姫がスッと瞳を細めて、私を見極めようとしている。そして小首を傾げてから口を開いた。


「そうねえ、私としては行きたいのも山々なのだけれど。国の許可を取るのも難しいでしょうね」


 つまり、行くのもやぶさかではない。だが、行って何のメリットがあるのか、と問いたいのだろう。

 私はこの場での最強の切り札のカードを切った。


「もしも。女騎士マリーが、レオンの手を取る結末を見ることが出来るとしたら、どうされますか」

「なんですって! そんなの! 何としてでも見たいに決まっているじゃない!」


 他の参加者たちも、興奮したように口々に言い募る。

 絶対に見たい、何をしてでも。

 私はニコッとして言った。


「セリーヌさま、本国へのご許可、取っておいてくださいね」

「まあ、許可を取るくらいなら良くってよ。実際に行くかどうかは、本当に見られるかどうかにかかっていること、ようよう覚えておきなさい」

「ふふ。楽しみにお待ちくださいね」


 皆は、手を取り合ってキャーと言っている。

 セリーヌ姫も、興奮した様子で頬を染めていた。


 その顔を、ランベールに見せてあげて欲しい。しかし、姫さまの心はランベールよりアリーズ先生の方が大きく関心がある。

 いっそのこと、ランベールが主役のプロパガンダストーリーでも作ってもらおうかな。

 そんなことを考えながら、私は水面下で既に走り出していたプロジェクトを早める為に動くことにしたのだった。


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