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ヒーローを追いかけまわすタイプの悪役令嬢に転生してしまったけどキャラ変したいです  作者: 園内かな
舞台P原作付きミュージカル編

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1.


 翌朝、気付いたら私は自室のベッドで寝ていた。アランさまとマドレーヌが送り届けてくれたらしい。

 そして、私を取り巻く世論もすっかり変わっていた。

 更にその翌日、セルジュ先生は新聞をいくつも持ってお見舞いに来てくれた。


「ゴシップ紙を覗く、大手新聞は軒並みエリザベルさまの成果を好意的に報じています。今までの補聴器やスマホの心拍数と魔力量計測で助けられた人の声も。勿論、舞台が大成功して公国との友好ムードが高まったこともです」


 お見舞いと言っても、私はぐっすり眠って元気になっているので応接室で対応している。メンバーは私と爺や、マドレーヌだ。

 爺やが淹れてくれた、美味しいお茶を飲みながら答えた。


「やっぱり、パトラ伯母さまに後押ししてもらえたのは強いわよね。王妃パワーは世論も変えてくれるわ」

「そう甘いものではありません。今、急激に世論が変わったのは、これまでエリザベスさまのスキャンダル一辺倒だったゴシップ紙に皆が飽きていたからです。今は、それを完全に反転する報道が出たから珍しくてそちらに飛びついているだけです。油断したらまたすぐ元通りですよ」

「そうは言われても。私はアランさまと結婚出来たらそれでいいから、流れが来ているうちに早く結婚したいわ」


 王妃さまのお陰で、お母さまから結婚の許可は得られた。

 しかし、お父さまとヴィクトルお兄さまは未だに反対姿勢だ。でも、王妃さまの後押しがあるから、いざとなったら家を出て勝手に結婚してやると、宣言はしている。


「それには、セリーヌ姫さまと親交を深め、ランベール殿下との婚姻の後押しをし、エリザベスさまも同時に結婚するというのが良いでしょう。世論も歓迎ムードになる」

「世論、世論って。人の意見なんか関係ないわ。あの二人、結婚するかどうかも分からないんだし。私は早く結婚してアランさまと一緒に住みたいのに」

「いけません。強引に事を進めれば、評判が悪くなる。ひいてはエリザベスさまが後見しているアリーズ先生の評判まで悪くなるのですよ! アリーズ先生は何も悪くないのに、中傷されている状態です。きっと心を痛めておられることでしょう。アリーズ先生が心穏やかに執筆出来る環境を作る為に、エリザベスさまにも協力して頂かないと」

「思いっきり私情が入ってるじゃないの」


 私の心配をしているかと思いきや、アリーズ先生の執筆環境にしか目が向いていない。

 呆れていると、彼は真面目な表情で違う話題を口にした。


「それから、リーシャ商会ですが。やはりモンペール劇団と関わり合いが深く、全て折り込み済でエリザベスさまに推薦したのではないでしょうか」

「やっぱり、そうよね」


 私が困ったり恥をかいたりすることを知っていて、モンペール劇団を紹介した。そして私が慌てて連絡を取ろうとしたら、王都には居ないとかで無視された。

 その後、観劇前日くらいになってからまたライナスから連絡があったけど、もう無視したわよ!

 セルジュは私に呆れたような視線を向けた。


「むしろ、どうしてリーシャ商会からの紹介を受けたのですか。おかしいと感じる部分はいくつもあったのでしょう」

「あの時は、機が合ったと思ったんだけどな~」

「それは、相手がエリザベスさまを罠にかけようと機会を伺っていたからでしょう。その辺りの見極めが、まだまだですな」


 当然、お父さまとお母さまに、リーシャ商会は私をハメようとしたと訴えた。そしたら、私に甘い両親はすぐにリーシャ商会を公爵家御用達からはずしたのだ。今では来ても門前払いだし、取次もされない。ざまあみろよ。


「まあでも、結局はモンペール劇団の若い子を使って上手くいったからいいじゃない。その後処理は、セルジュ先生にお任せしまくっているけれど……」


 あの舞台を切欠に、モンペールの悪行は知らない人が居ない状態になった。セクハラパワハラ詐欺暴行の全てを常習的にやっていたらしく、ついには逮捕されてしまった。今、ゴシップ紙で一番叩かれている男である。

 これにはエリちゃんもニッコリよ。

 ザマアだわ。


 その証拠提出やら、司法との連携は、全てセルジュ先生の手腕によって上手くいっている。

だから彼にはとても感謝しているのだけれど。

 そう思っていると、ゴホンとわざとらしく咳ばらいをしてセルジュ先生がこちらを伺う。


「ところで、パトロンの件ですが。私のことを、アリーズ先生にお伝え頂けましたでしょうか」


 ほら、来た。

 お見舞いに来てくれて仕事の話もしているけれど、結局はアリーズ先生の動向を探りたかったに違いない。

 私は半笑いになって言った。


「勿論、本人に打診したわ」

「では!」

「お断りします、だって」


 見るからに、セルジュ先生はガクッと萎れてしまった。


「そんな。どうしてでしょう。いかなる条件も飲みますし、手厚く世話をしますのに」

「アリーズ先生は、仕事を辞めたくないんだって」


 公爵家の使用人、しかも侍女頭なんて上級使用人の立場はなかなか得られるものではない。私が手厚く保護しているので、一生安泰だ。もし私がアランさまと結婚しても、公爵家で働き続けられるのだ。もしシーラが希望するなら、私たちの屋敷の近くに家を買ってそこに住んでもらうとか、アランさまに頼み込んで独身でもシーラを雇ってもらうかしたら良い。


 パトロンなんて不安定な立場に、わざわざなる必要は無いのだ。

 セルジュ先生はすぐにそれを読み取ったらしい。


「なるほど。人気にいい気にならない、堅実な方なのですね。それでは、私とアリーズ先生のどちらかが亡くなるまで永久継続の契約にすればどうでしょう。もし私の方が先に死んだ場合、まとまったものを遺すという条件で」

「いや重いから。アリーズ先生は、殿方のお世話になるのは嫌だって断ってたから」

「うーん。私の性別は変えることは出来ません。でしたら、私の母か妹に代理の契約者になってもらって……」

「そういうのが重いんだってば! しつこいと、厄介ファンと思われるわよ」


 ピシャリと言うと、セルジュ先生は渋々引いた。


「私はただ、アリーズ先生に何の憂いもなく執筆して頂きたいだけなのですが」

「パトロンになって囲い込もうとしてることが、憂いの要因になってると思う」


 今日も一応、セルジュ先生の場に同席するか、シーラには聞いてみたのだ。でもシーラは嫌がっていた。男性全般にあまりいい思いがせず、苦手らしい。

 そういう、男性不信気味のシーラにぐいぐいいくセルジュ先生は良くないと思う。シーラには、彼女個人を見てくれる穏やかな男性が似合うんじゃないかとチラッと考えるけど、やっぱりシーラがその気がないのに男の人を紹介するような真似は駄目だ。


 シーラ自身は、公爵家の使用人として一生独身で居たいと希望している。

 私はまた違った考えを持っている。結婚とパトロンは関係ないと言っても、パトロンを持った後、良い人と知り合って結婚したいってなった時、パトロンに反対されて揉めることもあるだろう。だから男性パトロンを持つより、私が庇護しておいていざという時に自由に動けるのが良いのではないだろうか。


 でも一番シーラに憂いなく過ごしてもらうには、彼女の希望通りにするのが良いかな。

 セルジュ先生はため息を吐きながらも、私の意見を飲み込んだ。


「分かりました。ではこれから、エリザベスさまにはセリーヌ姫さまと仲良くなって、彼女の気持ちをこの王国とランベール殿下に向けながら、出版事業を頑張って頂きたい」

「だから、私情が入ってるってば。でもまあ、今は創りたいものもひと段落したし、私もアランさまとの仲を進めるにはそれがいいのかしらね」



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