3.
今日はついに、大宴会だ。
堅苦しいのは抜きにして、皆を労う為の祝宴だ。
スマホ事業に関わる人たちとその家族が、既に飲んで食べて楽しんでいる。
私とアランさまは、最後に登場した。一番身分が高いから。
スマホ事業のスポンサーはお父さまとお兄さまだけど、彼らが来たら皆が委縮すると思って遠慮してもらった。私たちはまだ、顔馴染みで慣れているけどお父さまなんて王弟だもんね。でも、皆を労う為の差し入れだけはきっちりしてもらった。美味しいお酒とお肉! 食べきれないほどたっぷり貰った。余った分は持ち帰ってもらおう。
屋外で夜だけど、明々と光魔法に照らされて昼間みたいだ。これはジョーが設計した魔道具を、ロビンが設置してクリスが魔力を注いだらしい。
私はすぐに、奥の一団高い場所に案内される。そこで挨拶をするというのが今夜のミッションだ。
壇上に上がると、親方とジョー、いつも見かける職人さんたちが居る。見慣れない人は、その家族だろう。
遠くの方に、工房の門番をしていた人たちと、カードキー前の受付嬢傭兵さんも居る。彼らが居なくても、開発が妨害されたり遅れたりしていただろう。
ロナルドや、販売計画で会議をした販売店の店員さん達もいる。実際に売ったり接客した人は、それは大変だっただろう。
クリスとジェシカ、心臓発作を起こしたリンゼイ氏も居る。リンゼイさんは奥さんと子供と来ているようだ。相変わらずぽっちゃりでお腹が出ているけど、元気そうで良かった。
マドレーヌとシーラも、今日は仕事を忘れて楽しむように言って参加してもらっている。シーラは覆面作家なのでお忍び参加だけれど、私の侍女ということで。
ヴィンス先生とセルジュ先生は不参加で、お父さまの差し入れボトルワインだけ贈っておいた。
こうして、皆の顔を見ていると感慨深い。
私は挨拶の為に口を開いた。挨拶は簡潔に短くを心掛ける。
「皆さん、今日はようこそ。スマホの開発は、皆のお陰で成功することが出来たわ。そして、販売や運営が上手くいっているのも、皆の成果よ。働いてくれている人のうち、誰が欠けてもこんな風に上手くいかなかったわ。だから、皆、ありがとう。そしてこれからも、よろしく。さあ、グラスを掲げて。カンパーイ!」
「乾杯!」
皆がお酒を飲んで、拍手して、笑っている。
私は隣に居るアランさまにニコッとして、そっと言った。
「アランさまも、ありがとう」
「礼を言われるようなことは何もしていない」
言葉としては愛想が無いものだが、声が甘い。雰囲気も優しくて、私をじっと見つめてくれている。
改めて、私ってこの人が大好きなんだなって感じる。
「アランさまを忘れる為に、忙しくしようとしてスマホを作り出したの。忘れることなんて出来なかったけれど。そして、アランさまのお陰で人の為になる機能も追加出来たわ」
「大したことはしていない。けれど、もう私のことを忘れようとはしないでくれ」
「はい!」
私の良い返事に、彼は瞳を柔らかに細め、そして抱き寄せてこめかみにキスをしてくれた。
「私の方が、礼を言うべきだろう。あの日、エリザベスと会って話をして、救われた思いだった。貴女の想いが、嬉しい。そして、私も貴女だけを想っている」
「アランさま……」
その後、ずっと彼の腕の中に居て、何度も髪にキスをされ、私はもう地に足が着いていない状態だった。
ふわふわして記憶が曖昧なので、皆が挨拶に来てくれたような気もするけど生返事だった。
私たち、完全に、両想いなのだわ!
分かっていたけど、本当に本当に嬉しい!
宴会の翌日。
また、魔道具についての業界新聞に、ある記者のエッセイが掲載された。
***
『スマホ開発販売打ち上げの大宴会に潜入してみた』
某日、某所でスマホ開発の工房、販売担当の商会、その関係者と家族だけが招待される極秘の会が開催された。
主催者はお騒がせ令嬢、エリザベス嬢だ。彼女はスマホというとてつもない魔道具を開発し販売、今なお入手困難な品を生み出した素晴らしい実績の持ち主だ。
記者は関係者の親族なので、土下座をして頼み込み、同行させてもらった。
親族に迷惑をかけない為にも、当日起こった事実のみを記載する。
関係者の家族も呼ばれていることから、子供からお年寄りまで皆が和気あいあいと挨拶や会話を繰り返していた。
食事と飲み物も豪華で、エリザベス嬢の実家から高級な肉と酒の差し入れもあり、皆が舌鼓をうっていた。
従業員と職人も意気込みが強く、次はどういう製品を開発したいとか販売したいなど、活気ある意見が飛び交っていた。
エリザベス嬢が会場に到着し、来賓の挨拶を行った。
普通、来賓の挨拶というのは長くつまらなく苦痛な時間を過ごすことが多い。
だが、エリザベス嬢は簡潔に、かつ士気を上げる挨拶をした。
成功しているのは皆の成果であり、働いてくれるうちの誰が欠けても、今のように上手くいかなかったと、場を盛り上げた後に、これからもよろしく頼むと激励したのだ。
乾杯後は、皆がエリザベス嬢を褒め称え、この場に居られる光栄に感謝していた。
ところで、魔道具とは関係がない上、記者は醜聞記事の担当ではないのだが、驚くべき光景を目にしたのでここに記しておく。
エリザベス嬢をエスコートしていたのは、アラン魔術伯だった。
二人は誰がどう見ても仲睦まじい姿であった。
あれほど、エリザベス嬢が一方的に言い寄っているという一部報道があるにも関わらずである。最近の記事では、アラン魔術伯はずっと屋敷にこもり別の令嬢と熱愛中だと記されていた。
記者はどうにかエリザベス嬢に一言貰えないかと、近付くことを画策した。
だが、それを阻止したのはアラン魔術伯であった。彼は記者の存在に気付くと、近付くなと言わんばかりに睨みつけたのである。あれはあからさまなけん制であり、記者は会場から追い出されることを懸念しそれ以上は近付くことが出来なかった。
他紙記事と、記者が実際に目にした事実の隔離は一体どういうことなのだろうか。
次のスマホ以上の魔道具の開発も期待される。引き続き取材を進める所存である。




