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ヒーローを追いかけまわすタイプの悪役令嬢に転生してしまったけどキャラ変したいです  作者: 園内かな
作家先生の誕生

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42/97

1.


 スマホの販売が順調な中、スマホ決済にも目途がついてきた。

 愛国心があって大手の銀行を持っているウォード商会が、スマホの中での商売にも目を向けてくれたのだ。しかも自分のところの銀行だけでなく、他の銀行とも提携して決済出来るようにしてくれているという。ありがたい。

 細かい条件の締結の段階になると、私には分からないからヴィクトルお兄さまとセルジュに丸投げした。


 ヴィクトルお兄さまとは、前ほどべったりでは無くなり微妙な関係のままだ。結婚の話を振ったら、はぐらかされてすぐ居なくなってしまう。アランさまとの結婚を目指すには、スマホ事業を更に成功させるのが一番だと思うので、条件締結を手伝ってくれているのはありがたいけれど。


 ともかく電子マネーについては、後は流れ次第なので、次は売れるソフトだ。

 ヴィンス呪術店に恋愛指南本の原稿を求めると同時に、何か面白い本を書いてくれそうな人を発掘しようと考え付いた。

 私の勘と前世の流れから言うと、女性作家がストーリー性のある物語を書いてくれそうなんだけどな~。


 この国の本は、分厚く豪華な装丁で高いから、どうしても専門書とか難解な文学とかが多い。エンタメに特化した物を、スマホで気軽に読めるようにしたらいいんだけど。

 私には文才が無いので、自分で書かずに人の本を読みたい。しかし、文学フリーマーケットや同人誌即売会も無いし、どうやって作家を見つければ良いのやら。


 女性作家発掘のコンテストとかしてみようかな。でも女性だけって限定したら男性作家のチャンスを潰してしまうかも?

 でもでも、男性作家は大体、難解な文学か専門書の作家であるべしというのが今の世の流れで、見えない重圧でもあるし。


「国立の図書館に行って、本が好きそうな女子が居たら声を掛けてみようかな……」


 思わず独り言を言うと、丁度同じ部屋に居た侍女が「あら」と声をあげた。

 いつも私の意向を汲んで、無駄話はせずすべきことをやってくれる落ち着いた女性だ。

 何を思いついたのだろうかと訊ねてみる。


「どうしたの」

「本がお好きと言えば、シーラさんは活字中毒と言われるほどですよ」

「まあ! そうなの」

「はい。廃棄される古くなった本をトマスさまに譲って頂いて大切に読んでいるそうです。過去の新聞を、捨てる前にじっと読んでいらっしゃるのもお見掛けしました」

「ありがとう! 良いこと聞いたわ。シーラを呼んでちょうだい」

「かしこまりました」


 彼女は頭を下げて、しずしずと下がっていくとすぐにシーラに声を掛けてくれたらしい。シーラは入れ替わりのようにやって来た。


「お嬢さま、御用でしょうか」


 彼女はいつもより控えめで、俯き加減で目を伏せていた。

 どうしたんだろう、と考えて思い出す。シーラがアランさまからのお手紙を隠して以来、初めての呼び出しだったのだ。

 また怒られると思ったのかもしれない。

 私は怒ってないと告げる為に、ニコッと笑って明るく言った。


「座って。そして、私にお話を聞かせて」

「はい。何の話でございましょう」


 いつも無表情で迫力ある顔のシーラが、胡乱げに私を見る。


「子供を寝かしつける時に、他愛のないお話を聞かせたりするじゃない」

「ええ。大体が神話か寓話、教訓が含まれた道徳的なお話ですね」

「そういうのより、楽しくてただ面白いようなお話を創造してほしいの」

「突然、そうはおっしゃられましても」

「本当に簡単な、短いものでいいわ。昔々、から始まって少年が冒険するような」

「そうですわね。それでは……」


 シーラは真面目だから、言った通りのお話を考えて聞かせてくれた。この国でよくあるようなお話だ。使命を持った少年、大体王子とか王さまとかの立場の子が、強大な力を持つ悪を倒す。この時の悪は概念であって、さしたる悪事もしていないけれど、ただ悪いものだとしておどろおどろしい山奥に住んで魔物に囲まれている。

 私はうんうん、と話を聞き終えてから更なる要望を伝えた。


「このお話を、更に膨らませて今までの本の半分くらいの分量の長さにして」

「えっ」

「少年の仲間を登場させて。一人か二人、若いイケメ……、美しい青年で。皆は喧嘩をしたり仲良くなったりしながら旅をして悪を倒すわけ」

「え、はぁ……」

「そして最後に倒す悪にも、悪なりの理由が欲しいわ。悪い敵はどうして悪いことをして山奥に城を建てて魔物に囲まれて住んでいるのか」

「そう、ですわね……」

「最後は、ハッピーエンドね。悪を倒して、前向きに終わるの。お話はこのスマホで入力して書いてちょうだい」


 シーラはおずおずとスマホを受け取りながら、確認した。


「その、きちんと書けるかどうか分からないのですが、よろしいでしょうか」

「勿論。失敗したって、ちゃんと書けなくても全然大丈夫よ。ただ、最後までお話は書いてちょうだい」

「分かりました」

「じゃ、今からね」

「いえ、それは。私にも仕事がありますので」

「今から、これを書くことがお仕事よ。侍女頭の仕事は、シーラしか出来ない最低限のことだけにして、他は引き継いで」

「えっ……」


 いつも瞳孔が開き気味のシーラが、びっくりしている。表情は変わっていないんだけれど、目を見開いて泳がせているのが分かる。


「お話はここで書いても良いし、一人で集中しなければいけないなら別の部屋に行ってもいいわ。必要な参考文献とか、資料が欲しければ何でも言ってね」

「は、はい。一先ず、お嬢さまからの特別な仕事を賜ったと報告し、仕事を引き継いできます」


 流石のシーラも落ち着きを失い、少し動揺しているようで裾さばきが乱れている。

 彼女には原稿を頑張ってもらおう。


 そうこうしているうちに、ヴィンス先生からメッセージが届いた。彼にもスマホを渡し、いつもお客さんに助言するような口語体で良いので本のネタになるものを送ってほしいと告げている。

 彼からのメッセージは、要約すると


『何を書いていいか分からない』


 というものだった。

 私はめっちゃ励ました。


『それでは、私に教えてくれた女性からの告白なんかはいかがでしょうか。告白するにしても、受け入れてもらえる確立を上げるというあれです。それを読んで、背を押される女性も多いでしょう』

『いやでも、それを本にしちまえば俺の客減らないか?』

『本には、先生の名をそのまま出してお店の宣伝にしても良いし、匿名作家として別の名義を出しても可能です。前者なら、更にお店はたくさんのお客さまが押し掛けることでしょう』

『じゃあ告白の確立を上げるやつ書くか。俺、あの時何て言ったっけ』


 私は(いいからはよ原稿しろよ!)と思いながら、アドバイスを受けたことを文字に起こし、そして彼を励まし続けた。


『先生なら、きっと出来ます!』


 そうやって背中を押しながらも、第一弾で売れなかったらもう二度と頼まねぇぞ、とも決心していた。手間がかかりすぎる。

 ヴィンス先生は、結局、スマホで原稿とか出来ないから紙にペンで書くと言って、お手紙のように原稿を送ってきた。

 読んだら面白いし、為になる。


 しかしこれをデータにしなければいけない。

 私は以前、ジョーに作ってもらったキーボードで、必死に原稿を打ち込んだ。

 その合間に、ヴィンス先生にお礼のメッセージを送ることも忘れない。


『ヴィンス先生、原稿拝受いたしました。とても面白く、為になる本になることでしょう。発売日等が決まりましたら、また連絡差し上げます』


 私って、編集者の才能があるかもしれない。


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