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ヒーローを追いかけまわすタイプの悪役令嬢に転生してしまったけどキャラ変したいです  作者: 園内かな
事業の成功

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2.


 スマホ発売日の翌日。

 主に魔道具についての記事が多いとある業界新聞に、ある記者のエッセイが掲載された。


***

『スマホ発売日に並んで買ってみた』


 記者は新しいもの好きである。

 この度、鳴り物入りで発売された新しい魔道具、スマホとやらをどうしても入手したく、発売日の朝七時に販売店に出向いた。

 発売数日前から、何度も店舗に行ってみたが、人が並ぶ度に散らされ、当日朝までは並ぶなとやかましかったのである。


 記者は素直に、朝七時に到着するよう向かった。

 すると、店舗前は人、人、人の大混雑。

 もう並んでいる者や、どう見てもどこかの従僕が主の為に並んでいる姿もあった。注意書きには、本人確認があるので絶対に契約者本人が書類を持った上に並べと書いてあったにも関わらずだ。


 記者はもっと早く来なかったことを悔やんだ。先頭の者は、昨夜散らされた後、こっそり戻って徹夜で並んでいたと聞いた。

 しかし、そんなことがあっても並べば買えるかもしれない。

 販売店の従業員が『購入希望者は、ここから並んでください~』と叫んでいる。そこに言われた通りに並んだ。ずるい者は、少しでも前に割り込んだりもしている。

 やがて、列が動き出した。


『前の人についていって、ゆっくり歩いてください!』


 この場では人が溢れかえるので、少しずつ人を移動させるようだ。

 しかし、私の番まではなかなか移動しない。一体どうなっているのか、と思った時だった。

 列がある程度移動した後の先頭に並んでいた青年が、突然手を挙げて叫んだのだ。


『ここから後ろに並んでいる人は、七時以降に来た方です! ここから販売を始めます!』


 皆は驚いた後、拍手喝さいをして喜んだ。

 そこからがまた驚きなのだが、先頭から順番に、簡易的に身分証確認を始めたのだ。

 私の前には、例の従僕の彼が居た。

 彼はおそらく、主の身分証明書を渡され、契約して来いと命じられたはずだ。

 だが身分証明には魔道具まで使用されていたのだ。書面が正しいものかどうかを判定する魔道具は、無情にも否と告げた。


 従僕の彼はかなりごねていたが結局、警備に当たっていた傭兵が列から連れ出した。

 勿論、私は正当なる身分証を提出した。すると、整理券というものを渡されたのだ。

 このまま並ぶことなく、時間になればまた店舗を訪れると良いというものだ。

 道端にずっと立たされるより、カフェで休んだり社に戻って仕事も出来る。

 記者はこの画期的なやり方に感動を覚え、一体どなたがこれを考えたのか、と販売員氏に質問した。

 突然設立された、謎めいたサンポウ商会の真実に迫れるかもしれないという取材は、驚くべき回答で裏切られた。


『この方法を考えたのは、エリザベスさまです。スマホを開発したのも、販売することを決めたのも、全てエリザベスさまです』


 王都をお騒がせする、様々な噂の的であるエリザベス嬢とこの魔道具がまるで結びつかない。一体どういうことなのか。記者は引き続き取材を進める所存である。


***




 スマホの販売は、大成功だった。毎日完売が続いている。

 富裕層と貴族階級しかまだ買えない状態だが、買った人にはとても好評だ。


 そしてスマホ活動量計も、地味に高評価だ。

 狙った通り、魔力量が不安定な子供に放出を促したり、枯渇しないよう魔術を行使させたり出来る。また、意外だったのが、魔術を仕事で行使している人にも受け入れられているようだった。

 明日がお休みだから、今日はギリギリまで魔力を使って仕事を終えよう、そんな人が計測しながら使うのだ。


 勿論、大人も魔力が枯渇することはあるが、それはもう己の不注意でしかないので恥ずかしいが仕方ないという雰囲気だった。それが、この活動量計で全てが解決してしまったのだ。

 それから、心臓が丈夫と思っていた人が突然警告が出て、病院に行ってみたら不調が発覚、なんて例もあったらしい。


 スマホが事業的に成功して、皆が喜んでいる。

 それに比例して、私の評価もちょっぴりは上がったようだ。褒めてくれる経済紙もあった。

 しかし、ゴシップ記事は相変わらずで、アランさまとの婚約は依然として暗礁に乗り上げている。

 それでも、アランさまは私に優しくて、時間がある時はマメに連絡をくれていた。


 そのアランさまから、王都に間もなく帰るとメッセージがあって、私はそわそわとして待った。

 そして、帰ってきたアランさまは、ついに私と会ってくれる時間を取ってくれた。

 新しいおうち候補で待ち合わせをして、彼を迎え入れることにした。

 私とマドレーヌと、そしてジェシカだ。

 ジェシカは礼儀作法を習ってみるみる習得していき、今日は私たちにお茶を淹れてくれるのだ。

 アランさまが到着する前、私はつい言ってしまった。


「でもあれだけ魔法を使えるのに、ただの侍女になったら勿体ないと思ってしまうわ」

「エリザベスさま、私は魔法も使える侍女になります」

「それは心強いけれど。二人なら魔術伯も夢じゃないのに」

「あら。エリザベスさま、私がしたいことを援助してくださるんじゃなかったのですか」


 まだ子供なのに、こんな風にやり込めてくる。


「機転もきくし、頭がよくて、咄嗟の一言が言えるのはエライわ~」


 私が褒めると、何故かふくれっ面になってしまった。


「もう。エリザベスさま、馬鹿にしないでください」

「してないわよ、本当に褒めてるのに」


 そんな風に軽口を叩いているうちに、アランさまがやって来た。

 私は急いで玄関ホールまで彼を迎えに行った。


「アランさま、おかえりなさい」


 彼は一瞬目を見開いて私を見た後、優しい笑みを浮かべて甘い声をかけてくれた。


「ただいま、エリザベス」


 あー! 生アランさまを見るの久しぶり! いつも通り麗しい。そして私にただいまと言ってくれる。うぅ、幸せだ。

 私がポーっと彼を見上げていると、そっと抱き寄せてハグしてくれた。嬉しい。


「アランさま、この屋敷、どうですか」

「ああ、ここに住もう」


 えっ。即決?!

 流石に驚いて顔を上げる。


「まだ中を全然見ていないのに」

「部屋は揃っているんだろう? だったら問題ない。今日から住みたい」

「えぇっ、今日からは流石に。これから内装工事をして、温室も作ります」

「工事は昼間するんだろう? 夜に帰ってきて寝るなら十分だ」

「えぇ~。とりあえず、中を案内するので見て回りましょう」


 彼にエスコートされ、一代男爵が建てたお屋敷を案内していく。

 どの部屋にも彼は頷き、何の文句も無いようだった。

 では応接室に行ってお茶をしましょうと誘い、ジェシカがティーワゴンを押してくる。

 この様子を彼に見せて、アランさまのお屋敷の侍女に推薦してもらおうという腹積もりだ。

 ジェシカのお屋敷勤めについては、何回も話し合った。


 結局、ロナルドにも相談して、ジェシカだけでなく下働きの男性にもサンポウ商会の関係者を潜り込ませたり、出入りの商人を同じくサンポウ商会の者にしたりと、援護をするという方針でいくことにした。

 その打合せも、アランさまが反対すれば全て無となるが。

 私はアランさまにお願いした。


「アランさま、ジェシカのお茶の作法、見ていてくださいね」

「あぁ」


 ジェシカが少し習っただけとは思えないような美しい所作で、お茶を淹れて出してくれる。

 私はそれをじっと見守ってから満足して頷き、お茶を飲んだ。

 味もばっちりだ。


「美味しい。素晴らしいわ。ねえアランさま、淹れ方も味も良いでしょう」

「見ていなかった」


 えっ。

 あっさり返され、びっくりして正面の彼を見つめる。

 アランさまの瞳は、じっとこちらに向けられていた。怯みそうになるが、言いたいことがあるので視線を受け止める。


「ちょっと、アランさま。あの! いえ、お願いがあります」


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