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ヒーローを追いかけまわすタイプの悪役令嬢に転生してしまったけどキャラ変したいです  作者: 園内かな
被験者たち

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3.


 修練堂の土地内には、簡易的な事務所も作ってある。修練堂はただの魔力放出の場なので、そのデータを検討するとか、打合せをするとか、皆が休憩や待機する場所だ。

 その中の打合せスペースに、ライナスと彼の騎士を呼び入れたのだ。

 今日ここに来ていた工房の職人たちもびっくりしていた。

 私は打合せする前に、職人の一人に小声で指示を出した。工房でも何度か見た、フットワークの軽い若い見習い職人だ。


「クリスとジェシカは事務所に来ないよう、言っておいて。直接修練堂に入って、出てこないようにって」

「分かりました。まだ来ていないので、外で待っています」


 彼は理由とか聞かずに、すぐ言うこと聞いてくれる。そしていつものように、軽やかに動いて外に行ってくれるからとても助かる。

 それから打合せスペースに行き、ライナスに単刀直入に切り出した。


「まず、誤解があるようなので伝えておくわ。今、開発しているのは医療用の魔道具ではないわ。ただの、計測器よ」

「それですと、今までの開発とはまるで違いますね。お嬢さまは耳の不自由な者に音を与えられた。心臓の悪い者にはそれを治癒させる何かを与えるよう動かれると思いましたが」

「それは買いかぶりというものよ。私には、心臓の良し悪しも分からないもの。ただ、心臓が悪くなりそうな人への警告を出せないかと思ったの」

「それが何の役に立つというのでしょう」

「ただの注意喚起よ。所詮は警告しか出せない計測器だもの」


 ライナスは、ふむと頷いてから言った。


「それでも心臓の悪い者には必要な装置かもしれません。私どもにお任せ頂けませんか」

「この計測器は、これ単品では何も出来ないのよ。他の魔道具と組み合わせる必要があるの」

「スマホ、ですか」

「そう。よくお分かりね。これはスマホを購入した人が希望した場合だけ、追加費用で付随する商品なの。だから、これだけ別の商会に任せることは出来ないわ」


 ふー、ちゃんと説明出来た。

 これで彼も納得してくれるだろう。


「なるほど、それは理解いたしました」

「良かったわ」

「それでは、銀行を使った新しい決済を私どもにお任せ頂けませんでしょうか」

「……!」


 それ知ってるんだ!

 セルジュ先生に、銀行系に強い商会で、かつ薄利多売で大丈夫なとこにお任せしたいと言っていて、候補を挙げてもらっていたけれど。

 やっぱり、そういう動きにすぐ気付いて自分のとこでやりたいって手を挙げるんだなあ。

 ライナスは魅惑の笑みを浮かべて売り込んでくる。


「私どもにも各地に銀行を運営しております。信頼度が高く、口座数も多い。そして資金も潤沢ですので、薄利多売の手数料商売でも十分に賄える体力があります」

「別の商会に、もう決まっているわ」

「おや。まだ条件面での話し合いが詰められず、契約は締結前だと聞いております」


 よく知ってるなー! そこまでは私も知らない。

 しかし、私の本命の商会はもうあるのだ。


「この事業を頼みたい商会には、一番の条件があるの。勿論、支店数や口座数、資金力なんかもあるけれど」

「どのような条件でも、当商会でご満足頂けるよう用意いたします」

「愛国心よ」

「…………」


 一気に彼の笑みが引っ込み、真顔になった。

 前もこういう展開になって、お母さまに怒られたんだっけ。

 今度は追い詰めてるとか戦争仕掛けたとか言われないようにしたい。私は慎重に話を進めた。


「スマホも、新しい銀行決済も、先ずは国内で行いたいの。特にお金の流れは複雑でしょう」


 国内で使ったはずのお金が、気付かないうちに外国に流れてしまえば大変。

 はっきりと口にしないが、その恐れを匂わす。

 彼は真剣に、そして珍しく懇願するような声色になった。


「それは、私どもの商会が異国の品を多数揃え、私が異国の護衛を連れ歩いているからでしょうか。しかし、どの商会も他国との商品のやり取りはしております」

「勿論、リーシャ商会が他国にお金を流すとか、そんなことは思っていないわよ。他の商会だって、外国とのやり取りくらい当然しているし。でも、商会の中でも篤志家と名高い方に、私がお仕事をお願いしたいの」

「確かに、商売の神様と名高いハーバート翁のウォード商会とは一度は取引してみたいものです」


 おぉ、分かってくれたか。

 私が狙っている商会の長、ハーバート氏は生ける伝説となっている。貧しい農村で生まれ、身一つで行商から始め、超巨大商会であるウォード商会を作り上げ、今や王室御用達ともなっている。

 彼はここまで大きく商売が出来るようになったのは感謝の心を忘れなかったからだ、と慈善活動も熱心だ。


 そして愛国心が強い。この王国の為に、と毎年巨額の寄付金を捧げている。

 このウォード商会なら、電子マネーを扱っても他国に流用しないのではないかと感じている。


 さっき、リーシャ商会が他国にお金を流すなんて思っていない、と言ったがそれは嘘だ。

 補聴器について、欲しい人が手に入れられるようにしてほしいとだけ希望して、販売の全てを任せているが、どうも随分な数が王国外に出て行っているようだ。

 きっと、外国で売られている。その金額は、計上では国内と同一だが実売価格はどうなっているかまでは、私には分からない。


 そういう不透明さを、信用出来ないと感じてしまう。

 恐らく、彼らはこの王国の発展や安寧の為には活動していないだろう。己の利益を求めることだけが目的だとか、ただ商会を大きくする為に稼ごうとしているとか、そういう分かりやすい銭ゲバならまだ良いのだけれど。

 なんとだくだが、ライナスにはそういう雰囲気も感じられない。


「……元々、ハーバート氏のやり方は薄利多売。リーシャ商会には、希少性が高い貴人への商品を扱ってもらう時にお願いしたいわ」

「それが実現出来るならば、大変ありがたいのですが。私どもはお嬢さまに重用して頂く為ならば、如何なるものを用意する所存です」


 なんだかプレッシャーをかけられたように思える。

 でも私は流した。


「リーシャ商会は公爵家御用達にもなったし、これからもどんどん大きく発展していくでしょう。私に拘る必要はないわよ」

「何をおっしゃいます。お嬢さまの先進性と独自の発想力は、世界においても二つとない稀有な才能です。エリザベスさまのような方はいらっしゃいません」

「褒めて頂いて光栄よ」

「ですので、我が商会との取引を更なる密に、今後ともよろしくお願いいたします」


 以前は、それはどうなるかは分からないと正直に答えた。

 今回も、角は立つがそう言っても良い。もしくは社交辞令で、ではよろしくとも答えられる。

 でも、どれも誠実ではないと感じた。


 私がお仕事を依頼している皆、法律家のセルジュ先生やメルヴィス工房の職人たち、それにサンポウ商会のロナルドは仕事が頼みやすいし、私の為に喜んで働いてくれる。

 皆、最初は仕方なく付き合ってくれていたようだから、最初から信頼関係があった訳ではない。

 では、今はどうしてこんなに良い関係になったのだろうか。

 少し考えてから、私はライナスに伝えることを決めた。


「……貴方とは、機が合わないみたい」

「キ、ですか」

「機会、適時とか時機という意味ね。機が合う人たちは、私が欲しいものを欲しい時に用意してくれるの。偶然紹介されたり、不思議な縁があったりするし、お願いしたいことを丁度良く頼める。向こうも都合が良くて、引き受けてくれた結果何の障害もなく成功するの」


 思えば、出会いから良いと思える流れではなかった。

 あの時、私はステイシーのことを遠ざけたかったのに、彼らはまだ私がステイシーを一番のお気に入りと思って接触したのだ。情報が遅いと思ったと記憶している。


 その後も、特に欲しくもなかったけどまあいいか、という商品を買ったり、特に行きたくもない会に誘われたり。まあ、その時に買った銀のチェーンと髪留めは、親方とジョーがそれぞれ使ってくれているけれど。他の商会で頼んで買っても別に良い、というレベルのものである。

 ライナスは謝罪をしてくれた。本当に申し訳なく思ってはいないだろうけど。


「強引な手段でお嬢さまをお誘いしてしまったのは、申し訳ございません。私どもはただ、お嬢さまに喜んで頂きたく思っております」

「そうね。またの機会にお願いするわ。私が望む時に、折よく誘ってもらえると嬉しいわ」

「御意のままに……」


 ライナスは恭しく胸に手を当て礼をしてくれた。その瞳は面白そうに煌めいている。

 私のことを少し、分かってくれたのかもしれない。以前よりは打ち解けたような雰囲気が感じられた。


「…………」


 それを厳しく見つめるのは黒衣の護衛だ。

 少々、取引先の令嬢を見るにしては厳しすぎる視線。苛立ちと怒りが混じっているように見える。

 多分、主人に失礼な口をきく女だと警戒しているのだろう。

 彼はきっと忠義ものだ。


 でも、世間では私の方が身分が高く敬われる立場なのだから、気を付けてほしいものだ。

 それでは今日は失礼しました、とライナスは可笑しそうに帰っていった。護衛はイラついていた様子だったけれど。


 彼らが去って、すこしやり過ごしてから修練堂へと向かった。

 天気は今にも降りだしそうな空模様のままだ。

 そこで待機していたクリスとジェシカは、少し不安そうにしていた。私の姿を見かけるなり、二人が駆け寄ってくる。


「エリザベスさま! 大丈夫でしたか」

「エリザベスさま、何か困ったことが起こったのでしょうか」


 口々に心配してくれたので、安心させる為にある程度の情報は開示しておく。


「別の商会が、この開発を嗅ぎつけてきたの。完成するまで、秘密にしておきたいからクリスとジェシカも心臓が弱いことにしておいてくれないかしら」

「心臓。あの、リンゼイさんみたいにですか」

「はい、分かりました。母にも言い含めておきます」


 クリスが質問をし、ジェシカはすぐ請け負ってくれた。


「ええ、そうよ。ジェシカ、ありがとう。よろしくね」

「はい!」

「先方は、心臓を治療する魔道具なのではないかと誤解していたから、ただの測定器だと説明したの。けれど、魔力量の測定をしていることは伏せてあるわ。クリスとジェシカも、一応周囲に気を付けるようにしてちょうだい」


 すると、二人に伝言をする為に事務所から出て行ってくれたフッ軽職人の若者が提案してくれた。


「それでは、帰宅時は私が二人とも送っていくようにしましょう。ここに来る時は一旦工房に集まって、三人で向かいます。どうでしょう」

「いいわね。一人で移動するより安心だわ。どんな手を使ってくるか分からないもの」


 役者みたいな色男を使って、ステイシーを絡め取ろうとしていたこともあった。

 他の商会だって、泥棒みたいなスパイ活動をすることもあった。

 私が頷くと、クリスとジェシカも良い返事をして頷いてくれた。


「はい!」

「分かりました、これからよろしくお願いします」

「二人とも、一応一人にはならないように気を付けてね。魔術が使えるとはいっても、貴方たちは子供なんだから、悪い大人には十分注意してほしいの」

「はい!」

「ありがとうございます、エリザベスさま」


 ジェシカが不安そうに擦り寄ってきて、そっとくっつくので慰めてあげる。よしよしと頭を撫でても嫌がらなくて可愛い。


「大丈夫よ、注意しておくにこしたことはないっていうだけで、別に危害を加えられるわけじゃないからね」

「エリザベスさま、僕も」


 両手に美少女と美少年だわ。

 懐いてて可愛いなあ。

 よしよし、と撫でているとオホン! といつもの咳払いが聞こえてきた。

 マドレーヌだ。

 はいはい、と顔を上げると修練堂の入り口にアランさまが顔を強張らせて立っていた。


「あれっ! アランさま! 気付かずお迎えもせず、失礼いたしました」


 私は二人から手を離し、彼の元に急いで向かう。

 彼はいつもより表情が怖いような気がする。何かあったのだろうか。


「……少し、話をしようか」

「え、はい」


 ゴロゴロ、と遠くで雷が鳴ったのが微かに聞こえた。



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