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ヒーローを追いかけまわすタイプの悪役令嬢に転生してしまったけどキャラ変したいです  作者: 園内かな
逆風と幸福と

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23/97

1.


 告白はヴィンスのアドバイスを全て盛り込んだものだった。

 期限を決めるというのだけは、即答でお断りされたから関係なかったけれど。

 でも告白して、受け入れてもらえたのは全てヴィンスのお陰。

 私は部屋に戻り、手紙をしたためた。


『ヴィンス呪術店 店長さま

 先日は助言、ありがとうございました。

 ご指導いただいた通りに告白しましたところ、無事に了承を得ることが出来ました。求婚もして頂き、結婚する運びとなりました。

 これも全て、先生のお陰です。

 先生に教わらなければ、このような結果にはなり得ませんでした。


 ここで一つ提案なのですが、先生の助言を書物にまとめて出版しませんか?

 王国中、いや世界中の叶わぬ想いに悩む女性が、先生の本を求めることでしょう。

 是非、先生の叡智とも言える恋愛技巧を、皆にお伝えくださいませ。

 本の形式に原稿が書けなくても、口述筆記でこちらでまとめることも可能です。

 原稿料の他に、実売印税もご用意いたします。

 ぜひご検討くださいませ。

 貴方の生徒より』



 翌日、私はスマホでマドレーヌにメッセージを送った。


『お使いをお願いしたいから、部屋に来て』

『了解いたしました』


 マドレーヌがやって来たので、手紙と謝礼のお金を渡す。


「これ、ヴィンス呪術店に持って行ってほしいの。これは成功報酬の寸志ですって渡してね」


 するとマドレーヌは受け取った後、言い難そうにおずおずと申し出た。


「その。こちらの一通だけ、でしょうか?」

「え、そうだけど。お礼って二通以上送るとか、そういう礼儀でもあった?」

「いえ、お礼は一通で大丈夫ですが。その。いえ、行って参ります」


 何だったんだろう。いつものように姿勢よくカツカツと歩いて行くマドレーヌの後姿を見送る。

 後で、聞いてみようかな。

 そう思っていたら、帰ってきたマドレーヌは家令のトマスと、侍女頭のシーラと一緒に三人で私の部屋にやって来た。

 トマスは銀のお盆を持っていて、その上には手紙が何通か載っている。


「マドレーヌ、おかえりなさい。えっと、三人でどうしたの。もうお返事を頂いたとか?」


 それにしては五通くらいあるようだけれど。

 マドレーヌが重い口を開いた。


「いえ、これは返信ではありません。その、差し出がましいかとは思ったのですが……」


 何だろう。

 爺やに視線を移すと、深々と頭を下げて私にトレイを差し出した。


「これは、アランさまからの手紙です」

「えっ! アランさま、私にお手紙をくださったの!」


 嬉しい。喜んで手に取ろうとすると、全部私宛で、それは当然なんだけど、何通もあるのでどうしてだろうと小首を傾げる。

 こんなにたくさん手紙をくれたのは、何故なんだろう。


「申し訳ございません。私の手元に届く前に、隠されていた手紙です」

「え……」

「旦那さまの命令で、先に回収されていたのです」

「えーっ!」


 そんな、古典的な意地悪をされるとは。

 ということは、何日も前からお手紙は届いていて、返信がないことに心配になって更にお手紙を書いてくださったに違いない。

 じゃあ急いで返事をしないと!


「私、すぐにお手紙を書くから、マドレーヌ、もう一回お使いに行ってくれる?」

「ハ」


 シーラはいつも以上に怖い顔で、強張った表情のまま口を開いた。


「お嬢さま。あのような男にお嬢さまが心を砕かれる必要はありません」


 シーラは、はっきりと怒っていた。いつものことだけれど、瞳孔が開いて全身から怒りのオーラが出ていてちょっと怖い。

 多分、あのお茶会の会話を聞いていたからだ。

 シーラは、私が酷いことを言われたと思って怒ってくれているのだ。


「シーラ、私の為に色々考えてくれてありがとう。でも、アランさまはきちんと謝罪してくださったし、あの時にどうしてそう言ったかは、もう分かっているから大丈夫よ」

「あんな男、身勝手で攻撃的で、幼児性があるろくでなしです。お嬢さまにはもっと相応しい、お嬢さまを大切にしてくださる殿方と結ばれるべきです」


 幼児性がある、には驚いた。

 シーラはアランさまの中身を的確に見抜いていたのだ。


「でも、私は、そんなアランさまがいいの……」

「お嬢さま。私はあの時、本当に悔しゅうございました。あいつを送る時、二度と顔が見たくないから失せろと言うところでした!」


 シーラが結構な過激派になっている。

 すると、マドレーヌまで同調し始めた。


「分かります! 私だって、何度あの顔を斬りつけてやろうかと思ったことか。本当に腹が立ちました!」

「そうよね! だから私は、手紙を隠したことを悪いこととは思っていません」


 シーラが手紙を届けなかった実行犯らしい。

 でも、シーラが単独でしでかしたのではなく、お父さまが指示したから実行しただけだ。

 シーラの、人の本質をしっかり見ているその才覚は素晴らしいと思う。さすが公爵家の侍女頭。

 だから、手紙を隠されたものの、シーラを手放すべきではないと感じた。


 マドレーヌがでも、と眉を下げた。


「腹立たしいけど、でも、エリザベスさまがあいつを望んでいるのです。仕方なく、認めるしかありません」

「そんなの……、悔しいわ……」


 二人は何目線なの?

 私のことを思ってくれているようだけれど。

 アランさまのこと、あいつ呼ばわりしてるし。

 爺やが再び、私に頭を下げる。


「シーラの罪は、私の監督不行き届きです。どうぞ寛大な処置をお願いいたします」

「どうせお父さまが言ったからでしょ。大丈夫よ。でも、私が手紙を出すのは邪魔しないでね」


 それを聞いて、爺やはホッとしたようだった。

 シーラはまだ悔しそうというか、怒っていたけれど。でも、これ以上やったらメッ! と伝えたら、反省した様子を見せて深々頭を下げてくれた。


「申し訳ございませんでした。いかなる罰もお受けいたします」

「今後はちゃんと取り次いでくれたらいいわ。あと、お父さまがまた邪魔しそうだったら私にこっそり教えてちょうだい」

「かしこまりました」


 皆に出て行ってもらってから、急いで手紙を書く。


『アランさま

 お手紙、お返事を差し上げるのが遅くなって申し訳ありません。

 実は、まだ一通も読んでおりません。お父さまが意地悪をして、私の手元に届かないようにしていたのです。

 それについて対策を講じたいので、明日、アランさまの研究部屋にお邪魔してもよろしいでしょうか。お返事は使いのマドレーヌにお伝えくださいませ。

 よろしくお願いいたします。

 エリザベス』


 最後、貴方のエリザベス、とか書こうか迷った!

 でも恥ずかしくてちょっとひよってしまった。

 まあ、もう少し仲良くなったら書くかも。


 というか、こんな届くかどうか分からない手紙には任せられない。

 やはりスマホ。スマホで直接メッセージを送るのが一番だ。

 マドレーヌに再びお使いに行ってもらって、護衛の騎士なのにこんな使い方をして申し訳ないなってちょっと思った。小間使いとか別の人にお使いは頼んで、マドレーヌには護衛に徹してもらうのが一番なんだろう。


 でも、お金や大事な手紙を安心して預けられるのは、今の私にはマドレーヌしか居ない。

 後で、マドレーヌにも心付けをあげたら良いかな。

 そう思っていると、彼女はすぐ帰ってきてメッセージを伝えてくれた。


「エリザベスさま。明日の午後、研究部屋で待っているそうです」

「ありがとう! マドレーヌ、こんなことに使ってしまってごめんね。他に信用出来る人が居なくて」

「いえ、そう言って頂いて光栄です。ただ、エリザベスさまが出掛ける時は私が護衛します」

「ええ、よろしくね。マドレーヌ、何か欲しいものはあるかしら? 貴女にも寸志を渡したいんだけれど。ものでも、金貨でも、何でもいいわよ」


 そう言ったけれど、彼女は首を横に振った。


「もう充分頂いております。欲しいものも特にはありません」

「お休みとかでもいいわよ。その日は私も出掛けないようにするし」

「えっと、いえ。では、その時が来たらお願いいたします」

「きっとよ。言ってね。明日は、出掛けるから護衛をお願いね」

「ハ!」


 そう言ったマドレーヌは、何だか嬉し気だった。

 この世界の人は、働くことに喜びを持っているのか、あまり休みたがらない。

 屋敷の中にいる使用人たちも、交代では休んでいるのかもしれないけど毎日働いているし、工房の職人たちも休みを薦めてもほとんど休んでいない。


 七日に二日は休んでほしいと言ったら、休みすぎだと文句が出たほどだ。

 そんなの、休み多くて給金高いのがいいに決まってるのに。

 働き方改革とか、いつかしてみたいと思う。

 マドレーヌも上手く休みを取ってほしい。だから普段はこき使うのを許してほしい。

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