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ヒーローを追いかけまわすタイプの悪役令嬢に転生してしまったけどキャラ変したいです  作者: 園内かな
大失恋からの大逆転

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3.


 ボーっとして意識を飛ばしていると、がくがく揺さぶられて怒鳴られた。


「おい! 振った後にすぐ手のひらを返すような男と結婚していいわけないだろうが! しっかりしろ!」

「え、ランベール……?」

「大体、あいつには一緒に住んでいる女が居るだろう! そっちを大切にされて、傷つくのは分かっているだろうが! そんな相手となんて絶対止めろ!」

「まあ、今なら間に合うよね」


 ヴィクトルお兄さまもそう言っている。

 この結婚に、反対されているんだと気付いて私は口を開いた。


「ランベールには関係ないでしょ」

「ある! みすみす不幸な結婚をするお前を見逃せるわけがない」

「貴方さっき、私を王太子妃にしてやるとか言って襲おうとしたでしょ! もう出禁だから! 出入り禁止よ!」


 その言葉に、お父さまとヴィクトルお兄さまもぎろりと彼を睨みつける。


「それが本当なら、もう二度とこの屋敷に来てもらう訳にはいかないな」

「父上、本当ですよ。僕が助けました」


 そうだそうだー! 出禁決定だ!

 私は勢いづいて更に続けた。


「それからステイシーも一緒に連れて帰ってね!」


 するとステイシーが心底驚いたように言う。


「えっ! エリさま、どうしてですか?!」

「どうしてって、貴女私を裏切ったでしょ! そんな侍女はもう要らないのよ!」

「裏切ってなんていません! ただ、アランさまよりランベールさまの方が良いと思っただけです!」


 何を言っているのか、この侍女は。


「私が助けを求めた時に来なかったのは裏切り行為なの! 主人の言うことを聞かない侍女はクビよ!」

「そんな! 想いが成就したらもう私はお払い箱って言うんですか!」

「噛み合わないわねぇ。私と意思疎通出来てないのもクビの一因よ。これ以上、貴女の面倒は見られないわ」


 お父さまとヴィクトルお兄さまも頷いたので、ランベールもここは引くしかないと思ったらしい。捨て台詞を吐いて出て行った。


「フン、アランみたいなややこしい男と我儘なエリザベスが上手くいくはずがない。どうせすぐ破局するだろう」


 ムカッ!

 まあ、言ってることは分かるけど!

 だったら私は、破局しないようアランさまと仲良く過ごす為に努力するまでよ。



 アランさまと仲良くしたい、そう威勢よく決心したものの、私は大分ぼんやりとして過ごしていた。

 細々とやるべきことはある。

 工房から連絡が来ているし、そろそろスマホの販売計画も大詰めだ。

 でも、書類を見ようがスマホで仕事の連絡をしようが、すぐ思考はアランさまのことに向かってしまう。


 私、アランさまに求婚された。

 手の甲に口付けをされて……、キャー!

 本当に、あれは夢じゃなかったよね。


 と、そういうことを延々考えてしまって、手は止まり目は開いているけど何も見えておらず、ボーっとただただ無為な時間を過ごしていた。

 でも、仕方がない。

 だって、好きな人に結婚を申し込まれたんだもの。こんなに幸せな時はもう二度とないかもしれないんだから、もう少し浸らせておいてほしい。


 そんな風に考えながら、機械的に夕食を摂る。

 多分、美味しい。でも味もよく分からない。ボーっとして、たまにニヤーっと顔が勝手に動く腑抜けの私に、家族の皆は困ったように目配せしあっていた。


 今日の夕食は、いつものように父母とヴィクトルお兄さまだ。

 ユリアンお兄様とは、あの決別の日以来連絡をしていない。屋敷に帰ってもいないみたいだけれど、今は別にどうでも良い。

 だって私、幸せだから。

 そろそろ食事を終えようとする頃、お父さまがわざとらしく咳ばらいを始めた。


「オッホン、オホッ、オーッホン!」

「…………」

「お父さまは、やっぱりこの結婚、反対だなぁ!」


 ん?

 この結婚って、私とアランさまの?

 ぱちりと瞬きをして、久しぶりに現実に戻った。


「どうしたの、お父さま」

「可愛いエリザベス。あの男は良くない。エリザベスを傷つけた」

「その話はもう解決したわ」

「そもそも、身分があってないような物だ。魔術伯なんて、魔術しか出来ないしエリザベスの夫には相応しくない」


 何を今更、としか言いようがない。

 大体、エリザベスが最初にアランさまに熱を上げた時、父母だって応援してくれていた。婚約の打診だってしていたではないか。


「そんなの、最初から分かっていたでしょ。だったらどうして、公爵家からアランさまに婚約の要請を出していたの」

「それは、どうせ引き受けないと分かっていたから」


 その言葉に、私は鬼の形相になった。


「はぁ? じゃあ、お父さまは私が振られるって分かっていて止めもせず、陰で笑っていたっていうの?」

「陰で笑ってはいない! エリザベスの好きにさせてあげたいし、応援はしていたよ」

「でもどうせ、最終的には振られると思ってたんでしょ! しかも、家じゅうみんなで! 私のこと、笑い者にしてたんだ!」

「違う、本当に違うから。でもエリザベス、このままあいつと結婚したって苦労しかしないだろう。もう少し、ゆっくり考えてからにするといい」


 ヴィクトルお兄さまも口を挟む。


「そうそう。彼には一緒に住んでいる別の女も居るんだから。先ずは婚約期間を長く取って、お互いのことを知り合うといい」

「へー。ヴィクトルお兄さまのように、ずるずる婚約期間を長くとって結婚せず居ろって言うの」

「エリザベス。そんなに焦らなくても、まだ結婚には早いだろう」


 この世界での貴族の女子は大体、十六歳から二十歳くらいで結婚する。二十歳でまだ結婚が決まっていなかったら、ちょっと遅いって感じだ。

 私は十八歳。適齢期ど真ん中なんだから、全然全く早くない。


「前から思っていたんだけれど。ヴィクトルお兄さまこそ、早く結婚した方が良いわ」

「エリザベス、そんな。以前は、結婚せずずっと一緒に居てって言ってたのに」

「子供の戯言をずっと信じて、いつまでも未婚のまま妹を可愛がるなんておかしいでしょ」

「エリー! そんな、悲しいことを言わないでくれ」


 私はそれを無視して宣言した。


「私は結婚するわ。嫁き遅れになってずっとこの家にいるのも嫌だし」

「まだ早いよ、可愛いエリザベス。そう結論を急がなくて良い」

「好きな人にプロポーズされたんだもの。私は幸せな結婚をするわ」

「だから、その相手が相応しくないというのに」

「勝手に出て行ってでも結婚するわ」

「エリー!」

「エリザベス……」


 兄と父が悲しんでいるのを、母が引き継いで口を開く。


「エリちゃん。二人はエリちゃんが大好きで、少しでも一緒に居たいのよ」

「いつまでも子供では居られないんだから、親離れ、子離れしましょ。大体、どうしてそこまで私を可愛がるのか、分からないわ」


 すると私と同じ色彩を持つ母はうーん、と小首を傾げてから言った。


「みんな、この見た目を可愛いく感じるから、かしら」

「はぁ……」


 お母さまは昔から評判の美人で、その容貌は未だ衰えていない。

 ボンキュッボンの出るとこは出てるけどスリムな、皆が憧れるスタイル抜群の美女だ。

 それに比べたら、私はそこまで美人ではない。髪と目の色は同じだし、よく似ているけど、主に胸が。思わず下を見下ろすと、母とは違う控えめなバストよ。


 でもそんな、気にしてないし。

 細身ですっきりした体形でも、そこまで貧相ではないし。

 それに、アランさまは女性の体形に拘らない人だと思う。性的な目で見られるのが苦手って言ってたから、女性らしさをアピールしてベタベタされるのは嫌な筈。


 だから私は大丈夫。

 そんなことを考えていたら、母は昔語りを始めた。


「私がデビュタントの時、国王陛下に誘いをかけられたもの」

「えっ!」

「でも、王妃になるのは嫌だったし、療養ってことにして王都から離れてのらくら断っていたら、今度はこの人まで追いかけてきて」

「えーっ……」


 両親にそんな馴れ初めがあったとは。

 しかも、兄弟で取り合いって。

 母は続ける。


「王族に嫁ぐのなんて面倒だから嫌だって言ったら、臣下になってもう王族じゃないからって求婚されたのよ。そこまでされたら、分かりましたってお受けするしかなくて」

「お父さま、そんなにお母さまが好きだったの」

「エリちゃん。だからね、お父さまとヴィクトル、ユリアンも、貴女のことが大好きなのよ」

「そんなこと言われても……」

「それに、国王陛下とランベール殿下もね」

「えーっ……」


 確かに、国王陛下も私のことを気に入ってるようで気安く声を掛けてくださる。

 ランベールも、意地悪ばかりだけど私の見た目は気に入ってるんだろうか。

 でもやっぱり、そうはおっしゃられましても、だ。

 母はにこりと魅惑の笑みを浮かべ、優しく私を諭した。


「皆に優しくしてあげてね」

「はーい。でも、結婚はします」

「エリザベス……」

「でも、見た目が好きだから何でも許せるっていうのは分かるわ。だって私も、アランさまになら何されても全然大丈夫だもの」


 結局は、家族みんな似ているのである。

 けれど、その家族に結婚を反対されるなんて、夢にも思わなかった。

 上手くいかないだろうから応援するなんて、馬鹿にするにも程がある。

 何があっても絶対結婚するんだから、と改めて決心しているとヴィクトルお兄さまが呟いた。


「それにしたって、あの男、一体どうして急に考えを変えたんだ」


 それは、私の告白がものすごく上手くいったから。

 そう思い当たって、ハッとした。

 ヴィンス呪術店にお礼の手紙を書かなきゃ!


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