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ヒーローを追いかけまわすタイプの悪役令嬢に転生してしまったけどキャラ変したいです  作者: 園内かな
告白

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2.


 さて、そうなると告白の場所を考えたい。

 屋敷に呼び出して、応接室で言うのはちょっと。使用人たちの目もあるし、アランさまに更なるプレッシャーをかけて話をするのも嫌がられそうだ。


 そこで思い出したのが、リーシャ商会に招待された水辺の離れだ。あんな風に良い景色に囲まれ、非日常体験をすると話も弾むような気がする。

 そして目を付けたのが温室だった。前世でいうビニールハウスではなく、透明のパビリオンに花が咲き誇っている。


「ねえ爺や。庭園の温室で、簡易的にお茶会を出来ないかしら。あのリーシャ商会のガゼボみたいな」

「勿論、可能でございます。どのような意匠が良いか、職人に考案させてみましょう」


 流石爺や。リーシャ商会には一緒に出向いたこともあって、すぐに汲み取ってくれた。

 細かな設計は分からないけれど、そんなに大掛かりでもなくていいから気分よく庭園とお花を見てお茶を出来るようにして、と頼んでおいた。あまり時間をかけず、簡易的なもので早くという注文で。


 すると、思った以上に素晴らしいものが出来上がってきた。

 温室の中の一角に、ガーデンパーティが出来るようなこじんまりとしたテーブルセットがセッティングされたのだ。その周囲に花が囲んで、どこに座っても美しい景色が見えるようになっている。外の気温に関わらずいつも暖かく、咲き誇る花も色とりどりで良い感じだ。開放的だし、でも人の気配は遠い。内密の話をするのにはぴったりだ。


 私はあの詫び状以来、アランさまにお手紙を書いた。

 先日はお見舞いをお断りしてしまいましたが、一度だけ会いに来て頂けませんでしょうか。

 以前の怪我を理由に、呼び出したのだ。卑怯なやり方だけれど、こうでも言わないとうちには来てくれないだろう。

 アランさまからは、この日しか行けないがいかがだろうかという返事がすぐに来た。


 私の告白の日が決まったのだ。

 プレゼンの練習をして、言うことを脳内でも繰り返す。

 そしてついに、アランさまがやって来る当日になった。

 私は少しでも清楚に、そして美しく見えるようお化粧をした。

 サンポウ商会のロナルドにスマホで助言を貰い済である。


 そして、先に温室に入って彼を待ち構えた。

 本来なら、私が後に入ってお茶会が始まるのだが、そういう礼儀より彼を全力でもてなしたいから。

 温室の中にはマドレーヌもいるが、少し離れたところに立ってもらっている。

 彼女は、私が今日やることを全て分かっているので、慰めるように『大丈夫ですよ』と励ましてくれた。マドレーヌが見守ってくれているし、私も頑張る。


 侍女頭であるシーラがアランさまを連れて温室に入ってきた。

 私は立ち上がって、アランさまを歓迎した。


「ようこそいらっしゃいませ。お呼び立てしてしまって、ごめんなさい。でも、来てくださって嬉しいです」


 私の歓迎ぶりに、アランさまは目を丸くしている様子だった。

 しかし、貴人の礼をしてくれる。


「いや、お招きありがとう。それにしてもエリザベス嬢。随分と雰囲気が変わったな」


 いつもの、私にもへりくだらない口ぶり。落ち着いた声色。

 そして麗しいお顔にさらつやの一つにくくった濃紺の長髪。

 あーー、かっこいいよぉ。眩しいっ。

 私はドキドキしながら、彼に椅子を勧めてから会話を続ける。


「ええ、私も少しは大人にならなければいけませんから。今までは子供のような振る舞い、大変失礼いたしました」


 やっぱりアランさまは、驚いてびっくりした様子だ。でもそういうのもかっこいいし、素敵。


「ああ、いや。私も、気にはなっていたのだ。あの日、階段から落ちた後、結局見舞いにも行かなかった。何かあれば連絡があるだろうと放置してしまったが、あの魔道具説明の時に大丈夫そうだとは思っていた」


 いい人すぎる。

 そんなこと言ってたら、悪い女に付け込まれてしまうよアランさま。

 私はにっこりしてパンと手を叩いた。


「それでは、お互い謝罪はここまで。どうぞ、お茶と軽食を楽しんでください」


 合図を聞いてシーラがすぐに給仕を始めてくれる。

 私はアランさまに冗談まじりの会話を仕掛けた。


「彼女はシーラ。うちで一番、お茶を淹れるのが上手いんですよ」

「まあ、お嬢さま。そんなことを言ったら、家令のトマスさんが拗ねてしまいます」


 シーラの顔は今日も迫力満点で、楽しく話していても顔が怖く見える。


「うふふ。爺やが拗ねると困るわね。みんなが一番上手いってことにしなきゃ」


 アランさまはやっぱりまだ驚いているようだが、反応は薄い。

 私は軽い会話に始終して、お茶やお菓子の説明をしたり、アランさまの好きな食べ物なんかを質問したりした。

 それに対しての回答は


「さして食事に興味はない」


 だった。


「まあ。では栄養を取るための食事が多いのでしょうか」

「そうだな」

「私、とても食いしん坊で美味しいものが好きなんですよ」

「そうか」

「でも、食事にお菓子にと欲張っていると、太ってしまうので気を付けなきゃいけないのです」

「…………」

「この間、珍しい痩せるお茶を頂いたのですが、都合よく効果は発揮しないようで、やはり適度な量と運動ですわね。庭園の散策くらいはしているのですが。アランさまは運動などされていますか」

「特にはしていない」


 くぅ~、この会話の弾まなさよ。やっぱりアランさまは私に興味が無さ過ぎて、退屈なんだろうなあ。

 それでも、席を立って帰ると言わないのはありがたい。

 話の流れで、散策を誘ってみることにする。


「アランさま、庭園の散策はいかがでしょうか。目にも楽しみですし、良い運動になるんですよ」

「それより、魔道具について聞いて良いだろうか」

「……! ええ、何でしょう」


 アランさまはスマホに興味があるようだ。

 やはり、私となんか話をしたくないだろうけど、スマホについて知りたいからここに来たんだろうなあという気持ちになる。

 それでも、何か聞いてもらえるなら嬉しい。


「あの魔道具を生み出したのはエリザベス嬢なんだろうか」

「ええ、開発を依頼したのは私です。実際に工夫して創ったのは工房の職人たちです」

「その目的と意義を知りたい。あれを使えば、世界を変えられるほどの品だ」

「娯楽です」


 私があっさり答えたことに、彼はやっぱり目を丸くした。


「娯楽? あの、どれだけでも便利に使え、危険ともいえる情報量のものが」

「あれは、家族や友人、恋人と日常の他愛ないやり取りをする為の道具なんです。それこそ、今日の夕食を食べるかとか、何時に帰るとか。連絡を密に取ると、人はすれ違うこともなくなるでしょう」


 アランさまは私の顔をじっと見て言った。


「本当に? いや、今日は魔法をかけていないな。そうなのか」

「え。アランさまは、私があの日、感情抑制の魔法をかけているとご存じだったのですか」

「それは見れば分かる」

「えーっ! 見たら分かるものなんですか」


 初耳である。魔法なんて目に見えないものをどうすれば分かるというのか。

 すると彼は滔々と講義をしてくれた。


「魔力を見て、感じるのは魔法を使うまず第一歩だ。貴女は魔力を抑えようともしていないが、その量が膨大なのは見るものにすれば一目で分かる」

「そうなんですか! 普通は魔法を習得するならば、そこから始めるのでしょうか」

「そうだ。そもそも魔法というものは……」


 すごい有難い話を聞けてるとは思う。

 けれど、アランさまの顔と声が良すぎて全然頭に入ってこない!

 すいません、煩悩まみれで。

 ただ、ボーっと彼の顔を見つめて声を聞くという、萌えを浴びているとシーラがお茶のお代わりを持ってきてくれた。


 シーラには、一時間経ったらお代わりを持ってきてくれるように頼んでいたのだ。ということは、もう一時間経ったのか。

 最初こそ気まずく会話が弾まなかったけれど、魔法の話をしたら一気にテンポよくやり取り出来るようになった。

 お茶を切欠に、アランさまが講義を一区切りつけたので、私は申し訳なさそうに正直に伝えた。


「アランさま、私にはお話の内容がまだ難しいようで、よく分かりません。もう少し初歩的な、幼児でも分かるような書物はありませんか?」

「そうか、貴女には難しかったか。基礎的な書物もある筈だ。すぐには思いつかないが」

「本の名前など、教えて頂いたら取り寄せてみます。私、家の蔵書倉庫にある本を見つけて勝手に魔法の練習をしたので、全てが我流で基礎が無いんです」


 するとアランさまは瞬いて、またびっくりした顔をした。いつもあまり表情が変わらないのに、今日はたくさん驚いた顔を見てしまった。嬉しい。彼が愛おしく感じられて、胸が高鳴る。

 じーっと見つめていると、彼は呟いた。


「我流で魔法を? それは、すごいな。貴女には魔法の才能があるかもしれない」

「才能は、無いと思います。ただ好奇心が旺盛なだけで」

「それも凄い。貴族の令嬢は、魔法など使いたくもないだろう」

「それはそうですね。便利な魔法もあるのにどうしてなんでしょう」


 一般的な貴族は、魔法は使えても使うことは下賤とされている。

 私も、生活魔法はまだ使うが、攻撃魔法なんてとんでもないというイメージが強い。

 例えて言うなら、前世で普通の女性が大きなナイフを振り回すとか、銃を撃つとか、そんな感じだ。銃を持つのは警官かアウトローかだ、と前世の私が認識しているように、この世界で魔法を使うのは専門の知識を持った魔術師か騎士、それとアウトローなのだ。

 するとアランさまはまた講義をしてくれた。


「過去の魔法全盛期では、魔法を使える者は誰しもこぞって使い、活用していた。しかし乱世が平定され、王国が平和になるにつれ魔法は衰退していった」

「なるほど。乱世でこそ魔法は発達し、平和になると廃れていくのですね」

「そうだ。過渡期には魔術師による犯罪などもあり、厳しい弾圧の政策が取られることもあった。そのような時代の流れのうちに貴族の間には魔術への忌避感が強くなり、貴重な資料や前例も失われてしまった」


 魔法学の歴史について、アランさまは私に合わせて簡単に教えてくれた。だからこれは理解できた。

 ふむふむ、とありがたく聞いていると彼はハッとしたように言う。


「すまない、私ばかりこんなに話をしてしまって」

「うふ。アランさまに教えて頂いて、とても光栄です。それに、興味深かったです。為になりましたし」

「それならば、良いが」

「魔法の歴史を聞いて、やはり私は使える魔法は使っていきたいと思いました。流石に、攻撃魔法は怖いですが生活魔法は便利で手放せません。例えば、この清潔魔法なんて素晴らしいですわ。私はよく、服を汚してしまうので」


 食べ物を落としたり、インクの染みを滲ませてしまったり、服を汚してしまうことが多いのだ。白の袖口なんか特にすぐ汚れてしまう。

 私は服を清潔にする魔法をサッとかけた。


「君は常識には囚われず、実利を取るのだな」

「ふふ。ただ、この魔法は自分にしか使えないみたいで。他の人の汚れを見つけて、かけようとしたのですが自分にかかってしまいました」

「ああ、それならば簡単だ。魔力の流れを外に向ければ良い」


 そう言って、アランさまは私の手に彼の手を重ねた。

 手っ、手が~!

 アランさまの手と触れあってる!!


 接触イベントだー!!

 アランさまは魔力の流れについて講義をしてくれてるけど、私は頭に血が上ってしまって何も入ってこない。

 すると、彼はそんな私に気付いてまずいことをしたと感じたのだろう。サッと手を避けて謝罪をした。


「すまない。迂闊に女性に触れるなど、してはいけないことだった」

「いいえ、大丈夫です。何も気にしません」


 嘘だよ!

 もーめちゃくちゃドキドキしているし、今日は手を洗いたくない。

 推しの握手会に参加出来たような、そんな気持ちでアドレナリンが出まくっている。心臓がどっくんどっくん大暴れよ。

 でも彼は気まずいみたいだった。

 そりゃ、一方的に言い寄ってくる相手に餌を与えるようなことをしたんだから。ちょっと口ごもってもごもごと


「いや……、すまない」


 なんて言っている。

 だから私は話題を変える度に、質問をした。


「アランさまは子供の頃から、魔力の流れを上手く使えてらっしゃったんですか」

「…………」


 突然、アランさまから冷え冷えとした空気が発せられた。こんなに会話が弾んだと思っていたのに、また以前に逆戻りだ。

 私は戸惑って彼を見上げる。何だろう、ひょっとして良くないことを聞いてしまったのだろうか。咄嗟に謝罪する。


「あの、踏み込んだことを聞いてしまったなら、ごめんなさい」

「貴女は、私の行く場所に先回りするような行動はしても、私のことは何も知らないんだな」




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