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ヒーローを追いかけまわすタイプの悪役令嬢に転生してしまったけどキャラ変したいです  作者: 園内かな
二度目の恋

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2.


 御前スマホ会当日がやって来た。

 お父さまとヴィクトルお兄さまと王宮に向かう。きちんと仕込みもばっちりしたし、スマホの動作は完璧だし、多分大丈夫と思う。勿論プレゼンの練習もした。

 馬車に同乗している二人が、次々に励ましてくれた。


「大丈夫だよ、エリザベス。心配しなくても、お兄さまがついている」

「そうだとも、私の可愛いエリザベス。もし誰かが何か言ったら、お父さまの力で抹殺してあげるからね」


 私情で権力を使うな。

 ちょっと笑ったから緊張は解れたけれど。


「ふふ、ありがとう。お父さま、ヴィクトルお兄さま」


 国王陛下と王太子殿下、あのランベールのことだけど、二人とその取り巻きや侍従、重臣の人たちも一緒に話を聞くらしい。けっこう大きい会議室に案内された。

 私たちは公爵家なので、ランベールと王さまの前に入る。最後に二人が入室する、直前の入室。つまり、陛下と殿下以外の参加者は既に中に居るってことだ。


 人数が多くても、気にせず淡々とプレゼンしようと考えながら入室する。

 だから、彼がそこに居るなんて考えもしなかった。

 もう最後に会ったのもいつか覚えていない。

 とっくに過去の人になっていたし、最近では思い出すこともなかった。


 それなのに。

 会議室に入って、彼の姿を視界に捉えた瞬間、周囲がスローモーションになった。


 嘘!

 アランさま!

 アランさまが、そこに居る!


 私の思考は、アランさま一色に塗りつぶされた。


 好き!

 好き、好き、好き!

 好き好き好き好き好き好き好き好き!

 アランさまの隣に居たい!

 私を見つめてほしい!

 私以外の人を視界に入れないでほしい!

 好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き!

 アランさま、私のものになって!!!!


 目がアランさまに釘付けになって、そこから視線を動かせない。


 アランさま、お願い! こっちを向いて!

 私を見て、私のこと、好きになって!!


 次の瞬間、私の視界いっぱいにヴィクトルお兄さまの顔が広がった。


「エリザベス、どうかした?」

「あ……」

「緊張しているんだね。こっちにおいで」


 ヴィクトルお兄さまが、私の手を引いて席まで案内してくれる。さりげなくアランさまとの間に身体を入れているので、もうアランさまの姿を見ることは出来ない。

 私の心臓は、早鐘を打つように激しく動いていた。


 ヤバイ!

 さっきのあれは、純度百パーセントのエリザベスだった!

 純エリはヤバいよー!

 あんな恋心抱えてたんだ? すごい、あれはマジでヤバい!


 私は必死に感情抑制の魔法をかけた。後で反動が来るかもしれないけれど、今はそれどころじゃない。

 エリザベスの恋心で、この大事な局面を失敗するわけにはいかない。

 既にスマホ事業は動いているのだ。私がミスってこれがぽしゃってしまえば、路頭に迷う人が出てきてしまう。


 でもどうして、アランさまが。彼は超絶すごい魔法使いだけれど、魔道具担当ってわけじゃないのに。

 そう考えているうちに、ランベール王太子殿下が入室してきた。当然、侍従のユリアンお兄さまも一緒だ。会議室にいる全員が立って殿下を迎え入れる。

 ユリアンお兄さまは、私を見てニヤリと笑った。


 あっ! あいつかー!

 先日の「覚えていろ」という言葉が今更頭によぎる。

 ユリアンお兄さまは、まだ私がアランさまを好きかもしれないと彼を呼んだのだろう。

 クソー! その目論見は大成功だよ! なんでエリザベスのこと、そんなに分かってるの! 自分でももう関係ないと思っていたのに!


 いや、でも今は落ち着いて前世度を高めるのだ。

 国王陛下が最後に入室し、全員が恭しく礼をして着席する。

 ドキドキの会議が始まった。


 国王陛下が口火を切る。


「セントリム公爵家で、新たな魔道具を開発したと聞いた。画期的なものだと噂になっているぞ」

「はい。それについてはエリザベスから説明させて頂きます。エリザベス」


 お父さまがにこやかに応じている。二人は仲の良い兄弟だもんね。

 そして、紹介して頂いた私は立ち上がって発言を始めた。


「はい。私が考案した魔道具は、特に目新しいものではありません。既存の魔道具のいくつかの性能を足し合わせたものです。記憶の中の画像を保存する魔道具、文字を記して記録する魔道具、そして人に手紙を送る魔法。基本はこの三つです」


 なーんだ、という落胆のざわめきが会議室を満たす。

 そんなに大したことでもないのに、何故評判になっているのだ? という空気が大半だ。

 しかし、賢い人の中には少し青ざめたような様子の人もいる。文官の偉い人は、この組み合わせがとんでもないことになるのではないかと恐れているようだ。

 私は説明を続けた。


「では実際に操作してご覧に入れましょう。皆さまに見えるよう、投影させて頂きます」


 手元のスマホの画面をプロジェクターに映し、会議室のみんなが見えるようにしたい。そう希望したら、ジョーは投影の魔道具を改造してすぐに作ってくれた。

 マジ有能すぎる。


 ジョーは発明王と名乗っても良いと思う。

 王宮の使用人が、プロジェクターの魔道具を設定してくれる。

 私はそれに自分のスマホを繋ぐべく、会議室の上手前方へと移動した。


 スマホはポシェットタイプのスマホケースに入れているので、皆には私が手ぶらで移動したかのように見えただろう。

 おいおい、魔道具持って行ってないよあの子、という空気の中、私はどや顔を堪え淡々とポシェットからスマホを取り出した。


「これがその魔道具です。素敵な魔法の朋友、略してスマホです」


 ランベールがすぐに突っ込んできた。


「魔法の、というが魔道具だろう。それに魔法の朋友という言葉はおかしくないか」


 うるさいなー!

 どうしてもスマホって呼びたかったからいいの!


 私は無視してスマホの画面をオンにし、プロジェクターと繋げた。


「先ずは基本のやり取りです。スマホを持っている同志で、お友達登録をした相手には手紙を送ることが出来ます」


 連絡先一覧の中から父を選び、メッセージを送る。


『パパ、見ててね。頑張る!』


 すると既読の文字が付いて、すぐに返事が届く。


『可愛いエリザベス。頑張ってえらいよ』


 多分魔道具担当の役人であろう人が声をあげた。


「その程度の魔道具なら、既にありますがどこが画期的なのでしょう」

「既存の魔道具なら、絶対にその場で受け取らなければいけないでしょう。これは気が向いた時に見れば良いし、見なくても良いです。返事も、してもしなくても良いです」


 父に合図して、新しく文字を送ってもらう。


『今日もエリザベスは可愛いよ』


 私は父の連絡先を右にスワイプする。すると非表示、削除というコマンドが出て来た。


「この手紙に返事をするには、既読をつけて返信です。でも非表示にして無視も出来るし、相手の連絡先を削除してもう送って来れないようにすることも出来ます。受け取り拒否です」


 父は削除されなかったことにホッとしていた。

 ふーん、という空気になるが、まだまだ続けていく。


「この手紙は、複数人に送ることが出来ます。まず連絡先の中から送りたい人たちの集団を作ります」

 私は父、母、ヴィクトルお兄さまとユリアンお兄さまの四人が入っている、家族グループを表示させた。

 そしてメッセージを打ち込む。

『今日、夕食は家で食べますか』


 すぐに既読が三になり、父とヴィクトルお兄さまから


『食べるよ』

『食べます』


 と返事があった。


「五人の集団ですので、全員が読むと既読の数字が四になります。今は、母は手紙を見たけれどお返事が出来ない状況です。そしてユリアンお兄さまは未読状態です」

「ユリアン、見てみろ」


 ランベール殿下が偉そうに指示すると、ユリアンお兄さまは言われた通りスマホを手に取る。そしてすぐ既読四になった。


「この集団は、九十九人まで設定出来ます」


 その説明にはちょっとざわついた。


「まさか。そんな大量の宛先の手紙を一度に送るなど」

「どれだけの魔力が必要となるか」


 私はそれに答えた。


「魔力はそれほど必要ありません。それは、九十九通の手紙を送るのではなく、集団が居る部屋に一通の手紙を送っているからです。皆は同じ部屋で、その手紙を見ているというわけです」


 ざわついているけど、さくさく進めていく。


「この集団でも、人を減らしたり増やしたり出来ます」

 私は人の形をしたアイコンをタップし、一覧に書かれているメンバーのうち、お父さまを無情にもグループから削除した。


「あっ!」


 父が悲痛な声を出す。

 後でちゃんと入れなおすから。

 そして、お父さまの居ない家族グループに文字を送った。


『今度のお父さまの誕生日、何かプレゼント贈る?』


 勿論、父はそこで見てるんだから内緒でもなんでも無いが。


「うぅ、エリザベス。なんて可愛くて素晴らしい娘なんだ……」


 父の感涙を無視し、更に進めていく。そろそろクライマックスだ。

 私はカメラ機能を立ち上げ、父にカメラを向けた。

 カシャッ!

 大きな効果音が鳴って、父が撮影される。

 そして、さっきの家族グループに今撮った父の写真を送ったのだ。


『お父さま泣いてる』


 メッセージと一緒に写真が画面に移り、会議場は大きくざわついた。

 すぐに軍部の偉い人らしい軍服のおじさんが声を張り上げる。


「これは著しく危険なものだ! 我が国の機密事項がすぐにでも漏れそうではないか!」

「機密事項とは、具体的に何を指しているのでしょうか」

「いくらでもある。軍内部やこの王宮内でも、秘匿すべき情報は山ほどある」

「秘匿すべき情報がある場所では、撮影を禁止すると良いでしょう」

「そんな禁止など!」


 言い募る軍服おじさんに、私はもう一枚写真を撮った。

 カシャッ!

 会議室はざわついているのに、効果音ははっきり聞こえた。


「この音は消せません。盗撮防止用です」

「だが! 九十九人もの人物に一斉に写真を送れるんだろう。国外に送ってしまったら取り返しがつかん!」

「この手紙機能は、国外には送れません。この王国内限定の機能です」

「まさか! そんなことが可能なのか」


 昔の携帯電話は、国内だけが普通だったし電波が悪かったら国内でも電話かからなかったし。

 ジョーに頼んで、位置情報から国内のみの送受信に限定してもらったのだ。


「はい。手紙機能は。撮影は出来ますが」

「だったら、危険なことには変わりがない」

「それを言うなら、記憶したものを映像にする魔道具の方が危ないでしょう。機密事項を知っている人が国外でそれを使ったら機密漏洩です。秘匿情報をしっている人全員を国外渡航禁止にしているんですか」


 軍服おじはぐぬぬ、となった。

 それを無視して続ける。


「普通の撮影以外に、自撮りが出来るよう内外両方に撮影機能が付いています」


 私はインカメラを立ち上げ、父たちが居る方に背を向けて自撮りした。

 誰かがすぐさま


「己の写真など、何の必要があって撮るんだ」


 とぶつくさ言うのが聞こえる。

 いいねいいね。思い通りに進んでいく。

 そこに、私のスマホから軽快なメロディが流れ出した。


 チャララチャララチャラララン!


 画面には『お母さま』の文字が出ている。

 自撮りを合図として、ヴィクトルお兄さまから母に、『電話して』のメッセージを送ってもらったのだ。

 音楽が二回鳴ってから、通話をスピーカーにして取る。


「はーい、エリザベスです」

『エリちゃん、今何しているの』

「お母さま、映像通話に出来る?」


 するとパッと画面が文字から、母の姿へと変わった。

 会議室はどよめいた。


『エリちゃん、見えてるー?』

「ええ。お母さまも見えてる? 私は今、王宮の会議室に居るわ。お母さまはどこですか」

『私は今、慈善活動で孤児院に来ているわ。みんなー、私の娘のエリザベスよ! 見えるかしら』


 母がインカメで周囲を映してくれる。

 すると子供たちがわーわーと画面を覗き込むのが見えた。


『わー、お姫さまだー!』

『綺麗ー!』

『後ろにたくさん人がいる!』


 シスターの姿も見える。


『これこれ、皆、イリナさまの邪魔をしてはいけません』

「お母さま~。今、会議中だからまた後でね」

『ええ、エリちゃん。夕食は私も一緒に食べるわ』

「はーい」


 通話を切ると、会議室は最高にガヤガヤしていた。


「最低限の機能をつけた簡易版スマホは安価で販売しますが、今のように通話と内部撮影機能を付けた特別版もあります。使い方によって等級を分け、価格設定を変えるのです。スマホに関する発表は、以上です」



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