13-8
泥が跳ね、石畳に躯が倒れ伏す音が響く。
リキッドメタルブレードの一閃が、また一体ゴブリンを切り伏せる。
攻撃の隙を狙って突撃してきた賢しい個体は、マイトの放った矢に貫かれる。
ユートはすぐさま反転して警戒。視界に入ったゴブリンの群れに対して銃弾を放ち、即座に距離をとる。
ユートの後ろでは、ケラウスとライカがマナタイトに魔力を注ぎ込む。
本来は長く集中を必要とする作業であるが、師弟二人の全力のエーテル供給により、急速に光を取り戻す。
マイトは、もう迷わない。自分の仕事をまっとうする。
ユートが合流してから、時間にして十数分。
各々が全力を尽くす――
――そうすれば――
――マナタイトが、本来の透明な輝きを取り戻すのに、そう時間はかからなかった。
「「――再起動、完了」」
師弟がかざしていた腕を降ろすと同時に、マナタイトから発生した蒼銀の光が周囲を包む。
(清らかで、優しい)
肌に感じるエーテルの流れを受けて、ユートはそう感じた。
だが、魔物たちにとっては違うようだ。
「ア、ア、ア、ガァァァァァっ!!」
ゴブリンたちは苦しみだすと、体から黒い煙を噴き出す。
幻の肉体は瞬く間に溶けていき、消えていく。
残ったのは数体のゴブリン。それも、すぐさま逃げ出そうとユートたちに背を向ける。
「逃すか!!」
ユートは銃を構え、弾丸を発射。
狙いは正確で、着弾のショックの合間に突撃し、確保――その筈だった。
突如、ユートとゴブリンの間の地面が隆起すると、岩の壁を作り出す。
ガスショックバレットが着弾すると、爆音とともに炸裂し、岩の欠片と土煙が視界を遮った。
「!? 今のは」
「土の魔法だよ。気を付けて、ユートちゃん」
ユートは踏み込みかけた足を止めて、状況を窺う。
気配があった。
岩の壁の先に、ゴブリンとは違う、迫力をもった存在が感じられた。
「――やはり、ゴブリンだけに相手をさせるのは無理だったか」
重く、迫力の籠った声だった。
土煙の中から、二メートル近い人型の影が出てくる。
頭には一本角がついた兜。胴には紅い西洋甲冑。全身を武装した、人型の何かだった。
「人間の……」
ケラウスがユートの言葉を遮る。
「いや、違うな」
「さすがはケラウス殿、よく理解している」
甲冑の男は兜を脱ぐ。
そこには――本来の人にはない、『角』が生えていた。
「角がっ! 飾りじゃないのか!?」
兜の飾りではなく、頭から直接生えていた。
顔は赤く、瞳は金色。犬歯が口からのぞき、背格好こそ大男であるが、飛ぶは明らかに異形の物であった。
「ヒト亜種、オニだ。
人としての道を踏み外し、ゴブリンのように魔の存在に踏み入れた人間」
ケラウスの言葉に、オニは静かに頷く。
「さて、話をしよう」
オニは両手を広げて、一歩近づく。ユートは無言で剣を握ると、視線で警戒する。それ以上近づくな、と。
オニもそれを理解したのか、距離を保ったまま話を続ける。
「君たちは作戦の目的を、この地のマナタイトの起動だと言った。
なら、その目的は既に果たされている」
ユートたちの後ろには、輝きを取り戻したマナタイトがある。
当初の作戦は果たされ、幻体のゴブリンたちも消え去った。
「これから、我々が行うことを黙認してもらえるのなら、これ以上の手出しはしない」
ユートは剣から手放さずに睨みつける。
「話だけは聞いてやる」
オニはわざとらしい作り笑いをした。
「我々の目的は、同志アッダマスの残した研究成果を回収すること。それだけだ」
アッダマス――その名が出た瞬間、ユートたちは表情を険しくする。
「先輩たちに先に手を出しておいて何を言うんだっ! 本当にそれだけが目的なら、最初から手を出す必要なんてなかったじゃないか!」
すかさずマイトが言うと、オニは張り付いていた笑顔を捨てる。
(その通りだ。散々攻撃をしたうえで、旗色が悪くなったら交渉を持ち掛けると言うのは都合が良すぎる――それに)
ユートはケラウスを見る。ケラウスは頷くと、オニに向かって言う。
「ユート、悪いがその話を許容することは出来ない」
「ああ、俺も同じだ……」
ユートは銃口をオニに向ける。同時に、ケラウスとライカが杖を手に取り、鋭い瞳を向ける。
「アッダマスの名を出したのなら、信用は出来ない」
ユートたちにしてみれば、呪いをかけた相手の同志とあれば、信用することは出来なかった。
銃口と杖越しに刺さる敵意を前に、オニは溜息を吐く。そして、目を鋭く細めると、後ろに飛んで距離をとる。
「そうか、ならば多少は痛い目にあってもらう必要があるか」
その宣言と同時に、ユートの胸ポケットに入っている魔力計測器が揺れる。
(まずい……何かやろうとしてる)
反射的に、ユートは走り出した。
同時に、背後からライカの黄金の稲妻と、ケラウスの黒い稲妻が発せられる。
「ハハハハ、マナタイトの再起動でほぼ空っぽの肉体から絞り出した魔法程度で、止められると思わないことだな」
オニは二人の魔法を涼しい顔で受けて止める。西洋甲冑は傷一つついていない。それどころか、『何か』を準備するように怪しく発光する。
(間に合え!!)
強く踏み込み、一気に距離を詰めると刃を振るう。
その一撃は甲冑――から広がる光に接触すると、高い刃音を鳴らす。
(……これは――エーテルの光じゃない)
強烈な斥力。危険を直感したユートは後ろにバックステップをして距離をとる。
「ハハハハハハ、魔導鎧≪マギウス・ガイ≫を持ってこなかったのは、落ち度だったな、ケラウスよ!」
オニの姿がマナの輝きに包まれると、肥大化していく。
「ユート、下がれ」
ケラウスの鋭い言葉が飛んできた。
既にケラウスも村の中央から退避を始めている。ライカとアッカも同じだ。
「わかった!!」
急ぎ、ユートもライカたちの後ろに続く。
ユートは後退をしながらも、オニの姿を目で追う。
マナはエーテル化して顕現し、その存在は徐々に広がっていく。
それは、紅い甲冑――オニが着ていたものと同じ姿になっていく。
「なっ……」
ユートが驚愕の声を漏らす。
目の前には、20メートルを超える巨大な甲冑があった。
「これが、私の魔導鎧≪マギウス・ガイ≫だ」
鎧の奥から、オニの声が響いて来た。
その言葉には圧倒的な自信が乗っている。圧倒的な力に裏付けされた、強者の余裕があった。




