12-3
朝日と共に世界は動き出す。それは、コロニーの地上拠点でも同じだった。
ユートの帰還から十数時間。
あっという間に夜は明けて、朝が訪れた。
普段よりも早めに起床したユートはタブレットを片手に拠点を走り回っていた。
「ユートさん、こちらの設備のチェックもお願いします!」
「了解!」
ドリーたちの要望に合わせて施設やオートマトンを確認し、必要な資材の確認や要望の承認を行う。
「シーナ、アッカ配下のオートマトンの一部をルーブの方に回せない?」
『数は四機まで。プラントの方にも回す必要があるので、それ以上は無理ですね』
「わかった。それで行こう」
ようやく最後の確認を終えると、タブレットをしまう。
そこで、自分が大分空腹であることに気が付いた。
『たしか、朝食はライカたちの家でとることになっていましたね』
「ああ、向こうも待っているだろうし、早く行くよ」
『ええ、こちらの事はお任せください』
「任せたよっ!」
ユートは水晶の部屋へと向かう。
「確か、ライカの家へは木の扉を潜れば」
古めかしい木の扉を開き、水晶の部屋へ入る。中に入って扉を閉じて、再度開きなおす。
朝の木漏れ日が差し込む、古びた部屋が見える。
食卓の上には湯気の立ち上る食事。そして、ライカの顔。
扉の音に気が付いたのか、ライカは顔を上げる。
「あっ、ユートちゃん! おはよう!」
にこやかな笑顔で迎えてくれたライカに、ユートもまた笑顔を返すのだった。
◆◆◆
ユートがやって来たことに気が付くと、ケラウスも食卓にやってきた。
「来たなユート、さっそく食事――と言いたいところだが」
ケラウスはライカの方を見る。ライカは杖を持って椅子から立つと、手招きをした。
「ユートちゃん、ちょっと外に出て欲しいな」
「わかった。でも、なるべく早く食事にしたいかも」
わざとらしくお腹をさする。事実、普段はもう食事をしている時間なので、ユートは空腹だった。
「はは、いかにも腹減ってるって顔してるからな。すぐに終わるさ」
◆◆◆
三人揃って庭に出る。
ライカとケラウスの家の庭は、半分は畑になっていた。
家で食べる野菜と、なにか独特の匂いのする葉っぱや花。薬を作るのに使用するものである。
庭を回って家の裏手へ。すると、一メートル四方の岩が目についた。
「これだよ、ユートちゃん」
「これは、岩?」
ライカが指さす岩を、ユートはまじまじと見る。
だいぶ前に運ばれて来たのか、接地している部位には土で埋もれている。表面には苔が生えていて、ひんやりとしていた。
「魔法の修行を始める前に、確かめたいことがある」
「まさか、修行の定番の岩を斬るってヤツ?」
「う~ん、魔法使いの修行にそれは無いんじゃないかな」
ケラウスは苦笑いをしていた。ユートは恥ずかしそうに頭をかく。
「大事なのは岩じゃない。この岩の表面についているコケ――ヒカリゴケってやつだ」
岩の上部を覆う深い緑の苔。それが重要であると。
「ヴェール・マナタイトと似た性質をもつ苔でな。
あっちはマナを蓄えて発行をするが、ヒカリゴケは指向性をもったエーテルに触れると特定の反応を返すんだ」
ヴェール・マナタイトはエドンの街で照明に使われていた。マナを蓄える性質があり、十分にマナを蓄えた状態では発光をする。
「特定の反応、と言うことは、エドンみたいに光るだけじゃないんだね」
「ああ。火のエーテルの場合は発熱。氷の場合は冷却、と言ったふうにな」
ケラウスがヒカリゴケに向かって指をさす。
すると、苔から光が溢れ出て、それが電気のように拡散していった。
「今のは、雷の属性なのかな」
「そういうことだ」
ケラウスは一度話を区切ると、ユートの顔を見る。
「これで、ユートが持つマナの性質を確かめる。
マナの性質は個人個人によって異なる。例えば、風の力を得意とする奴も居れば、俺やライカのように雷の力を持つ人間もいる。
指導をするなら、その性質を知っておきたい」
教育のための素質の検査である。それ自体は、ユートも異論はない。
ただ、疑問はあった。
「そういう属性について聞くときに思うんだけど、そんなクッキリと別れるものなのかな。
マナと言うリソースを使用して現象を発生させるのなら、やり方に左右されるだけだと思うんだけど」
人に得手不得手があるのは当然であるが、まるで『属性』のように分類されるものか、とつい思ってしまったのだ。
「違うのよ。性質によって起こしやすい現象が異なるの。
例えば、風であるば『拡散』『切断』それに対して地は『硬化』『収束』、水は『浸食』『補完』」
「気体、液体、固体の状態変化みたいだ……」
水が凝固、気化するのとで、体積をはじめ大きく異なる。
そう考えると、同じマナから発生した現象であっても、異なるものになるもの分からなくもない。
「切断と補完の力を同時に扱うことはイメージできるか?」
「あ、確かに同時に発動させることは無理かも」
物体そのものを破壊してしまうのと、物体を繋ぎ合わせることを同時に出来ない。
それだけ離れている力を同居させるのは難しいのだ、と。
「そう言う事だ。それが個人の魂のレベルで紐づいている。
エドンで出会ったテン・グーの嬢ちゃんが居るだろ。あれは土地に性質が引っ張られている。
だからテン・グーは若いうちに旅をして、いろんな土地の空気を学ぶ。上手く行けば、複数の属性を扱えるようになるんだ」
「なるほど、納得出来た。
魔法には個人の素養が大きく関わっていて、それを知る必要がある」
ライカが後ろで手を叩いている。ケラウスも満足気に頷いた。
「わかった。でも、どうすれば?」
「難しいことは考えるな。ライカを助けた時のように、マナを集めればいい」
「うん」
「頑張って、ユートちゃん!」
二人に促されて、ユートは岩の前に立つ。
そして、手をかざして目を閉じる
(あの時と同じように……湧き上がるイメージを押し出す)
反応はすぐに発生した。慣れたもので、ユートも自分が上手く力を組み上げていることを自覚出来ていた。
掌から黄金の粒子が浮かび上がり、苔に吸い込まれていく。
苔は光ると、その光は徐々に伸びていく。
「これは」
ケラウスとライカも岩に近づくと、伸びた光に触れる。
「ふーむ、光が伸びる」
「ううん、それだけじゃない。この光が結晶みたいに固まってる」
光は消えない。翡翠色の結晶になって存在し続けている。
(エクステンションマッスルを変化させた時と同じだ……)
宇宙での戦いの際、一瞬だけ発生したファルコンの変化。
拡張装甲やスラスターの色と同じだった。
「これって、どんな属性なの?」
ケラウスは首を横にふった。
「分からん」
「分からない!?」
思わず大声を出してしまった。
ケラウスはしっくりこないと言った顔をして苔を見ている。
「たぶん、俺やライカの雷に近いと思う。エネルギーそのものが苔から発散されるのが雷への反応だからな」
「でも、こんな風に結晶化することはなかったかな」
ライカも首を傾げる。
この二人にも分からないのだ、ユートにも分かる訳がなかった。
「わかった。分からないことが分かったんだね」
「そう言う事だな。ともかく、既存の何れかにも当たらないと言うことが分かったのなら、それ相応の対応をするだけだ」
だが、分からないなら分からないなりにやりようがある。
「それじゃあ、お話もまとまったし、お食事にしよ!」
まずは、食事である。




