12-2
ローバーが拠点に入場すると、オートマトンの一群を率いたアッカがやってきた。
「アニキ、お疲れ! 荷物の搬入とかはオレたちに任せてくれ!」
「預かっている物だから、くれぐれも慎重にな」
「なぁに、そんなのオレっち達オートマトンにとっては基礎中の基礎! 設備への被害は極々小さくするのは当たりまえってね!」
「そりゃあそうか」
頼もしい赤いコマンドの姿。既にテキパキと作業を進めるオートマトンたちを見て、ユートは自分が余計なことを言ったと理解した。
機械たちが作業をすすめる間、人間たちもまた先の準備を進める。
「ライカ、ちょっと家で準備がしたいから手伝ってくれないか」
「はい、わかりましたお師匠様」
ケラウスはライカに声をかけると、次にユートの方を見る。
「ユート、明日の朝に俺たちの家に来てくれ。水晶の部屋を通れば一瞬だろ」
「了解、魔法についての話だね」
「そうだ、本当にお前は話が早いよ」
すると、ライカがケラウスの後ろからひょっこりと顔をだした。
「あ、それなら朝ごはんを準備して待ってるね」
「いや、そこまでは」
遠慮しようとするユートを前に、ケラウスは意地の悪い笑顔を浮かべる。
「おいおい、お前はまだ分からないのか。コイツの前で遠慮なんて出来ないぞ」
「そうそう、離れてた分しっかり甘えさせちゃうからね」
「な、こう言いだしたら遠慮しないのは分かってるだろ」
師弟揃って迫ってくるのを前に、ユートは断りきれるわけもなく。
「わかった、じゃあお願いするね」
諦めて甘えるしかないのだった。
「うん! まっかせてね!」
ぱっと笑顔が咲くのを見ると、ユートはいかに自分が無駄な事を考えていたのだと、自覚するのだった。
「それじゃあ――」
「あ、それとライカ」
去ろうとするライカを呼び止めると、ポーチを開く。
「どうしたの」
「はい、これお土産」
中から取り出したのは、黄金色の宝石が付けられた髪飾り。
エドンの街で、クラマと一緒に選んだライカへのお土産だ。
「クズ石の髪飾りなんだけど、こんなんで良かったかな」
「うん、ありがとう!」
ユートの手から髪飾りを受け取ると、ライカは大切に両手で包み込んだ。
「なんだ、お前律儀にお土産を買って来いって我儘を聞いたのか」
それを、少しあきれたような顔で見るケラウス。
どうしてそんな反応をするのか、ユートは不思議で首を傾げる。
「うん。もちろんルーブたちの分も買ってるけど」
「あ、いや……うん、まあいいか」
余計なことは言うまい、とケラウスはからかうことを止めた。
「うんうん、ちゃんとお姉ちゃんの言うことを聞いたんだね、エライエライ」
「はいはい……」
その日、ライカが去る時の後ろ姿も、ずっと上機嫌だった。
◆◆◆
二人が水晶の部屋を通って姿を消すと、シーナが通信を開く。
『さて、夕食の前にタブレットを確認してもらえますか』
「了解」
タブレット端末を取り出すと、自動的に映像が送信される。
アッカ達に運ばせた金属製品の状況と、作業にかかる時間の見積もりが表示されていた。
「時間の見積もりは二十四時間も必要なし、か」
『工業プラントもエクステンションマッスルの修理がちょうど終わった状態ですからね、すぐに作業に取り掛かれます』
コロニーの工業プラントは、宇宙から帰還したエクステンションマッスルの修理で稼働していた。
幸いにして、エドンに滞在している間にそれは完了していたため、すぐに別の作業に入ることが出来る。
「開発中の新装備については?」
『そちらも問題はありません。エールから提供された素材がありますしね』
「そっか。まだだったら中断を指示していたけど、それも必要ないか」
ユートはタブレットを操作してパラメータを全て確認する。
電力、資源、何も問題はないことを確認すると、了承のボタンを押した。
「ひとまず今のところ資源は問題なし、か」
『リフトの設置中に鉄鉱石の鉱脈が発見出来たのが幸いでしたね』
「ああ、今のところエドンを通して鉄鋼とかの輸入は考えなくて大丈夫そうだ」
そうして、データを全て確認し終えると、タブレットの電源を切る。
すべては順調――そう、順調だった。
『どうしました、ユート』
「いや、エドンだと細かい作業とかも自分でやってたから、みんなに任せっきりだとなんか手が空いた気分で」
『そんなことを気にしているのですか』
目の前にシーナが肉体を持って存在していたのなら、さぞ呆れた顔をしていただろう。
『ユート、明日になればやることは山盛りですよ。それに、今だってあなたが承認の指示を出さないといけないことは山ほどあるのですから』
「はは……」
それは事実であり、ユートにはやらなければならないことが山のように残っている。
(エドンの街も賑やかだったけど、こうしてシーナに言われる騒がしさは、なんか違うな)
東の果ての先、コロニーの拠点の夜は更けていく。
明日、太陽が昇った時。また忙しくなるだろう、と少年は覚悟をした。




