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幕間 10-4.5


◆◆◆


 ――コロニー地上拠点――

 ――ユートたちがエドンに向けた出発した直後――


 地上拠点に残された人間はライカ一人だけ。その彼女も、呪いの影響で体調は万全とは言えない。師と弟(ライカ称)からは口を酸っぱくして安静にしているように言われていた。


 誰もいない医務室。清潔なベッドの上で眠っている――とはいかない。うずうずと落ち着きのない女性が居た。一人で安静、と言うのも難しいものである。


「……むぅ……」


 ちなみに、この呻き声は本日50回以上のカウントをしている。


「……ぬぅ……」


 寝間着姿の上半身を細かく揺らし、ベッドから飛び出しそうな下半身を理性で押さえつけて安静にする――


「ひーまーだーよー」


 耐えきれず、掛け布団をはねのけて上半身を起き上がらせる。

 その全てを、青いボディのコマンドは眺めていた。


「申し訳ありません。言語の翻訳機能が不完全です。日常会話の相手も難しい」


 単語区切りから短文になったものの、未だにルーブの会話は機械的でぎこちない。


「あ、ごめんね。わがままだったよね」


 気を遣わせてしまったことに、ライカは申し訳なさそうにしゅんとする。


「気にしないでください。あなたを癒す。徹底的に。ユートさんの意思です」


 ルーブはそう告げると、跳ねのけた毛布を掛け直す。


「くちゅんっ!」


 ちょうど、ライカが小さくくしゃみをした。


「えへへ……やっぱり、身体を冷やしたらダメだね」

「分かっていただければ、幸い、です」


 毛布を体に巻きなおすと、ライカはベッドの上に座った。


「……はぁ……お姉ちゃんぶってても、こんな調子じゃなあ……」

 

 吐き出した弱音を、ルーブは静かに受け止めていた。


「……退屈なら、本を持ってきますか? ユートさんが保管しています」

「そうだね……あ、それなら」


 ずいっと身を乗り出すと、一つ願い事を口にする。


「せっかくだから、ユートちゃん達が持ってる本を読んでみたいな」

「……読めますか?」


 ルーブは当然の疑問を口にした。

 当然である、今でこそある程度の翻訳は出来るが、基本的にコロニーの言葉とワンドガルドの言葉は異なる。ライカに読むことは出来ないだろう。


「うん、読めないよ」


 だと言うのに、女性はあっけらかんと答えると。


「だから、ルーブちゃんが読んでくれると嬉しいなっ」


 無理難題を押し付けて来た。


◆◆◆


 コロニーの地上拠点、ライカが眠る部屋の外。


「――と、言うことです」

『それは困りましたね……』


 とりあえず時間を稼ぐため、監視をアッカに押し付けてルーブは外に出た。すぐにシーナに通信を繋ぐと、対応について相談をする。


『書籍データは幾つも残っていますから閲覧することは可能ですが……細かいニュアンスを含めて現地の人間に伝えるのは非常に難しいでしょう』


 本を読む、翻訳をすると簡単に言っても、ただ文字を読むだけではない。意味を間違わずに伝えられるか、言外の意図を伝えることが出来るのか、難題が付きまとう。


「難易度が高いことは承知の上です。ですが、可能な限りの病人の力になりたい。それがAIの仕事です」

『分かりました。可能な限り『本を読む』と言う目標を満たすべく行動をしましょう』


 AI二人は意思を確認すると、自らの目標を改めて確認。

 

■■■■■■■

■作戦『本の朗読』


概要:

 療養中のライカが暇を持て余して退屈をしている。

 時間を使う手段として、本の朗読を提案したところ、『コロニーの』本を読んで欲しいと依頼された。


作戦目的:

 本の朗読。ならびに患者の精神的な満足を得る。

 病人の心のケアも、立派な医療行為になるのです。


■■■■■■■


 最初に、二人はアーカイブの確認をした。膨大な電子書籍のデータの山から、条件を絞っていく。

 まず、難しい技術書などは除外する。次に、読むために文化的な教養が必要になる書籍を除外していく。

 そうして、最初に絞り込んだ対象は『物語』。人が生きて世界を描く物語は、世界が違っても届くと二人は判断した。


『さて、問題は翻訳のレベルですが……』

「それなら、心当たりがあります。『小さな子供』でも理解できた、実績もありますしね」


◆◆◆


 コロニーの地上拠点、ライカが眠る部屋。

 大型のモニターには、大量の赤い魚と、その中で異彩を放つ黒い魚の絵が写されている。


 ――ルーブとシーナが選んだのは、一冊の絵本。赤い魚の群れに生まれた黒い魚が、知恵を尽くして外敵と戦う物語。


「――こうして、スイミーたちは再び自由に海を泳げるようになりました」


 絵本の最期の節を結ぶと、静かに物語を聞いていたライカは拍手をする。


「ありがとうルーブちゃん」

「気に言って貰えたら、幸いです」


 照れたように、視線を外したままルーブは答える。


「……ユートさん、そっくりでした」

「え、それって?」

「……小さい頃、ユートさんに読んだ時。ユートさんも、同じような顔をしていました」


 それは、何年も前の話。

 退屈していたユートに、絵本を読み聞かせた日のこと。

 子供っぽい、と拗ねたいた少年も、気が付けば物語をじっと聞いていたのだ。


「そうなんだ……」


 ライカは目を閉じると、僅かに口元を緩める。


「なんだか、ユートちゃんと話したくなっちゃったな。あの絵本の感想とか、伝えたい」


 そんな彼女に、通信機が伝えると提案したこと――

 それを後悔するのは、ちょっとだけ先の話。


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