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ワンドガルド帰還の翌日――
コロニーの入港口にある、エアロックの扉が開かれる。中から出て来たのはユート。足取りは重く、肩を落としている。
大作戦を成功させた翌日とは思えない落ち込んだ姿、トボトボと聞こえてきそうな足取り。
そんな彼に、シーナから通信が入った。
『その顔だと、結果は芳しくなかったようですね」
「……その通りっ!」
両手を上げてやけっぱち気味に叫び散らす。その手には、ロゼ・マナタイトが握られている。
「コロニーのみんなは、眠ったままだった」
――もしかしたら、ライカと同じように目覚めるかもしれない――
そんな淡い期待をもって、コロニーで眠る住民たちの元へユートは足を運んだ。
マナタイトは輝いたし、ユート自身にも手ごたえはあった――だが、結果は落ち込んだ彼の顔が物語っている。
「そりゃ予想はしてた。ライカは苦痛を感じていたし、ケラウスさんも肉体に変化はみられた。コロニーで眠っているみんなみたいに、完全に止まっている状態とは違うんだから、同じようにはいかないかもって」
コロニーで眠る人々は、老化も消耗もしない。まさしく時が止まった状態である。症例が違うのに解決するのか、と言う疑問は最初からユートの頭の片隅にあった。だが、それ以上に新しい力に対する期待があった。それだけに、ユートは気落ちしていた。
『ユート、私たちの文明が年単位で調査しても解決しなかった問題です。文明が違うとは言え、すぐには解決しないでしょう』
「……わかってる、焦っても仕方ないしな」
結局、少しずつ答えを探していくしかない。ユートは両頬を叩いて気持ちを張り直す。
『ケラウスにも一度見てもらった方がいいですね』
「そうだね。やっぱり、魔法による影響の可能性は捨てきれない」
だが、ワンドガルドには魔法と言う未知の技術がある。
科学で出せなかった答えを、出せる可能性があるのだ。
『報告を続けて大丈夫ですか?』
「ファルコンの事だろ、頼む」
帰還後、シーナはファルコンのメンテナンスと同時に機体の調査を行っていた。
ミッションの最中に変化した影響がないか、確認する必要があった。
『ええ。結果から言いますと、『まったく変わっていない』状態です。内部構造もフレームも正常そのものです』
その報告に、ユートは首を傾げる。
『むしろ、私としてはユート自身に変化がないか気になります』
「……ケラウスは、魔法使いとしての覚醒が始まったとは言っていた」
現象についてケラウスに報告をしたところ、魔法の発動の際にエーテルが結晶化したのが原因ではないか、とのことだった。
――エーテルってのは、『望む現象』を物質世界に引き起こす際に媒体となる物質だ――
マナはそのものでは現実世界に干渉できない。エーテルとして炎や光の姿を取ることで干渉できる。
今回、ユートはファルコンの出力上昇を願った。それが、魔力を放出するスラスターとして実体化したのではないか、と言う事だ。
『希望的観測になってしまいますが、彼の言葉を信じるしかないでしょう』
「ああ。この世界で実用化されている技術だって言うなら、俺としても安心できる」
魔法と言う技術について、ユートは素人である。
専門家であるケラウスの言葉に素直に従うのが正しいのだと彼も考えていた。
『不安はありませんか?』
「少し。でも、正直に言うとワクワクもしてる」
そして、これまでの魔法の行使において、ユートは前向きに結果を出してきた。それは、彼が自身の状態を前向きに受け取る理由になる。
『なら、私からはこれ以上言う必要はありませんね』
心なしか、シーナの返答も穏やかであった。
◆◆◆
水晶の部屋を通り、地上の拠点へ。
ちょうど外に出た時、神殿の木の扉――ライカとケラウスの家へと通じる扉が開いた。
「おお、ちょうどいたな、ユート」
中から出て来たのはケラウスだった。その手には、一枚の紙が握られている。
「ケラウスさん、どうしたの?」
「この手紙を読んでくれ。お前さんにも関わる話だ」
ケラウスはユートに手紙を渡す。
ユートは畳まれていた手紙を開くと、丁寧な文字が目に入る。
――雷撃の魔法使い ライカ――
――まず、この度は魔法生命研究所から脱走した実験体の駆逐に協力してもらい、感謝している――
――次に、君が送った『エインシアと名乗る人物に導かれた、星の海から来た人間』について――
(そうか、ライカは俺たちの状況について、街の権力者に相談すると言っていた)
宇宙へ行ったりと大忙しで忘れていたが、ライカはユートたちとの接触を報告すると言っていた。その返答がこの手紙である。
――都の星占術士も東の地の異常を感じたと言う――
――我々は、早急に星の海から来た少年に接触するべきだと判断した――
「エドンの都にて待つ――エドン太守『ウエ・マツディラ』」
それは、権力者からの誘いであった。




